変わりたいなら変われよ

私はコンビニに行けなかった。

店員さんが怖かった。

商品を選んで手に取るときは、ずるんと手のひらから商品が落ちてしまったらどうしようとずっと思っていた。落としたらどうなる?そのまま買わなきゃならない?もしかして私が手に取った商品の横の商品が落ちたら?それでも私が払うべきか?いやそもそもその場面を見ている人がいなかったら、黙って商品棚に戻せばいい?いやだけど食品は...

ここまで考え込むともう止まらないので、コンビニの入り口まで行って引き返す。入る勇気がなくなる。どれだけ欲しいものがあっても。だ。

他にも色々心配ごとがあった。

レジは女性の店員じゃないと怖くて(なんで)お会計ができないし、財布の中の残金を前もって確認しないとレジに並べない。

チキンとかアメリカンドック、あと肉まんあんまんとかの温かいとこに入ってるやつは買えない。店員さんの手を煩わせることができない。

コンビニ一つでこんなにいちいち悩んでいた私も、東京駅の乗り換えの途中にあるNewDaysのセルフレジを使うようになってからは世界が変わった。

今年の一月まで働いていた会社は私の家から遠くて、いつもギリギリの電車に乗っていた。東京駅構内を真剣な顔で走っているのは大体私だった(違う)。

お昼ご飯を買わなくちゃと思って、最初は仕方なく寄っていた東京駅構内のNewDays。

セルフレジのあまりの便利さに気づき、感動しているうち、コンビニが怖い場所じゃなくなった。周りはせかせかしてるサラリーマンか外国人ばかりで、いつもそのコンビニは人でいっぱいだったから、自分が店員に見られているという感覚もなかった。

もういける。完全勝利。コンビニへの苦手意識が払拭されていく音がした。

そのときは。


だけど甘かった。

あれは東京であったからよかったのであって、家のすぐ近くのローソンへは絶対に入れないことに気づいた。

コンビニじゃなくても私は、死ぬほど必要な物がないとお店に入れない。

人の目と、自分の無力さからくる心配事が絶えない。こんなの、やっていられないと思った。



変わってやりたい。

要らぬ心配をしてお店に入れないなんて、そんな自分を変えたいと思った。

ということで三連休の初日の今日、ちょっとがんばってマクドナルドへ入ってみよう作戦を立てる。

まず、なんでも後回しにする性格を変えようと思った。

布団を洗いたいとずっと思ってたから、今日は無駄に早起きして布団と枕と韓国で買ったぬいぐるみを洗うことにした。

起きてすぐ、布団の上でぐだぐだすると一生起き上がれないことを知っているので、ぐだぐだしないでとりあえず起き上がってみた。

そうすると不思議で、そのまま布団と枕とぬいぐるみを手に取って部屋を出られた。偉いぜ自分。

洗濯機に詰め込んでスタートボタンを押す。

その間に、洗いたかったジーパンも、手洗いしちゃおう。

万事うまくいく。そんな気がしてきた。偉い自分が好きだ。今日も、多分明日も私は偉い。

ジーパンの手洗い中に、大好きな洋楽を流そう。そうだ、南向きの大きな窓も、開けてこよう。まだ朝早いから、きっと爽やかな風が吹くだろう。

ウキウキした。今日をいい一日にするために必死になれる気がした。

洗濯を全て済ませると、部屋に掃除機をかけた。

さっさと着替えて、日焼け止めを塗って。マスク持った?携帯も、Suicaもある。完璧だ。


あとは、マクドナルドに入るだけ。

隣駅のすぐ前にマクドナルドがある。メニューは電車の中で考える。

今はまた通えなくなってしまったが、少し前までは美容室に通えていたので、そのときと同じように、店員さんとの会話を頭に思い描く。店員さんになんて言えばいいのかを、しっかり練習しないと店には入れない。美容室に行く前の日は一人で一所懸命練習していた。

メニュー名はしっかりと言わなきゃいけない。相手も私もマスクをしているから、聞こえにくいものね。

セットのドリンクは氷抜きにしてもらおう。氷の入った飲み物は得意じゃない。

何度もマクドナルドのHPを開いて、メニューを確認する。メニュー名は合ってる。大丈夫。

ついに駅に着いてしまったので、改札を出て、慣れた足取りでマクドナルドへ向かった。

マクドナルドが見えてくる。二階建ての建物。

そ、その前にトイレ。

鏡で顔をチェック。変わらないいつもの顔です。

よし、もう行ける。


あー、でも、一階の席が空いてなかったら二階へ行かなきゃだ、二階は空いてるかわかんないし、それなら注文する前に二階の席取りするべき?えでもレジを通り過ぎて二階へ行ったら、そのままなにも買わずに二階で居座る可能性もあるからだめってルールがあったりするのかな?でも先に注文して、店内で食べますって言って一階も二階も席が埋まっていたらそれこそどうしようもなくなるし、それなら立って待つのかな?それでもみんな席を空けてくれなかったらどうする?席を空けてくれてもそこが喫煙席とかだったら?あそこのマックは分煙だったよな。私はタバコが苦手だし、無理にそんな席に座るわけにはいかないよね。私の後ろにも席が空くのを待っている人がいたらどうしよう。仕方なく喫煙室でも座るべきかな?もうそうなったら潔く、やっぱり持ち帰りますって店員さんに言う?でもそんなことで店員さんの手を煩わせるわけにはいかないし、多分値段も変わってくるからめんどくさいよね。やっぱそれはだめ....

また考え込んでいた。いつの間にか、引き返していた。

なにをしているんだ。入ればなんとかなるんだ。あそこのマックへは友達と何回か入ったことがあるじゃないか。大丈夫だよ。行けよ。

入ったらこっちのモンだよ。


肩に力が入っている。さっき歩いたばかりの道を歩いている。バス待ちの人たちと目が合う。あの子なにしてるんだろうと思ったんだろうか。

少しお腹痛い。なんでだろうさっきトイレに行ったのに。

電車の運賃がもったいない。なにしているんだろう。


変わりたいって、どれだけ思えば変わるんだろう。

嫌いな自分を変えていきたいって思ったのは自分なのに、どうしてこう何回も自分を裏切っていくんだろう。

もしかして自分なら裏切ってもいいと思ってる?他人じゃないから傷つけても平気だと思ってる?

なにを。

自分こそ一番裏切っちゃいけないのに。自分のことこそ大切にしなきゃなのに。わかっているのに変わらない。

行動に移さなきゃ変わらない。

なにが怖いんだかわからないと言う自分と、人前に立つこと自体が苦しいと言う自分と、会話が成り立たなかったらどうしようと言う自分と、もうこんなことなら今日も諦めちゃおうよと言う自分がいる。

全部正しいのだと思う。だけど私は変わりたい。コンビニもマクドナルドにも行きたい。

行けないんじゃない、行かないだけなのに、ずっと私は、言い訳ばかりしている。


変わりたいなら変われよ。

言い訳する前に動けよ。

人と会話しろよ。

目を合わせろよ。

それが望みなら怖くてもやってみなくちゃ、

それが望みなら。

自分を裏切ることに慣れているのが一番恥ずかしい。

自分なら裏切ってもいいと思い込んでるのが一番情けない。


万事うまくいく。

そう信じていた朝の自分をいつ肯定できるようになる?

今日をいい一日にしてやる。

そう思っていた自分をいつ取り戻せる?

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