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戦闘服は鎧なんかじゃない。


なぜ人は服を買うのか。

身はひとつのくせに、何着も服を買う。
クローゼットはぎゅうぎゅうに詰まっているのに「着る服が無い」と言う。



いざというときに着ていく服のことを
戦闘服」と呼ぶことがある。
闘いで自分を守るための鎧みたいなものだからだろうか。



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試着室で思い出したら、本当の恋だと思う

この本では
登場人物の女性たちがそれぞれ
試着室の鏡を通して
”好きな人の目に映る自分”を見ていた。


彼女たちは、自分の身に起きてきた物事を思い出しながら服を着て、とても厳しく、普段より冷静で慎重な目で自分を見つめる。

年齢による変化を感じて落ち込んだり、自分の好みと好きな人の好みが心の中でせめぎ合ったり。
試着室の中だけ時が止まったかのように
感情や思考がじっくり、ぐるぐる、渦巻き始める。

そこへ、試着室の外から
「いかがですか?」と声をかける、一人の女性店員。

年下に片思いする文系女子、不倫に悩む美容マニア、元彼の披露宴スピーチを頼まれる化粧品会社勤務のOLなど
この本には様々な女性のそれぞれのストーリーが描かれているが
どのストーリーでも、この女性店員が彼女たちの纏った鎧を脱がせ、とびきりの期待や自尊心を サラッと羽織わせていく。

この本のレビューには「こんな店員さんに出会いたいです」という声も多い。


恋をすると、自分が自分らしくなくなって
傷ついたり弱ったり、必死でダサくて
鏡に映る自分が憎くて恥ずかしくて仕方なくて。
いつしか私はそんな自分を嫌いになってしまっていたし
恋愛が下手くそで恥ずかしいからやめようと思っていたけれど
他女(ひと)の試着室を覗いて、気づいた。
恋愛なんてみんな下手くそで、恥ずかしい思いをしながら、それでも本気で向き合ってんだ、って。

彼女たちは、一人の女性店員の接客から
新たな自分を発見したり、自分の変化を肯定できるようになったり
”私、いいじゃん!”という自信
語弊を恐れずいうならば「自惚れ」という最強の武器を手に入れる。

この本の作者、尾形真理子さんが生んだ
数々の”刺さるコピー”(ルミネの広告)が思い浮かぶ。

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ー自惚れるほどの女であれ

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ー自分に夢中になれないと、誰かをまっすぐ愛せない

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ー自分を励ませるくらいには、自分のこと素敵にしておきたい



試着室の鏡に映る自分に、まずは自分が「いいじゃん!」って思えること。それがきっと、何を着るかよりもずっと大切なことなんだろうな。

戦闘服」は、傷つかないための鎧なんかじゃない。

傷ついた帰り道のショーウィンドウに映った姿さえ素敵だと自惚れさせてくれて、自分を励ませるくらい自分を素敵にするための服だ。


本を閉じる頃には、本気で恋して本気で服を選んで生きたい、どうしようもなくそう思える。
恋をしている、恋をしていた、恋をしたい、全ての人に一度読んでほしい。
そんな本です。



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