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慈母の里

こどもの頃に恐れた山里は。

朝は清浄な空気と、日差しに満ち溢れている。
悪いものが寄って来れない、清められて気がいい神社のようだ。

両親やご先祖様のルーツを辿ると。
安定する人がいる。

存在できるよろこびや。
生きる意味を知ることができるからだ。

お父さんやお母さんに。
愛されていると感じられたり。

憎しみがあるときは。
許せるように取り組んでいくと。

葛藤が消えて、道が楽になり。
幸運も舞い込みやすい。

自分は生まれて来ない方が良かったのではと心の奥で思っている場合。

ルーツを辿ると存在理由の痛みが浄化されていく。

両親やご先祖様が。
どのように生きたかを知ることで。

自分を創りたもうた源とのつながりを覚え、愛されて、生かされていると思えるからだ。

特に両親以前のご先祖様を知ると。
無意識に引き継いでいる葛藤が癒やされる。

才能も開いていく。
護られていることを実感できる。

自分を顕すことが怖くなくなるから、さまざまな出会いを呼び寄せる。
良いご縁や、やりたい仕事に恵まれるようになる。

人生が変わった例を、いくつも見てきた。

最近、ふと思った。
母方のルーツを、もう一度調べ直してみよう。

ある日を境に。
目の前に差し出されるものに。
心がこれまでにない反応をするようになったから。

きっとこれは。
家系から引き継いでいる問題が関わっている。

いよいよ向き合うのか。

聞いたことがある人もいるだろう。
準備が出来ると「教師」が現れると。

まるで自分を映し出す鏡のような「教師」と。
ともに行く道のり。

天国へはひとりでは入れないと言うが本当だ。
誰かとともに見るからこそ。
誤解していたことの真実を知る。

鏡には。

これまで決して開けることのなかった扉を。
開けようとしている自分がいた。

古い記憶。
静かに螺旋階段を降りてゆく。

「私の声はあなたとともにどこまでもゆきます。
決してあなたがひとりになることはありません。」

さまざまなことを思い出しはじめた。
記憶の底に、封印していたことも。

「教師」とともに。
ただ、記憶を見る。

他は何もしなくていい。

それだけで。
真実が姿を現す。

閉じ込めていた悲しみは感じる。
それでも慈悲あるプロセスだ。

見るだけで、感じるだけで。
誤解が溶けて。
悲しみの時代が終わっていくからだ。

元々、感受性が強い子だと言われていた。
何かを察知する能力も高かった。

妙に気配に敏感になった。
14歳ごろ。

今思えば。
道のりを歩き出した頃なのだと思う。

あがないの。

誰かいるような気がして振り返ると誰もいない。
時折、雰囲気や空気の違いを感じる。
眉間がチリチリと熱くなり、気持ちが悪くなる。

すごく嫌だった。

同じ頃、学校で倒れるようになり。
登校ができなくなった。
大学病院で、起立性調節障害と診断がついた。

思春期によく起きる、自律神経障害だ。
起き上がれないし、夜しか動けない。

引きこもりのような状態になる。
勉強は手に付かない。
できることがどんどんなくなる。

なぜ動けないのか全くわからない。
ただの怠けだと思っていたか。
母には叱責された。

感情的な母と不仲になった父は。
愛人のもとに行き家を出た。
母は狂ったように泣いていて、家の中は暗かった。

自分の変化も、体調の悪さも、家の状況も。
全てに嫌悪感を覚えた。

眉間が熱くなるのが一番嫌で。
何かで傷つけたら治るかなと思っていたけど。
顔だからという理由で自傷を堪えた。

その代わり、腕を傷つける子になった。
痛みがあると、生きていると思えたからだ。

周りの悪感情が全て、増幅されて感じられる。
控え目に言っても、地獄だった。

自分の殻に引きこもり。
心を閉ざして、決めた。

私は絶対に、扉を開けない。

だけど今。
記憶が徐々に真実に書き変わってゆく。

人生は波瀾万丈で、苦しいことが本当に多かった。

2年前に緊急入院して、生死を彷徨い。
神経が障害されて身体を全く動かせなくなったときも思った。

大好きな人と結婚出来て。
仕事も評価されるようになって。

やっと幸せになれたのに。
なぜ。

民俗文化を扱う番組をたまに見る。
以前、沖縄のユタを取材した番組に出てきた人は。

屈託のないとっても普通のおばさんで。
大変好ましく思った。

偉い人にも、すごい人にもなってしまわない。
でも、神様が大好きなのが伝わってくる。

地に足がついていて現実的であり。
神を取り継ぐシャーマンとして理想だと思えた。

だからこそ。

神を取り継ぐ才能を。
受け入れられるようになるまで。
笑顔の向こうにどんな試練があったかと。

畏怖の念を抱く。

母も普通のおばさんだけど修験の山の生まれで。
母方は先祖代々ずっと同じ場所に住んでいる。

山岳信仰のあるところは。
神秘的な事象に敬意を払われている。

セレモニーホールではなく。
自宅で執り行われた亡祖母の葬式は。
見たことのない独特の野辺送りだった。

この家の人たちは。
ずっとこうやって弔って来たのだろう。

所作ももてなしも。
ひとつひとつが、当たり前に行われ。
戸惑うことがなかった。

非常に儀式的で。
修験道の文脈でなされていたように思える。

民俗学的に非常に興味深い。
私が学者ならフィールドワーク待ったなしだ。

母の実家は、今は空き家になっている。
従兄が手入れや管理をしている。

だけど、家には何がしかがあり。
血は脈々と受け継がれている感覚がある。

子どもの頃からずっと苦手だった。
暗くて怖いとしか、思えないでいた。

ところが最近になって。
私の思っていた世界を、がらっと反転させる事実に行き当たった。

ふと思い立って。
母の実家をgoogle mapで調べた。

山奥にあるけど。
辛うじてgoogle carは通ってくれたらしい。

子どもの頃、母と帰省した家を見ることが出来た。
地図を俯瞰すると、近くにお寺がある。

謡曲にもなっている「紅葉狩」の登場人物、鬼女紅葉(きじょもみじ)の菩提寺と言われている。

鬼と化した「紅葉」(元の名を呉羽、とも)は、平維茂(たいらのこれもち)に討伐される。

いわゆる鬼退治伝説のひとつだろう。
この地の伝説が興味深いのは鬼が女性であること。

正妻の侍女だったが源経基(みなもとのつねもと)の寵愛を受け、子を持つに至った紅葉。

諸説はあるようだが、正妻に嫉妬し、呪い殺そうとして山里に罪人として流される。

平家一門の平維茂に討たれてしまう。

呪殺する心のまま悪事を働いたからとも、紅葉と一緒に流された息子が都に上ろうとしたとき、鬼が攻めてくると誤解されたからとも言われている。

女性が鬼と化す。
鬼子母神にしろ、インドのカーリー神にしろ。

自己嫌悪から凶暴化する女性が象徴的に表現されていると思う。

ヒステリックさ、感情的な態度、攻撃性。

いずれも本当は。
許せない想いに痛む心が隠れている。

しかし、誰かを許したり、愛されていたことに気づけて改心すると。
神様に深く愛される女性になる。

愛を与えて行けるので。
大切な人からも深く愛される。

改心がいちばん難しく感じるだろう。
投影していた罪悪感を取り戻すのと同じだからだ。

ひどいことをしている「あの人」に見る間違いを。
自分こそがしていたのだと気づけたとき。

それでも許され、愛されていたことがわかる。

間違いを認めるとき。
悔しさやみじめさ。
不出来さや未熟さをまざまざと体感する。

だから、人はあの手この手で避けようとする。

だけど、自分が考え違いをしていたなと思えたら。
許し、愛してくれていたことに気づく。

愛を拒絶する態度を取っていたのにも関わらず。

「紅葉慈母観音」として祀られている紅葉。
平維茂に討たれることにより本来の仏性を顕現させ、悟りを開いたと解釈されている。

人の子をとって喰っていた鬼子母神が、自分の子をお釈迦様に隠されて失う悲しみを知り。
諭されて三宝に帰依し守り神になる話と同じ構造だ。

討たれることをどう解釈するかは、人によって違うと思うけど。
「鬼滅の刃」の鬼たちおよび鬼殺隊と同じ関係性を当てはめるのがしっくりくる。

してはならないことを教えられ。
人の道を諭され、隠れていた悲しみを慰められ。
鎮魂が行われたと解釈するのが適切に思う。

お寺には「紅葉慈母観音」の像と、平維茂の碑が合祀されている。

反目しあったかも知れない。
でも、和合の姿がある。

父が愛人のもとに行き。
怒り狂い、時にさめざめと泣く母が嫌だった。

嫉妬のあまり、あまりよろしくないことをしていたのも知っている。
お母さん、それはむしろ呪詛ですよ、みたいな。

母の実家は「紅葉慈母観音」の護りの中、ずっとあり続けている。
戸籍を辿って知ったが、母のご先祖様たちは、同じ場所で生き続けた。

紅葉を討った平維茂も、紅葉の夫の源経基も平安時代の武将だ。
お寺は室町時代後期に開祖されている。

戸籍制度が生まれたのは近代なので。
記録として遡れたのは江戸時代後期までだ。

しかし、ご先祖様たちは。
おそらくもっと古くから同じ山里にいたに違いない。

許すことで罪悪感を溶かしていくごとに。
深い罪科の意識を浄化していくごとに。

女性の愛情はいちばん美しい形で顕れる。

母性という仏性が、あり続ける場所。
慈母の里だと、私は思っている。

今年の大河ドラマでは、平安時代後期から鎌倉時代を扱っている。
非常にナチュラルに呪い殺そうとする姿が描かれている。

私は、修験の系譜に生まれた子だ。
もし前世というものがあるならば。
術者だった思っている。

誰かを呪い殺すことぐらい、してるだろう。

人を呪わば穴二つ。
相手と、自分の墓を掘らないといけない。

返報性の法則と同じで、かけた呪いは同じ強さが跳ね返るという。

しかしそれでも人は許される。

間違っていたことを改めるのは。
単なる借金帳消しではない。

改心して愛する側に回ることで。
本来の才能や生き方が開かれてゆく救い。

間違わない人はいない。
でも、許され、救われる。

愛することで、本当の自分が顕れて。
よろこびを生きられる。

数多の試練は。

間違いを認めて愛されることを許し。
人を愛することを自分に許し。

本当の自分を生きるために自分で決めた、あがないの道。

腹をくくれ、私。
救いはある。

必ず。

善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや。

人を恨むと鬼女になる。
愛を知ることで貴女になる。

呪い殺せるほどの強い力は。
深く人を愛せる力だから。

痛み苦しむ人のこころをともに持つ。
それしか出来ないけど、それはできる。
だって本当は。

愛したかったのだから。

扉が開いていくプロセスは。
慈愛に満ちている。

「教師」になってくれた人が。
後遺症の自律神経症状をどうにか軽減できないかと心を砕いてくれた。

症状はとてもよくなってきている。
救われる。

同時に、肉体の目では見えないものを感じられる能力も高まっている。

神経は、神の経(みち)と書く。
神様の通り道を回復させてくれたのかもしれない。

ありがたい。

恐れはもうない。
愛や安らぎを感じられる。
本当の自分があると思えるからだろう。

ありがたい。

陽の当たる場所では、鬼は本来の姿に還る。
鬼女紅葉が、紅葉慈母観音であったように。

体力は、以前よりずっと落ちている。
出来ないことはもちろんある。
むしろ、出来ないことが多くなった。

だけど絶望しなくていい。
生きてゆく道は必ずある。

南無紅葉慈母観音。
お護りいただいていたのですか。

ずっと昔から。



参考資料

『Wikipedia』「柵村」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B5%E6%9D%91(参照日:2022年3月17日)

『Wikipedia』「紅葉伝説」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%85%E8%91%89%E4%BC%9D%E8%AA%AC(参照日:2022年3月17日)

『Wikipedia』「平維茂」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B3%E7%B6%AD%E8%8C%82(参照日:2022年3月17日)

『Wikipedia』「源経基」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%90%E7%B5%8C%E5%9F%BA(参照日:2022年3月17日)

Sukima信州『マジヤバ!みこもちゃんのスキマな民話巡り』「【第7話】マジヤバ!「紅葉狩り」の鬼女・紅葉伝説〜前編〜」(2021年10月23日)高坂梓、https://skima-shinshu.com/7mikomo/(参照日:2022年3月17日)

Sukima信州『マジヤバ!みこもちゃんのスキマな民話巡り』「【マジヤバ!鬼女・紅葉と平 維茂の伝説〜後編〜」(2021年11月27日)信州さーもん、https://skima-shinshu.com/8mikomo/(参照日:2022年3月17日)

邪神大神宮『紅葉紀行 其之二、柵の里』「イ、大昌寺」高橋御山人、http://jyashin.net/evilshrine/gods/momiji_shrine/momiji_trip0201.html(参照日:2022年3月17日)

邪神大神宮『紅葉紀行 其之三、鬼無里』「イ、松巖寺」高橋御山人、http://jyashin.net/evilshrine/gods/momiji_shrine/momiji_trip0301.html(参照日:2022年3月17日)

株式会社チューリップ企画『1から分かる浄土真宗』「【善人なおもって往生を遂ぐ いわんや悪人をや】の意味」あさだ よしあき、https://1kara.tulip-k.jp/wakaru/2016111279.html(参照日:2022年3月17日)




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