『冬の終わりと春の訪れ』#7
速水先輩は、僕の言葉に納得したようなしていないような微妙な顔をしていた。無理もないだろう。僕だって、曖昧な答えだとは思ったから。
「なんだかお前、少女漫画に出てきそうなめんどくさいキャラだな」
「どういうことですか、それ」
ケラケラと笑う先輩に、文句を言う。なんでこんな微妙な感情持ってたらめんどくさいんだ。もっと興味をなくすか、恋愛感情を持つかの2択しか許されないんだろうか。
「先輩って酷いですね」
「おう、何とでも言え」
僕の考えを読み取っているのか否かわからないが、速水先輩は相変わらず笑いながら製本作業を続けている。口が動きつつ、ちゃんと手も動いているのは流石である。
「ちなみにさ」
「はい」
「もし美佳ちゃんの方が、片山のこと恋愛感情で好きになったらどうすんの」
「はぁ?」
何を言っているのか、この先輩は。
「それこそありえない話でしょう」
僕のことを訝し気な目で見る遠山さんの顔が思い浮かぶ。ついでに引かれたときの顔も思い出した。あんな、世にも奇妙な変人を見るかのような目つきで僕を見る人だ。好きになるなんてことはないだろう。
人として好きになってもらえるとしたら嬉しい。しかし自分で言うのもなんだが、こんな男を恋愛感情で好きになるようなことがあったら、美佳さんこそ余程の変わり者だし、趣味が悪いと言わざるを得なくなる。
「ありえなくはないだろ」
「いや、先輩の目は節穴ですか。僕、顔はよく言って中の中だし、性格だって、自分で言うのもほんとなんですがそんなに優しいタイプでもないし」
「まぁお前美佳ちゃん以外には興味示さないし、基本冷たいよな」
わかってるならなんでそんな変な話を持ち出してくるのか。
文芸部って変な人やっぱり多いんだななんて思いながらジト目で見ていると、先輩はケラケラ笑いながらも「手」と、僕の手が止まっていることを指摘してきた。
先輩が変なことを言い出すから止まってしまっていたじゃないか。慌ててまた手を動かし始める。
「とにかく、変なこと言うのはやめてください」
「へいへい」
その日はそのまま2人で作業を続け、印刷してある分については無事組み分け作業が終わった。
明日は印刷に取り掛からねばならない。そのことが明日来た人にわかるように、そして僕達が忘れないようにメモを残して解散となった。
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