『冬の終わりと春の訪れ』#6

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『文化祭が終わってから、彼とはほぼ毎日部室で話をする仲になった。それはいつも2人でというわけではなく、他に先輩たちが部室に来たときは先輩も一緒に。最初は彼の質問に私が答えるばかりだったのだけど、段々彼自身の話についても聞くようになった。』
『こんなに他人に興味を持ってもらうのは初めてだった。そして私自身、興味を持つようになっていくことに薄々と気づいていた。けれどそれを、認めたくはなかった。』

『だって私には、〝終わり〟が迫っていたから。』

     *    *    *

 ――季節が巡るのは早いもので、夏が終わって秋が過ぎ、冬がやってきた。
 放課後。いつものように部室に来ると、教室の奥、後方に速水先輩の姿があった。

「お、やほー」
「こんにちは」

 速水先輩は自分が僕を文芸部に1番最初に誘った張本人だからか、何かと気にかけてくれている。それに感謝しつつ、荷物を机に置いてから「今日は何やりますか?」と声をかけた。
 最近の文芸部は専ら部誌の冬号作成に忙しいのである。

「今日は俺ら2人だから、ゆる~く昨日印刷できた原稿の組み合わせ作業やってく予定」
「あれ、遠山さんは今日来ないんですか?」

 僕の言葉に、速水先輩は呆れたように笑う。

「お前なぁ、一言目には美佳ちゃん、二言目には美佳ちゃんって。どんだけ好きなんだよ」
「仕方ないです。僕にとって遠山さんの存在はそれだけ衝撃でしたから!」

 拳を握り締めて力説する。先輩は「へーへーお熱いこって」とあまり本気にしていないようだ。僕の蜜柑さんファンぶりには慣れっこの様子だ。

「今回の冬号の原稿も先に読ませてもらったんですけど、もう最高でしたよ! なんで蜜柑さんはあんなに素敵な作品ばかり書けるんでしょうか! 蜜柑さんコレクション作りたい気分です!」
「わかったから、作業するぞー」

 速水先輩は僕の目の前の机にドンっと原稿を置いた。印刷をして半分に裁断されているそれは、ページごとの束になっている。今からするのは、それを実際に綴じるときのページ順に並び替え、まとめていく作業だ。
 速水先輩と手分けして作業を進める。しかし所詮単純作業なので、会話は続く。

「てか、片山はさ」
「はい」
「美佳ちゃんのこと好きなのはわかってるけど、それって恋愛感情とかはないわけ?」

 何を言い出すのか、この先輩は。

「うーん」

 手元を見ながら作業するものの、ちらちらと速水先輩からの視線を感じる。返答がなかなか出ない。見かねたのか速水先輩は「なに、まさかわかんねーとか言うの?」とせかしてくる。

「わかんねーっていうか……人として尊敬してたり、友達として好きなのと、恋愛感情で好きっていうのの違いがよくわからないんですよね」
「はぁ?」
「勿論色んな本で、友情的好きと恋愛的好きの違いは読んだことあるんですけど。だからなんとなくわかるような気はしますよ? 遠山さんは一緒にいると楽しいし、気持ち的にも楽だし、できれば今後もこうやって接してもらえたらなって思います」
「ほぉ」
「けど、キスしたいとかそういう欲はないし、独占欲とかもないし……寧ろ蜜柑さんの作品をもっと沢山の人に知ってもらいたい気持ちが大きいし」
「んあー、それは結局、ファンってわけ?」
「多分そうかと」

 うん。ファン。その言葉が1番しっくりくる気がする。

「だから、僕は今の関係がすごく居心地が良くて、満たされてます」
「なるほどねぇ」


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すみません、本日は中途半端ですがここまでです。続きは#7となります。
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