『冬の終わりと春の訪れ』#8

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『刻一刻と〝終わり〟が近づいてくる。それは私自身を焦らせていた。』
『彼にこのことを告げようか。けれど、告げた後にどうすればよいのかも、どうしたいのかすらわからなかった。そう考えたら逆に、告げたくないような気もしてきた。』
『このまま時が止まればいい。そう思った。』

     *   *   *

「美佳ちゃんと片山君はクリスマスどうするの?」

 部長にそう聞かれたのは、明日から冬休みというタイミングだった。冬休み前の修了式が終わった後、いつものように部室に集まっていたときのことである。
 僕と遠山さんが話していたところに部長を含む3年生3人――部長、速水先輩、葵先輩の3人である――がやってきて、そう聞かれた。

「特に予定はないですけど……」
「私もです」

 僕ら2人の答えに、葵先輩が「よし!」と満足気に頷く。

「じゃあ一緒に遊びに行こう!」
「え、」

 突然の誘いに驚きに固まる僕らをそっちのけで、葵先輩は「楽しみ~! じゃ、私それだけ確認したかっただけだから帰るね!」と教室を出て行ってしまった。嵐のような人である。

「先輩たち、受験勉強は良いんですか……?」

 仮にも受験生の筈なのだが、他の3年生は別としてこの3人は冬号の製本作業にも関わっていたし、大丈夫なのかと心配になってくる。一応引き継ぎはしてあって2年生が正式には部長になっているのだが、3年生部長であった古川先輩がこの調子なので、未だに古川先輩の呼び方が部長で定着しているのである。

「実はその日模試なのよ。だから遊びにって言っても模試が終わってからの夕方からになる」
「ただでさえクリスマスに模試っていうのが嫌だし、終わった後にまた勉強っていうのもやる気が出なくてねー、ここは付き合ってよ」

 先輩たちがそれでいいならいいのだが。僕は特に予定も入っておらずこのままだとクリぼっち確定であったので、「先輩たちが良いなら僕は是非……」と、返事をしてみる。
 しかももしかしたらこの流れだとクリスマスに遠山さんとも過ごせるということである。冬休みに入って一度も会えないというのは少々嫌だったので、この誘いは僕にとってはぶっちゃけ万々歳だ。
 そしてその遠山さんはというと、

「あー、……じゃあ、私も」

 少々間があってから、そう答える。

「おー、良かった! じゃあ今から計画立てちゃおうか、葵には私から後で連絡入れとく」
「俺行きたいラーメン屋あるんだよね」
「え、クリスマスにラーメンですか?」

 古川先輩、速水先輩、遠山さんが各々当日のことを楽しみに話し始める。僕もその会話に交じりつつ、少しの疑問が頭の中を過っていた。

 ――さっき、誘いの返事に間があったとき。少しだけ、遠山さんの顔が曇っていた。
 本当は行きたくなかったんだろうか。けれど、その後の行き先を決める話し合いの中では終始笑顔で。楽しそうで。僕の疑問は、その日帰るころにはすっかりと消えていた。

 このときの僕は、遠山さんが何を考えているかなんて、わかっていなかった。
 あれだけ日々一緒に過ごして会話をしていたのに、何もわかっていなかったのである。


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