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分かった気になれる損保会計⑧(資産運用等損益)

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今回は、損害保険会社における「資産運用等損益」の実態について触れたいと思います。そもそも、短期契約が多数を占める損害保険会社においては、生命保険会社ほど積極的な資産運用をする必要が無く、足元では政策保有株式だらけになっている点についても説明します。

損害保険会社における政策保有株式の実態

以下記事のとおり、「損害保険の内容は各社で大差が無い」という性質もあり、損保各社は「どれだけ客先の株式を持てるか(忠誠心を示せるか)」で勝負を強いられてきた実態にあります。

上記リンク先最下段で各社の資産状況を示していますが、そのなかで総資産の25%程度を占める「政策保有株式」は、持っているだけで「配当金」が毎年転がり込んでくるので、これが資産運用等損益の大きな収益源となっています。

いずれにせよ、「保険契約と引き換えに、客先の株式を無理やり買うことを強制させられた(買わせていただいた)」歴史が長く、自ら主体的に資産運用をしているようなものではありません。


損害保険会社における子会社株式

次に、損害保険会社(単体)の資産運用損益を「カサ上げ」している「子会社株式(海外子会社株式)」について触れたいと思います。この「子会社株式」は損害保険会社の総資産の25%-30%程度を占めており、政策保有株式と同等の存在感がありますが、これは一体何なのでしょうか。

ここで、企業買収においては、一般に当該会社の株式を買い占める形態をとります。

このように、親会社が子会社の株式を保有することで、連結グループを形成します。しかし、損害保険会社における連結構造については、以下のように一般的なイメージとは異なる状況にあります。

これは、何か悪い意図がある訳ではなく、持株会社の東京海上HDよりも、東京海上日動の方が手元資金を多く保有しているといった背景もあり、東京海上日動が買収資金を拠出し、東京海上HDではなく東京海上日動が海外子会社の株式を保有する形態をとっています。(いわゆる「孫会社」形式)

現在、東京海上日動が保有する海外子会社株式については、少しずつ東京海上HDに移管をしているのですが、税制の関連もあって、一気に移管をすることもできません。このような背景から、子会社の東京海上日動が海外子会社株式を大量に保有している状況にあります。


連結グループにおける配当金の流れ

一般に、連結グループにおいては、各子会社から「配当」を吸い上げて、それを投資家に分配する構図をとっています。

しかし、損害保険会社においては、上図のとおり東京海上日動が海外子会社株式を保有しているため、一旦は東京海上日動を経由して、東京海上HDが配当金を吸い上げる構図となっています。

ここで、連結財務諸表において、このような配当金はどのように対処するのでしょうか。これは、連結グループ内でお金を動かしているだけであり、同じ財布の中でお金を付け替えているに過ぎないので、連結会計上は「何も無かった(≒認識しない)」という対応になります。


しかし、東京海上日動(単体)の財務諸表ではどうでしょうか。この点、海外子会社からの配当を「資産運用等損益」として認識するのです。

このように、東京海上日動は東京海上HDへ配当金をスルーパスをしているに過ぎないのですが、このスルーパス配当金が「資産運用等損益」に組み込まれており、特に海外子会社を多く持つ東京海上グループにおいては、他損保と比較して子会社配当により「資産運用等損益」が膨れ上がりやすい構図にあります。

なお、東京海上日動から東京海上HDへの「支払配当金」は費用として認識をしません。細かな説明は省略しますが、配当金の支払は「留保利益の処分」といった観点から、このような対応となっています。そして、上図のように東京海上日動が子会社配当を東京海上HDへスルーパスをした場合、手許には何も残っていないにもかかわらず、子会社からの受取配当金(収益)だけ損益計算書に計上され、見せかけの利益がカサ上げされることになります。


資産運用等損益を分解する

それでは、政策保有株式と子会社株式が「資産運用等損益」でどれほどの存在感があるか2021年3月の期末決算で確認をしたいと思います。

主要項目だけ抜き出し、かつ推計値も含まれているのですが、全体を俯瞰するうえでは十分だと思います。表面的な「資産運用等損益」だけを見ると、「損害保険会社は資産運用会社だ!」と言いたくなりますが、実態としてはどうでしょうか。

上図のとおり、資産運用に関する利益のほとんどは政策保有株式関連と子会社配当関連ですね。結局は、政策保有株式と子会社株式が多いほど、損保各社の「資産運用等損益」が膨らむ構図にあるので、資産運用等損益だけを以って「損害保険会社は資産運用会社だ」とは言えないと思います。

(ご参考)
上図では「上記以外」でまとめましたが、東京海上日動は資産の一部を米国のDelphi社に運用委託をしており、そこで200億円くらいは稼いでいるかな。とはいえ、為替のヘッジコスト等を加味したら、もう少し利益は減るかも。いずれにせよ、大した資産運用はしていないので、政策株と子会社株の収益に比べたら「その他」程度でしかない。

今回はこれで以上です。見た目の「資産運用損益」を分解すると、損保各社は大した資産運用をしていないことが見えてくるのではないでしょうか。

次回はこれまでのまとめにしたいと思います。

(続く)

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