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「浪のしたにも都のさぶらうぞ」展2023/6/3-9/3YCAM山口情報芸術センター 1/2

メディアアート作品です。台湾の3人のアーティストとYCAMの共同制作。
9/3が展覧会最終日でした。
見ごたえあり大変に面白い作品でした。作品の感想を書きます。
※作品は撮影録音禁止だったため、作品の画像はありません。

1 作品の基本情報

タイトル 「浪のしたにも都のさぶらうぞ」
制作 許家維+張碩伊+鄭先喩+YCAM 
展覧会期間 2023/06/03〜2023/09/03
会場 山口情報芸術センターYCAM (山口県山口市中園町)

台湾を拠点に国際的に活躍する許家維 (シュウジャウェイ)、張碩伊 (チャンティントン)、鄭先喩 (チェンシュンユウ)。この3人のアーティストは、共同で日本統治時代の台湾における砂糖産業を起点に、台湾と日本の歴史的関係や近代化の記憶をたどるプロジェクトを行っています。

展覧会チラシより
トークイベントの配布資料
作品の概要はこちらをお読み下さい

展覧会は二部構成でした。
第一部 ≪等晶播種≫ 映像インスタレーション (上映時間32分15秒) 
第二部 ≪浪のしたにも都のさぶらうぞ≫ 
映像インスタレーション + ライブパフォーマンス (上演時間36分)

 ≪等晶播種≫を受けて、新作の ≪浪のしたにも都のさぶらうぞ≫が作られています。
会場を出たところのロビーに、作品の映像に出てくる言葉、事物について、脚注の示説展示が設けられていました。項目を記します。 

どれも、ネットで検索すると興味深い記事が複数出てきます。
展示にあった脚注を二つだけ紹介します。

等晶播種 砂糖の精製過程で結晶化の工程を指す台湾語。糖液を真空結晶缶で濃縮し種糖(シード)を加えて大きく育てる。作品のタイトルはこの工程名から作られている。

展覧会示説展示より

虎尾 台湾西南部雲林県のほぼ中心に位置する虎尾(フーウェイ)鎮は、約7万人の人口を有する雲林第二の行政区である。日本統治時代の1909年に大日本精糖(現在のDM三井製糖)が工場をたて、これを機に交通インフラが整備され町は大きな発展を遂げた。(中略)アジア太平洋戦争中に、飛行場や軍用燃料をつくるためのアルコール工場といった軍事施設があったために米軍による壊滅的な被害を受けてしまった。また虎尾には海軍航空隊の基地の虎尾飛行場や特攻隊の宿舎もあった。戦後には、産業の転換と精糖業の衰退により虎尾は長期にわたる経済不振や人口流失といった問題を抱えてきた。しかし近年、高速鉄道駅の開業や半導体産業が集積する特区の完成に伴い、再び、昔日の活力を取り戻しつつある

展覧会示設展示より

2 作品の感想

 ここからは、私の個人的考察と感想です。
二つの作品は映像に共通する要素があり、自分なりに対応を簡単に整理してみました。見逃している要素や、分類が違うところもあるかもしれません。

2-1 第一印象は

 ≪等晶播種≫のほうが、インパクトがあり面白いと感じました。
≪浪のしたにも≫は、あまりにも色々な要素が盛り込まれすぎて、制作者側のテクニックを見せることが目的になっているのでは、というのが正直な第一印象。

≪等晶播種≫の感想は以下の通りです。
 作品の中で、布袋戯という人形劇が演じているのは「鞍馬天狗」のお芝居。日本統治下の台湾で、皇民化政策推進と戦意高揚を目的に、日本の演目を強制的に上演させられていたという事実を踏まえて、この作品用に創作されたとのことです。
 映像の中では、人形だけではなく舞台裏の人形を操る人達や、劇を盛り上げる楽器伴奏者にフォーカスが合っています。「操る-操られる」「支配する-支配される」の関係が強調されて、両者は切り離せない運命共同体、一心同体のもの、という印象を受けました。
 そして、作品の冒頭から、虎尾糖廠の旧工場内や周辺を撮影したり録音するスタッフの姿が映し出されます。
また人形劇中に、カメラマンと録音技師の人形が登場して、鞍馬天狗のお芝居を撮影しています。
記録する事から歴史が始まるというメッセージを感じました。

 廃屋になった工場内での、余若牧による様々な道具を楽器として使った演奏パフォーマンスも素晴らしく、とくに最後の方では米軍の空襲を彷彿とさせる迫力を持ち、アート作品としては ≪等晶播種≫ の方が上ではないか、と思いました。

 しかし、会場を出て、ロビーの脚注展示を一つ一つ読むうちに、この作品は近代以降の台湾と日本の歴史を知らないと面白さが分からないようだと思いました。そして、多少は勉強しようと本を何冊か読みました。

→ 前回記事【読書感想】台湾の歴史と日本の関係を考える本8冊|やむやむ (note.com)

 YCAMの方でも、会期中、アーティストトークや台湾に造詣の深いゲストを招いたトークイベント、台湾のインディーズバンドのライブ、台湾を舞台にした映画上映など、作品の理解を深めるために、様々な催しが開催されていました。
 全部参加して、予習復習したら相当の学びになる、しかも無料で (映画、
音楽ライブは有料ですが)・・・。と思いつつ、私が参加できたのは、公開初日のアーティストトークと、8/6の台湾在住のライター栖木ひかりさんのトークイベントの二つだけでした。栖木ひかりさんのコラムは、noteでも読めるものがあります。
旅に効く、台湾ごよみ|ほんのひととき|note

2-2 しかしよく見てみると

 数冊、一般的な日台関連の書籍を読んだだけでも、作中にこれでもかと詰め込まれたように見える「浪のした」の物語ですがそれでも全然足りないという事がわかりました。政治、産業経済、そして一人一人の人間に関わる膨大な数のエピソードが厚みと重みを伴って、過去から現在に至るまでの日本と台湾の間に存在しているのでした。
この「情報量の多さ」を表現したかったのかと思いました。
 
 ここで少し作品の説明すると、この作品では「浪のしたにも都」の世界がVRで構築されています。
しかし鑑賞者がVRゴーグルをつけるのではなく、舞台上のパフォーマーがゴーグルを装着して、パフォーマーが見ているVRの世界が、スクリーン上に映し出されます。同時に、パフォーマーのアバターがVRにいる映像も別のスクリーンに映されています。さらに別のスクリーンにも上記表にある事物が映されていきます。
鑑賞者は、目まぐるしく変わるスクリーンの映像を3枚分見て、さらに舞台上のパフォーマーの動きも見なければなりませんでした。加えて、意味ありげなナレーションとテンポの速い楽器演奏が迫力ある音響で流れていて、見る者に緊張感と作品への集中を強いてくるようでした。

 この目に入ってくる多くの映像とそれが表す多様な物語、耳から入るナレーションとサウンドという頭の中で処理しきれないぐらいの多くの情報が、スクリーンと舞台とVRからなる展示空間に満たされていて、それがそのまま日本と台湾の間にある広く深い海洋を感じさせる。そして、それは両国間の【人の営み×膨大な年月=歴史】を象徴している、そんなことを感じました。歴史の個々のエピソードというよりも、歴史そのものが感覚的にわかる、そこが大変に面白いと思いました。

◇◇◇
写真は、作品に出てくる舞台です。
北九州市門司区清滝にある三宜楼(さんぎろう)。かつての料亭です。
アジア太平洋戦争中の軍需景気に沸いて隆盛した時代の門司の、象徴的建造物の一つです。
ここで文楽人形のアバターが男性から娘姿になり、海水で満たされて浪の下へ沈むVRが重ねられていきます。

かつて財界人の社交場であった三宜楼
毎晩のように大小の宴会が開かれた
有名芸能一座の興行も打たれた
舞台から広間を見たところ 百畳敷と呼ばれた大広間
JR門司港駅から徒歩15分くらい 少し登り坂です
玄関から
料亭らしい洒落たデザインの下地窓
電話室


大小15の部屋がある
帳場の事務机
2階の厨房 
多くのお膳が運ばれたことでしょう
窓からの眺め 門司港をみおろす

  次回記事に続きます。
次回は 2-3問いかけを考える 2-4一つ言わせて下さい
https://note.com/yamyam5656/n/n0062fbdf71cb



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