どこまでいっても人は自分から逃れられない。映画「山歌」
人は誰でも、それぞれの道が正しいと思って進んでいく。しかし、自分が正しいと思って歩いてきた道が、誰かの不幸につながっている。そんなふうに考えたことはあるだろうか。山歌は一歩立ち止まり、多様な視点をもつ大切さを教えてくれる映画だ。
STORY(ストーリー)
主人公は受験を控える中学生則夫。父親から「お前は他の子とお前は違う。とにかく勉強しろ」プレッシャーを受け、追い詰められていく。
そんな日々の息苦しさをまぎらわせように川を訪れたとき、流浪の民・サンカ(山窩)の男と出会う。サンカは町とは一線を置き、山の中で移動しながら暮らす人々のこと。則夫はサンカの得体の知れなさに恐怖感をいだく。しかし、則夫は川で渓流釣りを教えてもらったり、家族が暮らすテントに招かれたり、会話を重ねる中でサンカの家族に少しずつ心を開いていく。
男には娘がいてハナという。はじめ、ハナは則夫に対して壁をつくる。「なぜ、私たちは麓の村ではゾンザイに扱われるのか。麓のやつらなんてしょうもない」と。しかし、そんなハナも則夫との会話を経て少しずつ心を開いてく。
そんな山の暮らしに夢中になっていく中、則夫は自分の父が山を切り開きゴルフ場をつくる計画をしていることを知ってしまう。このままではハナ達は山を追われてしまう。
皆に守るべき正義がある
主人公紀夫の父はゴルフ場の再開発計画に携わり、村の繁栄を後押しする。一方、ハナは山の中での暮らしを守っていきたい。サンカが山で暮らす中、守るものは何なのか。
戦後、日本人が生きるための経済発展。何が正しい道なのか。ゴルフ場の開発は自然破壊にみえる。しかし、そこで暮らす人々には仕事がうまれ豊かになる。暮らす人々にとってそれぞれの正義があって、きっと正解はない。
葛藤をいだく過程に価値がある。自分の正義をつらぬく。それは逆説的に、他人を理解し、話し合うことの重要性を説いている。結果的に自分の守りたかったものは守れないかもしれない。けれど守ろうとしたその過程に生まれた葛藤は必ず人の心にのこる。
「映画を作ることで自然にかえる」 監督・笹谷遼平
山歌の世界観を作り込むサウンド
「何故、こんなに映画の世界観に引き込まれたのだろうか」と考えたとき、もっとも印象に残ったのは映画のサウンドだ。
立体的で没入感を生む音楽が、山の得体のしれなさや山の神秘さを表現している。そこに厚みを出すのが絶妙に手入れがされている山の美しさだ。
荒々しさと美しさを表現した映像の美しさ。そして衣装にまでも拘って、「山で暮らす人々ってこんな服を着ているのだろうな」の世界観を見事に表現。
この細部に至るまでの作りこみが自分がまるで主人公の則夫の視点で見ているかのような臨場感のある風景を見ることができる。
まとめ
あっというまの1時間半だった。山の緑や川の神秘、山の恵で生きてきた人が追い詰められていく葛藤、自然の美しさと不便さ、仕事、経済など、複雑に絡みあって人間の心理を見事に表現していた。
この映画をみるまで、山で暮らす人々が実在したなんて知らなかった。雨の中で踊る演技は、雨が自然からの贈りものであることを感じさせる。
めっちゃ面白かった!!映画館でみるべき、おすすめです。
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