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カラスのガナッシュ *超短編童話*

ある森の奥に、一羽のカラスが住んでいた。カラスの名はがナッシュ。

ガナッシュは木の実が好物。でも、木の実は殻が固くてくちばしで突いてもなかなか割れない。春のある日、ガナッシュは良い方法を思いついた。それは偶然だった。

いつも休憩する椎木の枝で、ガナッシュが昼寝をしていると、なにやら下の方でパーンと音がした。
なんだろう?と行ってみると、大きな四角いものが早いスピードで道路を走りぬけていった。しばらくしてまた同じような四角いものがやってきた。
ガナッシュは道路のわきで様子を伺った。今度はパリーンという音がした。音の方を見ると、四角いものが通ったと同時に木の実が割れてピューンと殻がとんでいくのがわかった。

ガナッシュは一日中道路を観察してみた。そしてわかった。あの大きな四角い動くものの下に木の実を置いておけば、その上を四角いものが通ったときに殻が割れて、実を食べられるということが。
次の日からガナッシュは、木の実を探し集め、その道へやってきては、四角いものに割らせた。

ある時、その様子を四角いものの中から見ているものがいた。人間だ。その人間はガナッシュを携帯電話で撮影し、動画サイトに投稿した。
「木の実を車に割らせる面白いカラスがいるぞ」
たちまちガナッシュは大勢の人間に知られることになった。
動画のアクセス数はうなぎのぼり。新聞社、テレビ局、youtuberが取材にやってきた。全国にガナッシュが木の実を割らせる姿が放映されると、今度は観光客がたくさんやってきた。ガナッシュの「木の実割り」が見たくて、胡桃をわけてくれる人間も出てきた。

夏になるとガナッシュは木の実を探すことを辞めてしまった。なぜなら多くの人間が、毎日たくさんの胡桃を分け与えてくれるからだ。
噂を聞きつけた他のカラスたちも、おこぼれにあずかろうと集まってきた。彼らも木の実割りを覚え、毎日カラスの木の実割りショーは続いた。
カラスの数が増えると、人間の与える胡桃が足りず、観光客のこぼしたお菓子を拾い食いする者も出てきた。拾い食いするお菓子でも足りないと、人間がもっている荷物を突くカラスも出てきた。すると観光客たちは、カラスが怖いと言い出した。そして、胡桃も分け与えてくれなくなった。観光客はだんだんと減っていった。
とうとう観光客はその道を訪れなくなり、四角いものが通る数も減っていた。他のカラスたちも去っていった。

秋がやってきた。
ガナッシュは再び木の実を探し始めた。ずっと胡桃をもらっていたので、どうせまたもらえると思って蓄えておかなかったためだ。

あるどんよりと曇った日のこと、寒い森の中、ガナッシュは冷たい土を掘って必死で木の実を探していた。夕方までかかってやっといくらかの木の実を見つけたが、その実は凍っていてとても固かった。ガナッシュは急いであの道へ向かった。しばらく待っていると、一台の四角いものがやってくる音がした。ガナッシュは木の実を道の上に置き、椎木の枝へ戻って上から見張った。そしていよいよ四角いものがやってきた。
パーン。
木の実はみごとに割れて、中からほんのわずかな実がこぼれ出た。
やった!
ガナッシュは大喜びですぐさま枝から飛び立ち、木の実のもとへ舞い降りた。次の瞬間・・・。

ガナッシュの体は大きく跳ね上がり、扇を描いて道端へ投げ出された。さっき来た四角いものの後からまた別の四角いものがきていたのだ。ガナッシュは通りの脇で体をヒクヒクとさせ、横たわっていた。少し先の方で四角いものは止まり、中から人間がひとり降りてきた。
「なんだ、カラスか・・・」
人間はガナッシュをちらりと振り返ったが、ふたたび四角いものに乗り込み行ってしまった。やがてガナッシュは動かなくなった。

高い空からちらほらと雪が降り始めた。白い雪はガナッシュの上に降り注ぎ、すっぽりと小さな黒い体を覆ってしまった。更に雪は降り続けた。夜が過ぎても。次の日も次の日も降り続き、やがて道路もすっぽり覆ってしまった。しばらくはこの道を四角いものは通れないだろう。おそらく人間も歩いて通らない。

静かで長い山の冬が始まった。


エピローグ

カラス色鉛筆球体(森のカラスは) - コピー

森のカラスはこう言った

木の実がある ねずみがいる

街のカラスはこう言った

やきそばがある ピザがある

ないて ないて ホーホケキヨ

春の色づく街の中

ウグイス鳴いたと 頬緩ませる人の上

漆黒の翼を広げ 大きく羽ばたくその姿

愛でる者なし

***

見出し画像:カラス *イラスト*
挿絵:カラスと球体 *イラスト*

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