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6年生 授業実践「卒業の感謝の気持ちが『伝わる』映像をつくろう」〜柏市立逆井小学校の実践から④

F.ラボアンバサダーの高村ミチカです。小学校教員を11年経験後、現在はフリーランスライター/編集として活動をしています。元教員だからこそ、学校と学校の外側をつなぐ学びの結び目のような存在でありたい。「本物の学び」を引き出すお手伝いをしたい。そんな思いで、F.ラボアンバサダーを務めています。

私が担当する記事では、各学校での実践を通して、<Film Education>の魅力についてたっぷりとお伝えしていきます。学びの輪が全国に広がっていきますように。


映像制作を活用したクリエイティブな学びをつくるヒント〜柏市立逆井小学校の実践から④

逆井小学校で行った<Film Education>の実践を通して、映像制作を活用したクリエイティブな学びを作るヒントをお届けする本シリーズ。

第1回 夏休みの職員研修
第2回   費用や機材の準備
第3回   授業実践(5年生)
第4回   授業実践(6年生)

前回は、5年生「学級の魅力が『伝わる』映像をつくろう」の授業実践について。<Film Education>を通して、相手や目的に合わせて表現を工夫することや、仲間と協力しながらより良い表現に高めていくことを学んだ子どもたちのお話でした。

▼前回の記事はこちら

最終回は6年生の授業実践。当時6年生を担任していた大橋亮伸先生に授業の詳しい流れについて教えていただきました。


当時6年生を担任していた大橋亮伸先生。笑顔が素敵!!


6年生「卒業の感謝の気持ちが『伝わる』映像をつくろう」

教科・領域:総合的な学習の時間
単元名:「卒業の感謝の気持ちが『伝わる』映像をつくろう」

ねらい:
・相手に分かりやすく「伝わる」映像を作るために、より良い表現を考えるという活動を通して、情報活用能力を育成すること
・情報は制作者の意図があって撮影・編集されたものであることを理解し、良き発信者となる「デジタル・シティズンシップ」を育むこと

目標:
・お世話になった人に感謝の気持ちが伝わるために必要な情報は何かを吟味し、取捨選択をすること
・お世話になった人に感謝の気持ちが伝わる映像にするため、情報を関連付けながら整理をし、非言語表現を活用しながら工夫して表現をすること
・他者との協働を通して、どうやったらより「伝わる」表現になるのかについて考えを深めること
・主観的な表現と客観的な表現との違いに気付き、俯瞰の視点で事象や人物を捉えること

映像表現には、表情や間 、音、視点の変化など非言語表現を取り入れることで効果的に相手に伝えられる良さがあります。「伝わる」映像に、固定化された答えはありません。「どうしたらもっと良い表現になるのだろう」と、試行錯誤しながら学びを深めていくことができるのです。

6年生の授業では、卒業に向けて「これまでお世話になった人に感謝の気持ちが伝わる映像を作る」ことをゴールにすることで、子どもたちが「どうやったら相手に伝わるのだろう」と思考するきっかけを作りました。

また、映像は児童にとって身近なメディアですが、ただ消費者として情報を鵜呑みにしてしまうことも多いのではないでしょうか。映像を編集するという体験を通して、制作側の意図があって撮影・編集されていることに気付き、良き発信者となる「デジタル・シチズンシップ」を学ぶことが、これからのデジタル時代にとって大切なことだと考えています。

時間数:
山﨑カントクの授業は、2コマ×3=6コマ。
それ以外に12コマ程度、学級で撮影と編集の時間を確保しました。
1/24:キックオフ 2コマ 
撮影+編集(学級で)
2/17:中間発表会 2コマ
撮影+編集(学級で) 
2/24:発表 2コマ

実際の映像成果物:
お世話になった人に向けて感謝の気持ちが伝わるような映像。インタビューとメッセージを伝える映像を組み合わせた、1人1分半から2分ほどの作品。Chromebookを持ち帰り、それぞれの家でも映像作品を披露しました。


映像を作ることが目的じゃない。見た人をどんな気持ちにさせたいかをじっくり考える


卒業を控えた6年生。これまでお世話になった人に感謝の気持ちを伝えるために、何かできることはないか考えた時に辿り着いたのが「映像表現」でした。

「よし!映像を作るぞ」と、勢いで始めてしまうと、映像を作ることが目的となってしまうので、どんな映像にしたいかを考える時間を大切にしました。

ポイントは、
・誰に伝えたいか
・見た人をどんな気持ちにさせたいか
・どんなアクションを起こして欲しいのか
を明確にすること。

このゴールを明確にしておくと、編集をする際のヒントとなります。映像表現に慣れてくると、子どもたちは音楽を入れたりテロップを入れたり必要以上の装飾をするように…。そんな時「この映像は何のために作っているんだっけ?」と立ち戻ることで、相手に「伝わる」映像作りを意識することができるのです。


実際に授業で使用したワークシート(一部)


・お母さんが喜ぶ気持ちになってほしい
・「ありがとう」って言ってもらえる
といった内容から、
・気分が良くなって、唐揚げを作ってくれる
・うれしくなって、お小遣いをアップしてくる
といった子どもらしい内容まで、目的はさまざま。

肝は、具体的に書くことです。「大好き!」「ありがとう!」だけじゃない、自分だからこその思いを言語化しておくと、その後の構成を考える時に役立ちます。

例えば、「気分が良くなって、唐揚げを作ってくれる」ことをゴールにした子どもは、インタビューのやり取りで「お母さんが作ってくれる料理で唐揚げが一番好き」という話をあえて入れるようにしていました。


声も表情も。インタビュー撮影は、「伝わる」映像にするための素材集めの時間


大まかな授業の流れは、5年生と変わりません。

まずは山﨑カントクから基本的な撮影のテクニックを教わり、撮影や編集作業をグループごとに分かれて行ってみる。そして、でき上がった作品について、プロの視点でフィードバックをもらい、作品をさらに改善していく。というような流れです。

詳しくは、5年生の授業実践の記事をご覧ください。

▼5年生 授業実践「学級の魅力が『伝わる』映像をつくろう」〜柏市立逆井小学校の実践から③


6年生で特に力を入れたのは、インタビューの時間です。

3人1組で役割を分担

インタビュー撮影は、インタビューを受けるゲスト、話を聞きながら進行するインタビュアー、構図を決めて録画をするカメラマンの3人1組で行います。実はこの中で1番難しいのは、「インタビュアー」。ゲストの話や表情を引き出す重要な役割です。

今回の授業では、1人のゲストに対しインタビュアーとカメラマンが交代して2回インタビュー撮影を行いました。複数回行うことで、質問の視点が変わり、内容がより深まるだけでなく、ゲストの表情や動作など非言語表現の材料を集めることができるという良さがあります。

例えば、悩んでいることを伝えたい時には、インタビュアーの質問に対してスラスラと答えるよりも、少し沈黙してからゆっくり話し出す方が内面の気持ちが伝わる感じがしませんか。内容だけでなく、声や表情のバリエーションがあると、より映像表現の幅に広がりがでます。

もちろん補助的な説明をテロップにして文字情報で載せることもできますが、視聴者は文字を目で追うようになってしまいます。映像で「伝わる」ようにするには、声や表情といった非言語表現を活用することが大切なのです。


主観的か客観的か、視点を意図的に切り替える


撮影をしたら、次は編集。3分×2回、合計6分ほどのインタビュー映像を元に、1分半〜2分ほどにまとめていきます。

編集の時に大切なのは、最初のワークシートで整理した

・誰に伝えたいか
・見た人をどんな気持ちにさせたいか
・どんなアクションを起こして欲しいのか

に立ち返ること。情報を取捨選択肢したり並び替えたりして、より相手に「伝わる」表現を目指していきます。

さらに、今回は、客観的な表現と主観的な表現の2つを意図的に組み合わせることに挑戦しました。

まずは、インタビュー映像を活用して、ドキュメンタリー風に家族への思いを語るカット。

インタビュアーを向いて、真剣な眼差しで質問に答える


次に、最後にカメラ目線でメッセージを伝えるカット。

カメラ目線で、お家の人に思いを届ける

あえてこの2つを組み合わせることで、意図的に視点を切り替える経験を子どもたちにさせたいという思いがありました。

普段子どもたちが親しんでいるYouTubeやTikTokなどの作品は、主観的な表現が使われており、一方的な情報発信になっています。その表現方法自体が悪いわけではないのですが、一辺倒になるのではなく、意図的に使い分けられるかが大切です。

相手や目的に合わせて、客観的な表現と主観的な表現を選ぶ。
自分の意図によって、主観と客観を行き来する。

すると、俯瞰の視点で事象や人物を捉えることができるようになってきます。また、普段見る映像がどんな視点でどんな意図で撮影・編集されているのかを意識することにもつながります。まさに「デジタル・シティズンシップ」教育です。


客観的か主観的かという視点を明確にした板書


<Film Education>を終えた子どもたち。卒業式のムービー作りも自分たちで

完成した作品は、子どもたちがそれぞれ端末を持ち帰って直接お家の人に見てもらえるようにしました。保護者の方からは、普段なかなか知ることができない学校での子どもの様子が見れて良かったと、感謝の声が寄せられました。

また、<Film Education>の影響は、思わぬところにも。卒業式の日に、子どもたちが自分たちで制作した思い出ムービーを披露してくれたのです。

3学期の係決めで卒業に向けて思い出を作る係として誕生した「青春係」が制作を担当。最初のイメージは、スライドでクラスの思い出を伝えていくようなイメージだったようですが、<Film Education>を終えて「せっかくだから映像にしよう!」となりました。

印象的だったのが、長縄をしているシーン。その中で、なかなかうまく跳べない子をサポートしている瞬間を捉えて編集をしていました。目立つ子や活躍している子だけでなく、普段はなかなか目立たない子にもちゃんスポットを当てている。これって、クラスの思い出が「伝わる」映像にしたい、という目的があるからこそできることだと思うのです。


子どもは大人の想像を超えていく。
<Film Education>をあなたの学校でも

授業を振り返って、大橋先生は次のように話をしてくれました。

「最初の頃、正直映像制作ってハードルが高そうと思ってました。でも実際やってみると、子どもたちがこちらの想像をどんどん超えていくんですよね。大人より子どもたちの方が柔軟に新しい物をどんどん取り入れていく。音楽の入れ方をマスターしてきた子もいましたね。ただ一方で、とにかく音楽を入れようじゃなくて、ちゃんとその音楽が必要かどうかまで考えている。そんな子どもたちの姿を見て、純粋にすごいなと思いました」

大人の想像を超えていく子どもたち。
「これってどうやるの?」
「もっと良くするにはどうしたらいいかな?」
と、子どもたち同士主体的に学び合う姿がたくさん見られたそうです。


より「伝わる」ように、低学年時代の思い出や日常の写真をインサートする工夫も

「僕が印象的だったのは、普段支援が必要な特別支援学級の子どもが、自然と交流できていたこと。同じグループの子に相談しながら進めることができていたんです。どの子も、楽しく主体的に学ぶことができるのが<Film Education>の良さだと感じました」

子どもに映像制作なんて、編集作業なんて、難しいんじゃない?
客観的とか主観的とか本当に分かっているの?

そう感じた先生こそ、ぜひ一度<Film Education>を試してみませんか。きっと子どもたちの可能性を広げるきっかけになるはずです。


映像制作を活用したクリエイティブな学びをつくるヒント〜柏市立逆井小学校の実践から〜のシリーズはこれにて終了。

私の回では、引き続き<Film Education>の学びの実践についてお届けしていきます。お楽しみに〜。


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