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佐藤航陽『世界2.0 メタバースの歩き方と創り方』幻冬舎

メタバースとは、インターネット上に作られた3D(3次元)の仮想空間のことだという。「メタ」(meta=概念を超える、上位概念を指し示す)+「ユニバース」(universe=宇宙)を組み合わせた造語だという。本書は、最近、話題となっているメタバースについての本ではあるが、著者の世界観も示している。

バズワードに対する人間の態度は、①シニア層に多い否定的な態度、②若者に多い自らリスクと取って挑戦しようとする態度、③ミドル層に多い斜に構えた冷めた態度がある。著者は2番目以外は得るものは何もなく、3番目の態度が最も後悔を残すと言う。

変化が誰の目にも明らかになった時点で態度を180度変えても、何も残っていない。著者は本書を通して、固定観念をできるだけ取っ払い、メタバースという新しい流れを味方につけて、自分の人生にポジティブな変化を手に入れてほしいと願う。

テクノロジーの進化の本質的な特徴は、①人間の能力を拡張すること、②人間を教育し、テクノロジーに合わせて生活スタイルを変えていくようになること、③掌(手足)の拡張から始まり、距離を克服し、空へ、宇宙へと向かっていくことだと言う。

新しいテクノロジーが浸透する順番は、基本的には「消費者」から使われ始めて、次に「企業」で活用されて、最終的には「行政」に組みこまれる。「個人」に浸透し始めたあと3~5年遅れてようやく「企業」でも活用され始めて、さらにそこから3~5年遅れて「行政」に導入されるというタイムラインになる傾向がある。

タイミングは世の中より「半歩」だけ早いという状態を狙う必要がある。メタバースは今がタイミングだという。また、変化が異常に速いテクノロジーの領域においては、お金・人材・信用などをすでに「もつ者」が必ずしも有利というわけではない。「もたざる者」であることが強みとなることが実際に多い。

「もつ者」のヤフー!ですら、時代の変化に適応できなければ、2人の大学院生が立ち上げた「もたざる者」のGoogleにひっくり返されるということが起きている。著者自身が、ビットコインの仮想通貨取引所の買収ができなかったことや、NFTのマーケットプレイスの子会社を他社に売却したことは、上場企業としての制約があったからだと言う。だから上場企業の役員を退任し、メタバースの領域の事業をゼロから立ち上げた。

テクノロジーの役割は、「一部の特権階級だけが独占していた能力を民主化すること」にほかならない。メタバースは、世界を創造するという「神の民主化」なのである。それは「革命」というほどドラスティックなものになる。2次元の情報空間によって伝えてきたことが、3次元に置き換わる。この感覚に人々が慣れるまで、10年間くらいの時間が必要かもしれないと言う。

メタバース革命とは、①コンピュータ性能、②通信速度、③3DCG技術という3つの進化が相まった「インターネットの3次元化」の革命である。メタバースにおいて、ゲームが「入り口」であり、その他のコミュニケーションやビジネスはゲームを入り口にして、あとから派生していく。

メタバース=NFTではない。将来的には融合する可能性は高いが、現段階においてこの2つの技術は全く別物で、「相性が良いかもしれない」という点だけが一人歩きしている。メタバースはブロックチェーン上で動く必然性は今のところなく、メタバース内の3DデータがNFT上で売買されたり流通したりする必要もない。

Web3やメタバースの潮流の中で最も恩恵を受けるのは間違いなくクリエイターである。Web3の時代では人々の欲しがる作品をデジタルデータという形でゼロから作ることができるクリエイターが経済的な成功を手に入れることになるだろうと言う。

世界とは、視認できるビジュアルとしての「視空間」と、社会的な機能と役割をもつ「生態系」が融合したものである。視空間が旅行に行ける場所など、生態系は国家や社会・共同体、家族・サークルやサロンのこと。メタバースは、視空間+生態系の合わせ技で構築しなければならない。

人間の目に映る視空間を要素分解すると、さらに「人間(アバター)」と「景色(フィールド)」の2つに分けられる。人間は「人間の専門家」で、表情・歩き方・ちょっとした仕草など、少しでも違和感があれば直感的に気づく。

メタバース構築のための3つのパターンがある。①まずアバターから先に作り、続いて仮想空間を広げていく。②まず仮想空間を提供し、アバター作りは後づけで充実させていく。③ゲームや映像といったエンタメコンテンツを提供し、そこに集まる人々のコミュニケーションを促進させる。

うまく回っている生態系の特徴は、①自律的である。②有機的である。③分散的である。また、生態系でやりとりされる価値は、①実用的価値(儲かること・役に立つこと)、②感情的価値(共感できること・ポジティブになること)、③社会的価値(世の中にとってプラスになること)であるが、価値の大きさは、①実用的価値>②感情的価値>③社会的価値の順番である。

生態系の起点は「生産者(価値を作る人)」にある。メタバースに価値を作る生産者に参加してもらい、彼らが作る価値に引き寄せられて「消費者(価値を感じる人)」が集まるようにする。

生態系の設計者には次の仕事がある。①生産者の価値が消費者に適切に届くようマッチングを促す仕組みが必要である。②参加者の信用が可視化される仕組みが必要である。③違反者へのペナルティが必要である。④参加者が自助努力できるための知見や道具の提供が必要である。

生態系を一つの生命のようにとらえ、半永久的に注意深くケアし続ける必要がある。イベントを仕掛け、普段見ることのない情報にしょっちゅう触れる機会を作る。参加者にとって不確実なことが、一定確率で起きる仕組みを作る。

①ランダムフィードバック、②届きそうな目標の設定、③難易度のエスカレーション、④社会的相互作用の可視化、⑤進歩している実感の提供。参加者を惹きつける仕掛けは、現実社会との合わせ鏡になっている。

生態系のデザインで最も大切なことは、今より良い世界を創ろうとする人間の意志であると言う。経済合理性を超えた設計者の「意志」と、それを形にするための「知識」と、成果が出なくても改善を繰り返し続ける「忍耐」が同時に求められる。

「お金一強」の「資本主義」の時代から、個人が感情的に価値を感じるか、社会全体が価値を感じるかどうかも重要視される「価値主義」の時代に移行すると言う。「実用的な価値」と、「感情的な価値」と、「社会的な価値」のバランスを取ることができる人が活躍していく時代になっていくと言う。

「好きなことをやって生きていく」からさらに一歩進み、「なりたい自分で生きていく」という流れに変わる。「自分はどんな人間になりたいのか」「どういう存在でありたいのか」というビジョンを強くもたないといけないと言う。

著者は福島県の母子家庭に生まれ、世帯収入100万円台前半の貧困世帯で、18歳になるまでパソコンに触ったことがなかった。早稲田大学法学部に入学したとき、大学で勉強するより、自分で起業したほうが早道だと気づき、休学届けを出してインターネット分野の会社を設立した。世界中でビジネスを展開して、東証マザーズへの上場を経験した。

著者は、世の中で正しいこととされていること、事実だとされていることでも、自分の目で確かめて行くと真実でないということをこれまで無数に見つけてきたと言う。

本書をきっかけに読者の「健全な懐疑心」がくすぐられて、誰もが疑うことのない常識に疑問をつきつけて、世界の「隠れた真実」を暴き出し世の中をあっと驚かせてくれる日が来るのを楽しみにしていると言う。

本書の「世界2.0」は、現実世界の「世界1.0」を超える新しい世界を作るという著者の意志の表れである。他のメタバース本にない異質の世界観を与えてくれる。メタバース関連に興味のある人は、本書を読むべきであろう。




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