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加藤雅江『「ヤングケアラー」深層へのアプローチ SNSで出会う、つながり続ける』本の種出版

「ヤングケアラー」という言葉が、最近取り上げられることが多い。本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもと説明される。本書は、ヤングケララーの子どもたちの力になりたいと思っている人のために書かれたものである。

境遇は様々で、困っていること、つらいことはそれぞれである。様々な課題を抱えた、支援を求めにくい子どもたちのことであり、大好きな家族を守ろうと必死になって、自分にできることを探している。その探し当てた役割、姿が、ヤングケアラーとして映る。

相談室の窓口で待っていても出会うことはない。LINEやチャットを使ってのSNS相談、メール相談が頼りになっていると言う。人に向き合うのは人にしかできない。

相談したことですべてが解決するわけではない。正解を手に入れるわけではない。気持ちを吐き出すことだけを求める相談もある。安心して気持ちを吐き出す場の保障をすることで、困りごとを開示して、解決に向けて動こうという気持ちになる。

本書では、ヤングケアラー支援の5つの視点として、次のことをあげる。
1 「困りごと」は大人の課題、責任は社会にある
2 本人に相談して決めていく
3 点から線、そして面へ
4 援助希求能力とエンパワメント
5 社会につながる力、言葉にする力を奪わない

子どもの「困りごと」は大人の問題で起こされており、社会の問題である。解決のためには、ヤングケアラーの子どもも交えて、話し合いをしていく。きっかけをつながりとして、たくさんの点を社会に用意し、点を線へ、穏やかな面へと、支援をつなげていく。

支援を受ける側の援助を求める力を高め、その力を認めて持続できるよう支援していく。人に頼ることも悪いことではない。社会につながる力、相談し、支援につながりたいという場をつくる。

家庭は閉ざされることにより、バランスが保たれている。外の当たり前を入れないことで、理不尽にコントロールされ、認知の歪みが生じる。家庭を閉じないよう、何を語ってもよいということを知らせる。大人と子どもの境界線を意識して、相談相手になる。

「貧困の連鎖」という視点、「虐待の連鎖」という視点、そこには家庭が機能不全を起こしている姿がある。社会全体が、家庭の機能不全に手を差し伸べなければならない。

精神疾患への理解が進まない中で、親の精神疾患は虐待のハイリスク要因であるといわれてきた。症状からくる育児や家事のしんどさに加え、精神疾患についてスムーズに治療やサポートが受けられないことで、生活上の課題が生じ、子育てにも様々な影響を及ぼす。生活と医療の隙間に落ちてしまっている。

複雑な制度の仕組みや、煩雑な手続きを踏まなければ始まらないサービス、当事者の意見が反映されない支援の流れという問題がある。これまで、社会全体が家庭というシステムに頼り、子どもの育ちをサポートしてこなかった。著者は、子どもたちの生きていくうえでの権利を守るということが、専門職(本書の想定読者)がすべきことだと主張する。

家族の問題をすべて家庭の中で解決させていくということが限界になってきている。理想的な家庭像の縛られ、それを実現できない家族があることに思いが至らない人も多い。当事者の切実な声を訊く機会を持つこともなく、少子化対策を叫ぶ政治家もいる。子ども問題の一つであるヤングケアラー問題を解決したいと思う人にとって、大変有意義な書籍である。



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