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民俗学小話集②

【清水の舞台から飛び降りる話】
「清水の舞台」で知られる清水寺は観音信仰の霊場として有名だが、ここには満願の日に舞台から飛び降り、無事なら大願成就、もし死んでも補陀落浄土へ往生できるという信仰があり、多くの人が飛び降りたらしい。そのためたびたび禁令が請願され、飛び降りないよう舞台を竹矢来で囲ったりもしたという(ちなみに、木に引っかかるなどしたのか意外と生存率は高く、八割くらいの人は助かっているらしい)。
この言い伝えから出た話だと思うのだが、次のような昔話がある。
昔、甲斐性の無さを嘆いた男が参籠していたところ、満願の日に舞台から飛び降りるようお告げがあった。お告げどおり飛び降りると、地面にぶつかった衝撃で目玉が飛び出してしまった。慌てて目玉を入れ直したところ向きが逆で、五臓六腑がよく見えるようになり、男は医者になって一財産なした。
その話を聞いた近所の男が、同じように参籠してお告げを得たが、舞台から飛び降りた際、飛び出た目玉と間違えて橡の実を目に押し込んでしまい、座頭になってしまった。
(物語はこのあと、座頭の冒険譚となって続く)


【呪いの話】
NHKBS『ダークサイドミステリー』で呪いが取り上げられたことがある。
呪詛は古くから行われており、律令制下では罪に問われたが、かたちがないためでっち上げが容易だった。長屋王の変は、長屋王が左道(よこしまな方法)を学んで国を傾けようとしていると告発されたのがきっかけだった。中国でも漢の武帝の時代に、巫蠱が原因で太子が反乱を起こす事件が起きている。
呪いというものがどれほど効果を持つかはわからない。ただ、戒めのような話がある。京都の石像寺(釘抜地蔵)に伝わる伝説だ。
その昔、紀伊国屋道林という商人がいた。40歳頃、突然両手が痛みだし、医者にかかっても治癒しなかった。ある日、夢に地蔵尊が現れ、次のように告げた。
「お前の両手の痛みは、前世で人を呪い、藁人形に釘を打った報いである。今、それを取り除いた。」
翌日、目を覚ますと両手の痛みは治っていた。そして、信仰している石像寺に参詣すると、宝前に血染めの五寸釘が2本置かれていたという。


【羽黒山と湯殿山の宗教闘争と即身仏】
即身仏について調べていて、生臭い話を知った。一部は以前の投稿と重複するが、即身仏誕生の背景と考えられる話である。
江戸時代、羽黒山別当の天宥は南光坊天海に弟子入りすることで天台宗に改宗し、併せて出羽三山すべてを天台宗の支配下に置こうとした。空海による開山伝承を持つ真言宗の湯殿山はこれを拒否し、天宥は幕府に提訴した。この訴訟は数度にわたり争われたが、最終的に「羽黒修験者の湯殿山登拝は認めるが、行は真言宗のやり方に従え」という判決が出た。湯殿山は真言宗を堅持できたのである。
一説では、この時、真言宗としての独自性を出すために、空海が行ったとされる入定をパフォーマンスとして「再現した」のが即身仏だとされる。
湯殿山の信仰は山中の奇岩から湧く湯にあり、それが多くの参拝者を集める源泉であった。天宥はこれに対抗しようと羽黒山中で泉を探したが、見つかったのは冷泉で、湯殿山ほどの信仰を集めることはできなかったという。


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