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真夏にホワイトアウト

時間よ止まれど金縛り」では人生最大の不思議体験をした。スポーツ選手には時々あるらしいと聞く。一番有名なのは「ボールが止まって見える」は打撃の神様である川上哲治の伝説だ。こちとら止まって見えても体が動かなかったが。人間に理解できないだけでこの世に不思議はないとも言う。世間では新型コロナの第5波が急激に減ったのは不思議だと言うが、急激に増えたのだから急激に減るのは数学的統計学的に不思議ではない。各波とも増減カーブは対称的だ。人生第2の不思議体験は解明されている常識であった。

狩人の「あずさ2号」がヒットした深秋に信州が高校の修学旅行先だった。バス内で大合唱した時に担任の先生が「こんな素晴らしい曲があったのか」と呟いていたのを今でも覚えている。行く先々の中で最も印象に残ったのが上高地の河童橋から見上げる穂高の山影だ。快晴の青空に紅葉も映えて、今まで生きてきた中でも一二を争う絶景だと記憶している。その前ではしゃいで記念撮影したクラスメイト四五人の写真が凄くいい出来栄えだったから、一番いい表情の友人から大きく焼き増しを要望されたのも懐かしい。

いつか穂高に登ってみたいとその時感じたのだが、機会は意外と早く訪れて大学二年夏休みに経験があると言う友人に誘われ三人でテントを背負った。梓川を軽快に辿って登りもう少しで涸沢キャンプだったと思うのだが、その手前で濃霧に遭遇した。人間視界が悪いと方向感覚が麻痺して同じところをグルグル回ると後に知った。キャンプ地までもう直ぐ着くとシャカリキに歩いたが一向に着かない。濃霧で視界が真っ白で三四メートル前が見えないばかりか、真夏なのに地面まで真っ白な記憶があるのは残雪だったのか。

濃霧がいつまでも続くはずもなく、もうダメだ体力が持たないと思った瞬間あっという間に視界が開け数十メートル先に涸沢ヒュッテが見えた。こんなに近いのにと狐に騙された気分になったが、人間焦ると何をしでかすか分からない。この日は予定通りここに泊まったが明くる朝に下山した。混雑したキャンプ地に広い場所が空いていてこれ幸いとテントを張ったら、就寝中に雨が降りテントの中が川だ。ずぶ濡れて値を上げた経験ある友人は、テントは密閉性が高くジッパーを完全に閉めると息苦しいのも知らないのだった。

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