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定性調査を実効性高く楽しくやるために(9)

今日は最後のパート「報告書をまとめる」についてです。

1)背景や目的を定める
2)誰を呼んで/どんな話を/どういう形態で聞くのかの概要をまとめる
3)スクリーニング調査をかけて対象者を集める
4)インタビューフローを決める
5)日程やオペレーションを定め、見学者を集める
6)実査を行う
7)実査と同時に解釈のすり合わせを行う
8)報告書をまとめる

「報告書をまとめる」と言っても、インタビューが終わって翌日から始める資料のまとめ作業のことを指すのではありません。以前にも触れましたが、ここではデブリーフィングについてお話しいたします。

鉄は熱いうちに打てという言葉がありますが、定性調査ほどそれが似つかわしいシチュエーションはないかもしれません。インタビューの最中に、ときには分析者として、ときにはファシリテーターとして蒔いてきた仮説の「種」は、即この場で発芽させるのが最も高い生産性を発揮します。なんだかんだで数回にわたるインタビューに参加した人たちは、顧客の生の声という極上の刺激を受け続けた状態なのです。インタビュー終了後はくたくたになっているとも思いますが、ここでのもうひと踏ん張りが戦略や施策の推進力となります。

さて、デブリーフィングが始まったときにまずやるべきなのはホワイトボードの前に立つことです。デブリーフィングは放っておくと各自の印象論の空中戦になり、放たれた言葉が雲散霧消して終わるということもあり得ますので、それを防がねばなりません。そのために議論の主導権を取るのです。これには「場を仕切るのは自分である」ことを宣言する意味合いもあります。

次にやることは議論の枠組みを提示することですが、いきなり「こういう枠組みでお話ししましょう」とやっても熱量が高まらないので、場を温める意味でもモデレータによる総括と、見学者各自が印象に残ったことを手短に話してもらう、という時間は設けたほうが良いと思います。もちろん、ここで前回述べたような、デブリーフィングまでに見学者に埋めて回った伏線が活きてくるのは言うまでもありません。

議論の枠組みとしては、概ね以下のようなイメージです。

①そもそもの調査の目的(知りたいこと)のおさらい
②目的に沿って考えたときにポイントと思われる発言や特徴
③目的からは遠いかもしれないが、妙に気になった発言
④これらから見えてくるインサイトの仮説
⑤戦略・施策の方向性まとめ
⑥明日以降の具体的アクションの設定

場を温めるために話してもらったことは②③の先出しにもなりますね。

これらをホワイトボードに書き込んでいくわけですが、②〜④は行ったり来たりとなります。「ここがポイントだと思う」「それはこの要素と結びつくと、こんなことが言えそうだ」「そういえば、あのグループでは○○という発言もあって、それを裏付けていそう」「であれば□□という発言はすごいポイントだ」…という会話がなされ、要素の洗い出しと要素間の関係が可視化されていきます。

目指すのは、これらの要素や関係性を抽象化して、ひとことで表せる言葉を思いつくことです。これはインタビュー対象者の発言にはないものです。当然、自分が分析者としてインタビュー中に思いついたものも入れ込んでいきますが、それらをとしていくつか出していく中で「それだ!」とみんなが思えるようなものがインサイト仮説となります。

余談ですが、これを最初に誰が言い出せるかをある意味での「勝負」にできると、調査の成功率はググッと高まる感覚があります。見学者がみんな主体的に分析に関わっている証拠ですね。そして前にもお話しした通り、私はこの勝負に負けるのは非常に口惜しいと思う性質です。気づきで負けたくない!

インサイト仮説が見出せましたら、②③(ポイントとなる発言や特徴)をそれに沿って位置づけ直しましょう。「こういうインサイトだから、ああいう発言が出たのか」という確認ですね。その過程が⑤(戦略・施策の方向性まとめ)に繋がっていきます。例えば広告のクリエイティブをつくるときに、インサイト仮説と発言内容の関係性を明らかにすると、クリエイティブの方向性が見えてきますよね。

ここまでやれば勝ったも同然ですが、しかし詰めを誤ってはいけません。⑥明日以降の具体的アクションの設定を間髪入れずに行い、この場で話し合ったことが、日程的な期限付きできちんと履行されるようにコミットしてもらいます。コミットするのは言うまでもなく企画のキーマン、意思決定者です。

言うまでもないことですが、純度の高い顧客視点で戦略や施策を考えますと、既存の考え方とコンフリクトを起こすことがよくあります。意思決定者にとってその調整は実に面倒くさく、やらずに済むならやらずにおきたいと思ってしまうのはまったく自然なことではあります。しかしそれを是とするのであれば、そもそもリサーチを実施する必要はないわけです(なお、私はそういう意思決定も尊重するようにしています。責任の所在を完璧に明らかにした上でですが)。

定性調査は、一時的なものかもしれませんが、売り手目線の人を強力に顧客目線に仕立て上げる機会でもあります。一種の状態異常…いや、ふだん状態異常だったのが一時的に正常になっているのかもしれませんが…、その機を逃さず、アクションまで繋げることを定めていくわけです。

もちろん、意思決定者は時に孤独なものですから、その場に参加しているメンバーは全面バックアップする気概を見せる必要があります。フォロワーシップなきリーダーシップは成立しません。この一蓮托生、仲間意識の醸成は定性調査の大事な機能のひとつです。

ここまでできれば、その定性調査はやるべきことをすべてやったと言っていいと思います。あとはその内容を漏らさず報告書にまとめるだけです。報告書のテクニカルな話は、私がここで申し上げるよりも世にあるプレゼン資料に関する書籍を読んでいただいた方が遥かに効果的と思いますので、ここでは触れません。

最後に、もしもデブリーフィングで大きな意見対立が起きそうだった場合。

そのときはモデレータに判断を仰ぎましょう。これはプロのモデレータに参加いただいた時にしか使えない手ですが、インタビュー対象者と最も身近に接してきた人が第三者として発言するわけですから、その意見は誰からも、ほぼ必ず尊重されます。お願いしない手はありません。

モデレータを自分がやっていたり、社内の人がやっている場合は、意見対立の解消には時間をかけてじっくりと詰めるしかない(それ以外私には思いつかないです…)ので、これだけでもモデレータを社外の人にお願いする価値があると思います。この点も含めて、モデレータの選定は定性調査の死命を制するものですので、もしも良いモデレータに出会ったと思ったら、油田を掘り当てたぐらいの感覚で絶対に離さないことをお勧めします。

さて、以上で定性調査については一通りお話しできたと思います。
何かアドバイスして欲しいという方がいらっしゃいましたら、お気軽にお声がけください。コンサルも承っています!

このブログが皆様の顧客理解のお役に立てば幸いです。
皆様の顧客理解が進むこと、心よりお祈りしております。

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