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定性調査を実効性高く楽しくやるために(8)(改稿)

今回は「実査と同時に解釈のすり合わせを行う」のお話です。

1)背景や目的を定める
2)誰を呼んで/どんな話を/どういう形態で聞くのかの概要をまとめる
3)スクリーニング調査をかけて対象者を集める
4)インタビューフローを決める
5)日程やオペレーションを定め、見学者を集める
6)実査を行う
7)実査と同時に解釈のすり合わせを行う
8)報告書をまとめる

【ファシリテーターとして】

前回、リサーチャーは分析者であると同時にファシリテーターでなければならないと書きました。ファシリテーターであるためには見学者の意見をきちんと把握しておく必要があり、そのためには見学者ルームでかわされている意見はもちろん、特に企画のキーマンがインタビュー対象者のどんな発言にどういった反応を示したのかを視野に入れておく必要があります。

その意味ではインタビュー中は静粛に(見学者ルームの声がインタビュールームに漏れるため)、というのは建前としてありつつも、実際は見学者同士でどんどん話をしてもらう環境の方が良いです。もちろんインタビューに関係ない雑談を無節操に許すというわけではありません。インタビュー中でも内容についての積極的な議論は、無理に押さえつけることなく歓迎しましょうという意味です。

たぶん議論は自然に湧いてきますが、もしもインタビュー中に見学者の間で全く会話がなされないのなら、おそらくそれは調査企画に問題があります。何のためにやっているのかわからない調査ならば、お話しすることもありませんよね。
調査企画が機能していれば、つまり調査目的が明らかでそのための手段が適正であれば、企画のキーマンたちはインタビュー対象者(≒顧客)の発言を材料に議論したくなるものです。よほどの事情でもなければ、自分の企画は可愛いものと思います。

その積極的な議論を拾い、あるいは参加するため、リサーチャーはインタビューの最中、同じところに陣取らずに動き回ることになります。オンライン調査の場合は運営本部はほぼ一箇所ですので動き回る必要はありませんが、リアル調査の場合は見学者ルームが複数あることが多く、キーマンが分散しているケースが多いです。そのキーマンの反応を拾いにいかねばなりません。

ちなみにオンライン調査の場合、見学者がインタビューを聞いているふりをしているケースは残念ですが想定されます。そのような状態であれば実のある議論にはなりっこなく、仮に企画のキーマンがそうだと取り返しがつきません。
繰り返しますが、意思決定者などの企画のキーマンは必ず運営本部に呼ぶべきですし、そのための「腕力」もリサーチャーの腕のひとつだと思います。

【分析者として】

そして当然、分析者としても同時に機能しなければなりません。
インタビュー対象者の発言をメモし、自分なりの仮説を練る。

私はインタビュー内容を逐一メモすることはせず(記録係の方が発言録を作成してくれるため)、キーワードを拾ってのノートに書いています。ここは色々な流儀があると思いますが、私はメモした言葉同士をつなぎ合わせたり、仮説に繋がりそうな洞察を書き込んだりと自由度高い使い方で発想を広げていくため、紙がベストだと思っています。

キーワードを拾うとサラッと書きましたが、キーワードを「これがキーワードである」と判断するのは正直なところとても難しく、今の私ですと試行錯誤するしかやり方が思いつきません。

私の場合、最初のグループではどれがキーワードなのか焦点があわせ切れませんので、必然的にメモの量は多くなります。グループが進むごとに焦点があってきて、自然にメモの量が減っていきます。本当に大事なキーワードだけがメモに残っていく感じです。

2時間のグループインタビューを6グループ実施するケースでは、最初のグループでA3ノート5〜6ページぐらいメモしますが、最後のグループでは1〜2ページになります。そして、最初の方のグループのキーワードとその後のグループのキーワードを結びつけたり、仮説(検証したいこと)を書き込む割合が増えていきます。その中から、インタビュー対象者が直接発言していないワードが思い浮かぶことがあり、これがインサイトの仮説です。
余談ですが三色ボールペン+マーカーが一本あると便利です。

このように、調査を進めるに連れてキーワードを判別する精度を自分の中で高めていくのですが、調査のテーマをいかに知悉しているかや、リサーチャーとしてどれぐらいの場数を踏んできたかも影響してしまうところです。
リサーチャーとして、実践のなかで勘所を掴む能力は継続して鍛えていきたいポイントですね。
※メモを調査終了後に読み返して振り返りを行うのは、良いトレーニングになります

【再び、ファシリテーターとして】

こうして得た仮説を、インタビューがちょうど良い話題に入ったタイミング、あるいはインタビュー間のデブリーフィングでキーマンにぶつけ、反応を探ります。

ぶつける意図はいろいろでして、互いのインスパイアを目指すこともあれば、相手に気づいて欲しくてヒントを提示することもあります。
いずれにせよ言えるのは、私が気づいたという履歴がある仮説より、企画のキーマンが思いついた履歴のある仮説という位置付けにした方が、断然その後の推進力が大きいということです。

もちろん、自分が気付かされる側に回ることもたくさんあります。でも気付きで先を越されると本当に悔しいんですよね(笑)。

こんなことをしながら、全グループ終了後の総まとめでどのような落とし所にしていくかを心の中で組み立てます。
自分の仮説とキーマンが持っている見解がどの程度擦り合っているか。落とし所を目指して、大・中・小のテーマとして何を設定し、どんな進行をすれば良いか。ホワイトボードに何を書いていくか…などを最後の2グループぐらいで考える、ということです。


…すいません、前回に「次回で終わる」と書いておきながら終わりませんでした。漫画や小説でこのフレーズはよく見かけるのですが、まさか自分がそれを使うことになるとは…。
次回はインタビューの総まとめ(デブリーフィング)で何をするかです。それがそのまま8)の報告書になります。

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