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定性調査を実効性高く楽しくやるために(6)

やっと実査のパートまで来ました。ここまでずいぶん長かったですが、調査も他の企画やプロジェクトと同様に段取り八分であることの証左のひとつと受け止めていただければ。

1)背景や目的を定める
2)誰を呼んで/どんな話を/どういう形態で聞くのかの概要をまとめる
3)スクリーニング調査をかけて対象者を集める
4)インタビューフローを決める
5)日程やオペレーションを定め、見学者を集める
6)実査を行う
7)実査と同時に解釈のすり合わせを行う
8)報告書をまとめる

このパートで言いたいことはたったひとつ、狼狽えないことです。

定性調査の実査中は、想定していないトラブルが起きます。悪天候や電車遅延、機材の故障など誰が見てもトラブルと思えることはもちろん、リサーチャーである貴方自身がトラブルと思っていない、ぶっちゃけ些細なことでも見学者が「なんじゃこりゃー!」とトラブルに昇格させてしまうことがあります。

そんなときにできることはただひとつ、眉一つ動かさずに「それがどうかしましたか?まったく問題ありませんよ」と語りかけること。

いや、もちろん心の中ではけっこうなトラブルと思うこともあります。準備を重ねても、想定の抜けはいつでも起きます。そしてトラブルというものは、精密にそこを爆撃してくるものですから、内心脂汗を流すこともよくあります。

そこをグッと堪えて、表情に出さない。これは些細なことであるという無言のメッセージを全体に発する。
これで、見学者全体が落ち着きます。落ち着いて実査の見学に集中し、生産的な議論をする環境が整います。

もう一度言います。とにかく、狼狽えないことです。

さて、ここから先はもう少し具体的なお話をいたしますが、前回までに述べた運営本部に必要な関係者が集合できているという前提となります。

まず初日の集合は、1G目の開始時間の一時間前に設定します。ここで集合するのはリサーチャーと調査会社担当、モデレータの三者で、企画担当者は30分ほど遅れて集合にすることが多いですね。企画担当者が関わってもあまり意味がないオペレーション面の確認をするためですが、見学者リストを確認して、デブリーフィングでのファシリテーションをどうするか、イメージをなんとなく固めていく時間としても活用しています。「あーあの人が来るなら、こんなこと言いそうだなあ」というの、ありません?(笑

そして30分前に関係者が集合したら、当日のフローの再確認を行います。中心となるのは提示物の再確認ですね。前日までに提示物が揃っていることはあまり多くないので、実際の提示物を確認しつつ、聞きたいことのポイントを洗い出していきます。

その際に、インタビュー参加者のプロフィールシートが用意されていますので、それを確認しましょう。プロフィールごとの発言傾向などは復習しておくと良いですね。ただ、あまりやりすぎると教条主義というか、単なるバイアスになったりしますので、匙加減に気をつけます。

この段階では「この対象者、条件に当てはまっていないんじゃないの?」という企画担当者や見学者の発言が出てきます。

条件に当てはまらない対象者がいること自体は普通にあり得ることで、逆にインタビューの対象者が全て完璧に要件を満たすことなどほぼあり得ません。従いまして、いかに質の良い調査を成立させる条件緩和ができるかというのはリサーチャーの腕の見せ所ですが、条件から外れていることが企画担当者たちの不安を招くこともまた事実です。

条件緩和は基本的に調査が成り立つ範囲でしか行わないものですので、こんな場合は素直にそれを伝えれば良いと思います。先ほども申し上げましたが、リサーチャーが堂々としていれば、差し当たりは「まあ、そんなもんか」と思ってくれるものです。
ただ、こちらで述べた通り、緩和の優先順位を考えるときに、企画担当者がこだわりそうなポイントは事前にきちんと考えておかねばなりません。

また、これはたいへん言いづらいのですが、誤解を恐れずに言いますと…最近、減ってきた感はありますが…「自分はこの分野には詳しいんだ」というアピールをしたい人はどの世界にもいらっしゃいまして、定性調査の現場でも例外ではありません。

そういう方がドヤ顔で条件のことをおっしゃるときは、とりあえず聞きおいて「ありがとうございます」とだけ伝えておけば大丈夫です。この段階で何を言ってもしょうがないので、実査進行中、あるいはデブリーフィングの際にデータが出てから話し合えれば良いと思います。

なお、そういう方は一回平和的なオハナシアイをすれば同じリサーチャーの前では二度と同じことをすることはなくなりますし、きちんとプライドを尊重したオハナシアイをすれば味方にもなってくださるので、とにかく見学してくださることへは感謝の気持ちを持ちましょう。

また長くなりましたので、実査パートの続きはまた次回。

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