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犬牽と行く美術館・博物館④『東京国立博物館・常設展』その3【赤穂浪士も大切にした町犬たち】
〇はじめに
日本伝統のドッグトレーナー/犬牽(イヌヒキ)の技術と文化を継承する筆者が、その目線を持って美術館・博物館を巡るエッセイシリーズ。
4回目は、東京国立博物館の常設展を取り上げています。
建物の広さと所蔵品の多さから、1日をフルに使って巡らなければ見きれないほどの内容を誇る同博物館。
そのためこのエッセイでは犬牽の目線の元、厳選した所蔵品を3つに分割してご紹介していきます。
今回はついに最終回/3回目は、東京国立博物館に住む犬たちをご紹介。
その姿を通して、江戸時代の動物愛護精神が見えてきます。
それでは、行ってみましょう!
〇東京国立博物館
もう説明は不要かもしれませんが、初めて記事を読む方のためにおさらいを。
東京国立博物館はJR・東京メトロ銀座線日比谷線上野駅またはJR鶯谷駅から、徒歩約10分で到着します。
上野動物園や国立科学博物館、そして国立西洋美術館を片目に見ながら上野公園を突き進めば、巨大な建物が見えてくるでしょう。
それが、東京国立博物館です。
何度見ても、ライティングされた姿は圧巻ですね。
オススメです。
〇『忠臣蔵十一段目夜討之図』
さて、まずご紹介するのは江戸時代、歌川国芳によって描かれた『忠臣蔵十一段目夜討之図』です。
〝忠臣蔵〟という作品群は、若い人でも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
歌舞伎や文楽、最近では神田伯山さんの人気も相まって講談の演目として目にする機会が増えていますね。
この作品は、赤穂浪士がまさに吉良邸へ討ち入る瞬間を描いたものです。
最近ではニューホフ著『東西海陸紀行』の「バタビア風景図」を参考に描かれたことが分かり、話題になりましたね。
実はこの作品、私は実物を見ることができませんでした・・・。
そもそもこの作品は『世界と出会った江戸美術』という特別展にて展示されています。
私は2020年12月初頭に行ったのですが、まさかの『忠臣蔵~』が展示されるのは後期日程である12月15日~1月11日・・・。
なので残念ながら実物を見ることはできず、いただいたパンフレットを拝見。
そして、最も見たかった部分を知り合いに描き出してもらいました。
赤穂浪士の1人が、犬たちに食べ物を投げていますね。
このエッセイシリーズに慣れてきた方ならば、もう犬たちの正体にお気づきでしょう。
そもそも江戸時代には、現代人が考えるような飼い犬や野良犬はあまりいませんでした。
代わりにいたのが〝町犬〟や〝里犬〟そして〝村犬〟と呼ばれる犬たち。彼らは飼い主を持たない代わりに特定の地区全体で食べ物や寝床が提供される、現在の地域猫のような犬たちだったのです。
犬牽はそんな犬たちの中から鷹狩専用の使役犬〝鷹犬〟や、公家や徳川家の行事に登板する通称〝芸能犬〟の候補を迎え入れていました。
鷹狩も行事も見知らぬ多くの人が参加するため、その境遇から人間に対して友好性の高い町犬や里犬が適任だったのでしょう。
このエッセイシリーズでも取り上げてきましたが、江戸時代の浮世絵にはそんな町犬や里犬の姿が多く描かれてきました。
しかし、実際に人々が食べ物を提供している姿はなかなか見られません。
ところがこの『忠臣蔵~』には、その片鱗が。
是非ネットで検索して観てもらいたいのですが、赤穂浪士たちが今にも塀を乗り越え建物に侵入しようとしています。
その後ろに、町犬の姿。
今ここで鳴かれてしまえば、作戦は失敗してしまいます。
残酷なようですが、討入りのためならば素早くザッと斬り捨てるという考えも浮かびそうなもの。
しかし、赤穂浪士の1人は丁寧に食べ物を提供しています。
よく見ると、地面には他にも提供した食べ物がチラホラ。
しっかり頭数のことも考え、用意されていたことがわかりますね。
犬牽が鷹犬に提供していた食事メニューを考えれば、これはお米を丸めた食べ物の可能性が高いかもしれません。
でも、食いつきを考えてわざわざ普段はあまり食べない肉類を手に入れていた可能性も・・・?
詳細はわかりませんし、実際の赤穂事件でどうだったのかはわかりませんが、これを描いた歌川国芳はこのように町犬に食べ物を提供する人の姿を見たのでしょう。
それは犬牽の飼育指針である、犬の権利を尊重する対応法=【犬の心のままに】とも重なるものがあります。
犬が欲しければ食べ物を提供し、その意思を尊重する姿勢は共通意識として当時の日本に存在していたのでしょう。
そんな町犬と人々の関係性は、東京国立博物館内にて多々見られます。
◯『永寿堂店先』
まずは、江戸時代は歌川豊国作『永寿堂店先』です。
扇子を販売する店内を描いた本作。
沢山のお客さんが、扇子を選んでいますね。
でも、ここで詳しく見ていくのは扇子ではありません。
買い物客でもありません。
そう、下部に小さく描かれている仔犬たちです。
拡大すると、こんな感じ。
白い被毛の仔犬が、2匹。
黒い被毛(額1本線と鼻は白)の仔犬が1匹。
虎模様が1匹。
黒斑が1匹。
バリエーションに富んだ、5匹の仔犬の姿が。
そもそも当時はお店のドアを閉めるような形式ではなく、暖簾だけ。
だからこそ、仔犬たちの目線の先には道が広がっているのでしょう。
そこから、店の中に入ってきた仔犬たち。
坊主頭の人が仔犬に向かって紐?を垂らしている風景からも、店主含め悪意や攻撃性を持っていないことがわかりますね。
営業中にも関わらず、町犬が入ってくることを許す江戸の商人とお客さんたち。
見習いたい、寛容性です。
◯『名所江戸百景・小梅堤』
3枚目は安政4(1857)年の歌川広重作『名所江戸百景・小梅堤』です。
梅の樹が並ぶ、何とも綺麗な川沿い。
橋を渡る、人々の姿。
でも、ここで注目するのも作品の下部です。
3匹の白い被毛を持つ仔犬と、子供が2人。
1匹は、子供に持ち上げられていますね。
実は浮世絵では仔犬を持ち上げる子供の姿は、結構描かれています。
それだけ子供と町犬の距離が近い、更に攻撃性がある個体が少なかったことがわかりますね。
それにしても、持ち上げてどうする気なんでしょう。
◯『新板大道図彙・石町』
最後は文政8(1825)年頃の葛飾北斎作『新板大道図彙・石町』です。
これはもう、見ただけで町犬と人の距離の近さ、友好性がわかりますね。
シャボン玉屋と、お客さんたちの間に丸くなって寝ている町犬が1匹。
これだけの関係を作るためには、人側は犬を踏まないよう気をつけなくてはなりません。
でも、踏んだとしても犬に食べ物を提供することで関係性を保護することができます。
実際に犬牽は、滅多にないことですが鷹犬を叱った場合、すぐさま食べ物を提供しアフターケアに勤めていました。
犬にとって過ごしやすい環境を作るためには、トラブルの後先を考えることも大切なのです。
〇最後に
さて、いかがだったでしょうか。
これにて、東京国立博物館の常設展を巡る長い旅も終わり。
いやぁ、広い広い。
ここで紹介できなかった所蔵品も、それはもう沢山あります。
所蔵品からは、それぞれの時代や地域の雰囲気が溢れ出ていました。
だからこそ浮世絵などが展示されているエリアでは、江戸時代の雰囲気が満ち満ちていました。
所蔵品は入れ替えするので、また訪れた際には新しい出会いがあることでしょう。
その度に、新鮮な江戸の空気を感じられますね。
楽しみです。
皆さんも是非、足を運んでみてください。
それでは、また。
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