見出し画像

こたの読書タイム!第14回 象の消滅 村上春樹

今回は、村上春樹の「象の消滅」の感想です。

これは、町の象舎から象がいなくなった事件とそれに囚われた主人公の物語だ。序盤は、象がいなくなったあとのメディアや市議会の様子がリアルに描かれています。象の飼育員にもフォーカスが当たっていて象と心を通わせている様子は、不自然なほどに細かく描写されています。中盤からは象の消滅を追っている電機器具メーカーの広告部の主人公と、雑誌の編集者の女性の出会いが描かれています。この女性は前に紹介した「パン屋再襲撃」に登場した女性と似たような雰囲気を醸し出しています。主人公は、その女性と親交を深めますが、主人公が象の消滅の話題を持ち出して・・・ 

この物語は、象の消滅の謎を残したまま幕を閉じます。謎が残り続ける後味の悪さには作者の意図を感じました。また、主人公が広告部であることにも意味があると感じました。「象の消滅」は一時期の事件、時とともに忘れ去られる儚いものとして描かれています。それは、私たちの生活にもあてはまる出来事があるのではないでしょうか。みんなが奇妙であっても忘れてしまうこと、それが心から離れない主人公を描いている作品だと感じました。「統一性」というキーワードが出てきますが、象の消滅は「統一性」に対する警鐘のメタファーなのではないでしょうか。当たり前だと思っている今がすでに大多数の人に流されている現状かもしれません。それに気づき、自分なりの行動を起こすことで、今の現状がより良くなるのではないでしょうか。


この記事が参加している募集

#読書感想文

189,937件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?