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大学二年(後期)の生物学科生が慄いた「マウスの解剖」

※この記事のテーマは「マウスの解剖」となります。小動物の死や内臓、血に関する描写を含みますので、苦手な方は閲覧をお避けください。

はじめに

 先日公開した記事のとおり、私は科学の実験がものすごく苦手だ。

 だからこそ、バチバチに理系な5歳年上の兄が地方国立大の工学部に合格した時は「数学も物理もできるアニキかっけー!」と尊敬の眼差しを注いだ。実家を離れた彼が楽しいキャンパスライフを送るだろうと疑わなかった。
 そんな優秀な兄が大学レベルの化学で落ちこぼれ、精神的に疲れて休学した様を見せつけられた時。私はげに恐ろしい理系学部を恐れた。いや、もはや恨んだやもしれぬ。

(あとから教えてもらったんですが、兄の大学は「JABEE」の認定を受けていたそうです。より実力重視のプログラムで、プレッシャーがかなりかかったそう。なお、兄は高校レベルの化学はセンター試験で使っただけでした。復学して卒業済み。)

 ……だから、何としても文系に進学したかった――しかし。

「理系以外は行っても意味がない! あんた陰キャなのに、文系のキラキラな雰囲気に耐えられると思っとんか?!」

 オカンの猛反対により、いつの間にか理系学部しかない大学に進んでいたのである。卒業してみて振り返ると、後半の指摘は正しかった。でもな、マッマ。前半は全文系の方々に石投げられるから外で言うなや?

 なお、数学科に行くのもアウト認定だった。「就職先がないから」と。
 で、他の選択肢は以下の通りだった。

  • 情報系(プログラミングとデザインで別科)

  • 建築系(土木と一般建築)

  • 理学系(除・数学→残・無機化学or物理)

  • 生物系(バイオと環境)

 当時デスクトップパソコンの電源の入れ方がわからず、家庭科の裁縫は全部ばーちゃん任せだった私(≒死ぬほど不器用)は、消去法で「生物系の環境コース」をチョイス。
 なんでバイオを弾いたかって言うと、響きが難しそうだったから。舐めてますねぇ。

「生物系の実験って何やんの? ネタなくない?」→甘かった……。

 結論から言うと、生物系の実験はネタは豊富だった。でも、地味。そんでもって細かくて神経を使った。
 メインで使う実験器具はだいたい下のラインナップ。

  • マイクロピペット(ごく少量の溶液を吸い上げる用のピペット。本体と先端のチップが分かれていて、使うたびに装着する)

  • 吸光光度計(溶液の濁り具合を見る器具)

  • 電気泳動装置(PCR法でも使う。電圧をかけた時、どれくらいの位置にバントが出るかを見る)

  • マグネチックスターラーとか小型遠心分離機(混ぜたり分離させたり)

  • オートクレーブ(滅菌装置。アルミホイルでくるんだ試験管などを中に入れ、水を少量入れてから熱をかける)

  • クリーンベンチ(使用前に内側をアルコールで拭き、紫外線も照射して殺菌。使うときは下の方だけ窓を開けて、清潔な腕を差し込んで作業する。その間は中から外に向かって風が出て、異物の侵入を防ぐ)

 初見のときはビビり散らかしたよ、特に下2つ。卒論のときも、クリーンベンチはなるべく使いたくなくて避けてた。そのせいで一向に上達しなくてコンタミしまくったんだけども……。

 なお、実験のテーマは「寒天培地での植物のクローン作成」とか「遺伝子地図の作成」、あとは「ビタミンBの酸化経過グラフの作成」とかだったと思う(詳細に若干誤差があるかもしれない)。

 しかし、上に挙げたアイテムを一個も使わない、異色の実験が一つだけあった――それが「マウスの解剖」だ。

解剖当日、「隕石落ちろ~、落ちろ~!」と呪いをかけた(▼しかしなにもおこらない)。


◆生き物を切り開く=事前に××す。

 「生化学実験」の講義は月曜午後の2コマに割り振られていた。必須単位のため、ボイコットは叶わない。
 私は浮かない顔でカップラーメンをすすりつつ、手順書を開く。そうして目に入った「下準備」の欄にビビって変なうめき声を出した。

【下準備】
マウスをケースに入れ、ドライアイスを投入後密閉して××させる。

 ……え。
 …………ええええ!?!?

 まさか、おのが手でマウスを〆るなんて想像もしなかったお花畑な生物学科生がいるって? 誰だよ~~ww?

 俺だよ(号泣)!!!!!

  その後、実験室に入るまでひたすらガクブルしていた。
 カップラの麺は食べきったし、ちょっとお菓子もつまんだけど。

 だけど、哀れな骨なしチキン女に教授、あるいは先輩が慈悲をかけてくださった。
 黒い実験台の上には、二人一組の学生に行き渡るようすでにマウスの遺体が置かれていたのだ。

 その時点で、だいぶストレスが軽減されたのは言うまでもなく……。

 というか、仰向けで息絶えてるマウスは真っ白で可哀想なんだけど、めちゃくちゃカチコチ。指先で触ったら冷たい。あきらかに凍ってる!
 
 
まず、四肢を固定するための虫ピンが刺さらない。毛皮を切ろうと触ったらジャリジャリ言うし、ハサミでお腹に刃を立てたときの感触が固形物なんよ……。

 「なにもかもが生き物じゃない感じ。ここにもう命はない」――そう実感したら吹っ切れて、私にしてはアグレッシブに実験に取り組めました。
(パートナーが「可哀想で見られない!」と戦力外になったせいもありました。あのコマではカス同士でコンビ固定だったので。)

◆心臓を切り取って血を抜く→間違って胃を真っ二つ!

 さて、ラストで次回の実験で使う血液を採取することになっていたため、小さな心臓を切除しようとした。すると、間違えて胃をスパッといってしまい、大量のペレットが腹腔内に溢れ出た! まぁ、摘出時に血が出すぎるということで、心臓はそのままで注射針を刺して抽出する形式になったので実際ダメージはなかったけれども。

 「数時間前までフツーに食って寝てしてたんだなぁ」と思うと何か忘れられないエピソード。

「実験が苦手な理系大学生」の実体験エッセイの二作目でした。また続きを書きたいと思います。

 


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