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#小説
降り落ちる雨は、黄金色#最終話
デビューしてからは、学校に行くのが楽しくなった。あんなにも憂鬱で嫌いだったクラスメイト達が今では、うつくしく光ってみえた。みんなを執筆のネタにする事にした。 そう考えると、微笑ましい気持ちになってくる。
教室では私は相変わらず一人きりだったが、デビューする前の様な後ろめたさが無くなくなり、じぶんを許せるようになった。
書く才能が認められたことで、心の中にずっとあった大きな氷のようなシコリ
降り落ちる雨は、黄金色#27
津田が逮捕されたニュースのコメント欄を見ると、そこには悪意に満ちた中傷が溢れていた。私はそのコメントを見て吐いた。
ネットで一度炎上すると、社会復帰できない位に制裁を受ける。本名。顔写真。卒業文集。性癖。家族。住所。すべてが晒される。
津田は池袋のホテルで未成年に如何わしい行為をした後に、金銭を支払ったとそのニュースサイトは報じていた。
ふざけんじゃねえ。私の中に怒りがこみ上げてきた
降り落ちる雨は、黄金色#26
短編作品を百本くらい書いたある日、いつも通りに自分のサイトを開くと見知らぬ人からのメッセージがあった。
その人はコンテンツプロデューサーと名乗っていた。彼は、マンガやイラストや小説を集めたサイトを運営していた。メールには、私の短編小説を運営しているサイトに載せたいという内容だった。
運営しているサイトを覗きに行ってみた。水色や白を基調とし、 明朝体の文字を使ったシンプルなデザインだった。
降り落ちる雨は、黄金色#25
執筆した小説に「シン・桃太郎」と言うタイトルをつけてネット上に作品を発表した。しばらくすると「いいね」が三個ついた。私は反応がもっと増えないかと思い、スマホから何回も自分のページを開いた。
私の中では「いいね」が十個以上はいくと計算していた。しかし、現実はきびしい。私にはやはり才能がないのかもしれない。憂鬱な気持ちで佳代にこの作品を送った。すると「面白いからもっと続けなよ」と褒めてくれた。
降り落ちる雨は、黄金色#23
質疑応答後にサイン会は淡々と行われた。気がつくと私は、くしゃくしゃのメモの裏に自分のアドレスを書き「連絡ください」と文章を添えて津田に手渡していた。なぜあんな事をしたのだろう。
私はその後に頭が真っ白になり、その日はどうやって家に帰ったのかを覚えていない。
サイン会の後は悶々として過ごしたが、自作の小説をネットに発表する事を決めた。津田のアドバイス通りに好きな小説を書き写す作業もした。とて
降り落ちる雨は、黄金色#22
いつも通っているパルコの中にある本屋に行くと、見知らぬ小説家のイベント開催の告知の張り紙があった。
パルコの本屋さんは海外のファッション誌やマニアックな選書が多く、此処に行くだけで慰められた。高感度なバイヤーのセンスにいつも関心した。ここで、対象の本を買うとサインとトークショーに参加できるらしい。私は生の小説家の声が聞きたくて迷わずに買った。
本屋のレジに持って行くとイベントの参加券をも
降り落ちる雨は、黄金色#20
遠くで、夕方の五時のチャイムの音が聞こえる。無人の公園。置き忘れた玩具が砂場に埋まっていた。空は、インディゴブルーと橙色の絵の具を混ぜたような色になっている。
すべてが癪に障る。そして、いつもの絶望ごっこをする。小説何か本当に書けるの?才能なんてない癖に。佳代に依存して、この街で何者にもなれずに就職して生きればいいよ。そのほうが楽だよ。だって君は普通なんだから。そうだ。私なんてこのまま、消え
降り落ちる雨は、黄金色#19
「物語とは◯◯が△△になり□□になる」
解説を読むと「◯◯とは登場人物、△△とは出来事や事件、□□は何かになる」とある。まるで国語のテストみたいだ。
作例を読むと、「負け続けのボクサーが恋をしてチャンピオンになる」とあった。なんだ簡単だ。私にもできそうだ。辞書をめくりながら面白そうな単語をいくつかメモし、公式に当てはめると変なものができた。
「勉強のできなかった私がある日、型破りな予備
降り落ちる雨は、黄金色#18
今日から小説を書きはじめた。何を書けばいいか分からずとりあえず、百円ショップに行き四百字詰め原稿用紙を五十枚買ってきた。机の上に原稿用紙を広げ、コーヒーを置くと小説家になった様な気持ちになる。机のレイアウトを決めただけなのに、ひと仕事終えた充実を味わえた。
将来作家になったら、駅に向かって猛ダッシュする人を脇目に朝のデニーズでMacBookを広げ優雅に執筆するのだ。 印税生活で家から一歩も出
降り落ちる雨は、黄金色#16
お茶を飲み終えると、佳代は静かにイチョウの葉っぱを拾っていた。
「なにしてるの?」
「キレイだから、バーバリウムにしようかな」
バーバリウムとは植物の標本だ。花やドライフルーツをガラス製の瓶に入れ、専用のオイルを注ぐと完成する。前に花屋さんでバラのバーバリウムの小瓶を見たことがある。美しい花は死骸でも需要があるのかと関心した。
バラの花は、死ぬ前と変わらない真紅の輝きを怪しげに放
降り落ちる雨は、黄金色#15
コンビニに着き、二人の大好物なキャラメルコーティング・ポップーンをカゴに放り込んだ。
新商品の棚を見ると新しい味のポテトチップスを見つけた。醤油味ベースの蟹のエキスが入った新商品の値段は、普通のポテトチップスと比べると割高で五十円ほど高い。二人ですぐに消えそうだねとか、無くなる前に一回位買ってみようかと話した。
コンビニの新商品の棚は、猛スピードで変わっていく。試してみたいと思った時には
降り落ちる雨は、黄金色#14
佳代の家は新築マンションの最上階にある。父親は放送業界の人らしく、インテリアも華やかでテレビのセットの様に生活感がない。
彼女は家の中では花や苺柄のデザイナーブランドのパジャマを着ている。本人曰く、身体の締め付けがなく楽だと話していた。
「あのさ…」
「なに。好きな人でも出来た?」
佳代の瞳が煌々と輝いた。
「小説家になりたい」
「ウケる」
私のやりたい事が決まったお祝いに、コ
降り落ちる雨は、黄金色#13
「今週のMステにちょっと映るかも」
取り巻き達は鈴木奈津美の話に、おおげさにうなづいている。みんな身近のキラキラした人に吸い寄せられる、蛍光灯に群がる蛾みたいだ。くだらない。一箇所にあつめて殺虫剤をかけてやりたい。
彼女の父親は海外で働いている為、奈津美は日本で未発売のブランド品を持っている。クラスメイト達はいつも、奈津美を眩しそうに 見つめる。私はその眼差しが気に入らない。 心底軽蔑する