- 運営しているクリエイター
2018年11月の記事一覧
降り落ちる雨は、黄金色#11
「この抗鬱剤は、都内のクリニックで一番飲まれている軽めのだから安心してね」
と薬剤師のおじさんは優しい口調で教えてくれた。
都会には心が病んでいる人が沢山いるのだ。毎日、朝早くから満員電車に押し込まれて疲れた顔をして優先席に座る大人を見ると、病まない方が異常だ。
鬱病はそんなに珍しいものではない事がわかると、心が軽くなった。よくあること。薬剤師のおじさんはアメリカでは、心が不調だと思ったらす
降り落ちる雨は、黄金色#10
休日だというのに、クリニックの待合室には色んな人が居た。サラリーマン風の人、綺麗な人や普通な人。私が行った時には独り言をぶつぶつ言う様な異常な人は居なかった。
帽子を深く被り、 マスクをつけ待合室で名前を呼ばれるのを粛々と待ち、周囲に知っている人が居ないかと心配になった。もしメンタルクリニックに通っている事がバレたら学校で馬鹿にされてしまう。
弱者は常に攻撃の対象にされる。私はその事を嫌
降り落ちる雨は、黄金色#9
病気になってから、食欲はなくなり体重は減った。ご飯を食べても全く味がしない。美味しくない。口が縦に空かない。ストレスから顎関節症になった。顎がカクカクと鳴る。着替えるのもお風呂に入るのも全てがめんどくさい。インフルエンザを発症したかのように、毎日身体がだるい。
日曜日の夜がとても憂鬱で、ストレスから眼が冴えて全然眠れないまま朝になる。電車に乗ると原因不明の発熱や眩暈がしてすぐに電車を降りた。
降り落ちる雨は、黄金色#7
いつもの様に図書室に向かうと、そこに佳代の姿はなかった。
普段なら陽の当たらない隅の席で、 日焼けを気にしてか黙々と本を読んでいる。その姿は私をいつも和ませた。彼女の居ない図書室は主を失った城の様にしずかに沈黙していた。
心がざわつく。私は彼女の身に何かあったのではないかと思い、 すぐに電話した。電話越しの佳代は驚くほどに明るかった。
「どうしたの?」
「電車乗ろうとしたら汗が止ま
【小説】降り落ちる雨は、黄金色 ver2019.1.17
-1-
高校の頃、日本と北朝鮮の国交状態は最悪でこちらの都合などかまわずに北の将軍様は弾道ミサイルを早朝から派手にぶっ放した。
その時、私は十七歳だった。
ネットニュースの見出しは、連日ミサイルのニュースをトップで飾った。テレビは視聴率を気にしてか、芸能人の不倫ばかりを取り上げる。早朝の駅のホームで電車を待っていると、小学生の話し声がひそひそと聞こえる。
「北朝鮮の人は朝からミサイル
降り落ちる雨は、黄金色#6
佳代は怒るでもなく私の命のお薬と言い、飴を食べる様に錠剤を口の中に何粒も放り込んだ。彼女は色とりどりの錠剤を気に入っていた。
「薬飲むの嫌じゃない?」
「そんな事ないよ。薬が溶けて、じわじわと効いていく感じがたまらないの」
「なにそれ、全然分かんない」
佳代は傷ついた顔をしていた。
「この感覚はあたしの宝物だよ」
「ごめん」
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。こ
降り落ちる雨は、黄金色#5
佳代は鞄から一冊の本を取り出した。
超訳ニーチェ。
「えっ誰?」
「偉人。この本によると、苦悩を越えた人間は超人になれるんだって」
「超人て何?」
「人でない存在」
佳代はニーチェを信仰している。彼女の哲学は理解できないが、とても尊い。私も、ニーチェの本を斜め読みした事があるが、難しい単語が多くて読む気をなくした。ページをめくると気になる単語を見つけた。
虚無主義。ニヒリズム。
降り落ちる雨は、黄金色#4
クラスメイト達は皆、スマホの無料ゲームや芸能人の恋愛の話を楽しそうに話している。くだらない。お前ら全員、さっさとつまらない男に消費されてしまえばいい。皆お互いを牽制しあってありきたりな話題で、盛り上がっているフリをしている。やつら上辺だけだ。私とは話が全然通じない。寄り添えない。全員他所の惑星の住人だ。その事を佳代に話したら軽く笑われた。
「いいじゃん。別にテレビでもゲームの話題だけで盛り上
降り落ちる雨は、黄金色#3
▷第一話【降り落ちる雨は、黄金色#1】
佳代はいけ好かない女だ。こんなやつに、振り回されたくない。言葉を交わしたくない。私の聖域に踏み込むな。彼女は愛されるのが当たり前みたいな、小動物的な瞳をしている。ここは無視してやり過ごそう。そんな私の気持ちを知らずに、佳代が話かけてきた。
「カンブリア紀すきなの?」
「別に」
「きみ変わってるね」
私は直ちに戦闘体勢をとった。屈辱だ。自分の大切
降り落ちる雨は、黄金色#2
▷第一話【降り落ちる雨は、黄金色#1】
六畳ほどの広さの殺風景な進路指導室は薄暗く、白い机の上には進学のパンフレットが 平積みに置かれていて物置のようだった。
「井上、進路どうすんだ」
「...」
重たい沈黙が肩の辺りにのっている。
「黙ってても終わんねえぞ。やりたい事はないのか?」
森下は呆れて腕を組んだ。
「親がお金出してくれるなら進学したらどう?」
「どうしてですか?」
降り落ちる雨は、黄金色#1
高校の頃、日本と北朝鮮の国交状態は最悪でこちらの都合などかまわずに北の将軍様は弾道ミサイルを早朝から派手にぶっ放した。その時、私は十七歳だった。
ネットニュースの見出しは、連日ミサイルのニュースをトップで飾った。テレビは視聴率を気にしてか、芸能人の不倫ばかりを取り上げる。早朝の駅のホームで電車を待っていると、小学生の話し声がひそひそと聞こえる。
「北朝鮮の人は朝からミサイル飛ばすの好きだね