降り落ちる雨は、黄金色#7
いつもの様に図書室に向かうと、そこに佳代の姿はなかった。
普段なら陽の当たらない隅の席で、 日焼けを気にしてか黙々と本を読んでいる。その姿は私をいつも和ませた。彼女の居ない図書室は主を失った城の様にしずかに沈黙していた。
心がざわつく。私は彼女の身に何かあったのではないかと思い、 すぐに電話した。電話越しの佳代は驚くほどに明るかった。
「どうしたの?」
「電車乗ろうとしたら汗が止まらなくなって、心臓の音が早くなって駅で降りちゃった」
「大丈夫?」
「…しばらく休むかも」
「死んじゃったかと思った」
「殺すな。秋とか最悪、気圧の変化とか台風の日は、頭痛くて死にそう」
「大変だね」
「ロキソニン欲しかったら上げるね。沢山あるよ」
「うん」
ネットで気圧、頭痛、生きづらいと検索してみた。すると頭痛がひどくて日常生活に不調をきたす人の日記が上位にヒットした。
今日の東京の空、PM2.5濃度が高めで青空が霞んでいる。一時的に注意喚起レベルの数値を超えた。
昼の気圧は1020ヘクトパスカルから、 夕方になると1015まで急激に下降した。 耳はマラソンを全力完走した後のようにずっと痛い。頭が割れそうだ。自動販売機でコカコーラを買って、常備していたバファリンを流し込んだ。世界がぼんやりと見える。このままもう、何も見たくない。
ねえ何で生きてるだけなのに、こんなに疲れるの。
日記を少し読んでみると、禍々しい毒気に当てられてしまった。辛い。私は佳代の具合が回復することを切に願った。どうか、よくなりますように。
つづく
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