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「砂の惑星」を読む こことは違う別の場所で

 日本列島には前線が停滞し、昨日とはうって変わって肌寒い日になりそうです。窓の外を眺めれば雨が降って道路を濡らしています。

 砂の惑星アラキスでは雨は降りません。それどころか水を確保するのが最大の問題になるほどの場所です。僅かな水のせいで命を落とす。そんな場所です。印象的な、場面があります。

スティルガーはジェシカに目を向けた。
「それはほんとうか?おまえたちの荷物の中には水があるのか?」
「ええ」
 「 リットルジョンに入った水がか?」
「二本入っているわ」
「それほどの富を、どう使うつもりだったのだ?」
(富?)
スティルガーの声に冷たさを感じとりつつ、ジェシカはかぶりをふった。
「私が生まれた地では、水は空から降ってきて、大きな河となり、大地を流れていたの。海もあったわ。向こう岸が見えないくらい大きな水の広がりがね。わたしはあなたがたの節水律に慣れていないのよ。だから、水をそこまでの貴重品として考えたことがないの」
付近のフレメンたちの口から、うめき声のような嘆声が漏れた。
「水が空から降ってくる。・・・・大地を流れるだと?」

砂の惑星 中

 砂の惑星を読んでから雨が降るとこの場面を思い出します。私の住んでいる長野県には海はありません。まわりは山ばかりです。しかし雨が降り大地を何本も河が流れます。今の季節は稲刈りも7割がたおわり、灌漑用に作られた川もいまは稲作の季節も過ぎ、水の使用する必要性もうすれ水が止められています。

 ジェシカもかつて住んでいた緑あふれる惑星カラダンに帰りたいという思いにとらわれることがあります。

 この記事でも書きましたが、砂の惑星では水こそが富なのです。その水が空から降ってくるなどというのは本当に夢のような話です。経済学なら空気と同じように水も自由財のように考えることもできるかもしれません。自由財とはふんだんにあるので、だれでも自由に対価を払わずに使える財という意味です。

 水には自由財という以上に富という言葉があてはまる気がします。欲望の対象でもあり、水を飲むとは快楽でもあり、生命そのものでもあります。水は人体の7割をしめています。さらに古代ギリシャのタレスは四大元素によって世界は作られていると考えていました。四大元素とは水、火、土、空気です。

 水は水蒸気となり空にのぼり、あるときには雨となり、寒さの中では雪となり、山の上ではしばしば霧となります。私達はそれを見て、感じて、自然というものを考えるのです。

 砂の惑星はあり得るかもしれないもう一つの世界です。その自然は厳しく人間が簡単に生きられる場所ではありません。しかし魅力的な場所に思えるのも確かです。


#読書の秋2022

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