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ジュール・シュペルヴィエル『海の家の少女―シュペルヴィエル短篇選』を読んで
『海の家の少女―シュペルヴィエル短篇選』 ジュール・シュペルヴィエル 2004.5.26 発行 みすず書房
内容
シュペルヴィエルの作品世界をどう位置づければよいのだろう。SF小説だろうか、童話だろうか、それとも妖精物語だろうか。そのどれでもあり、どれでもない。ここに収録された20の短い物語に共通しているのは、その入り口のところで、読者を現実からずれた架空の、ファンタジーの世界に引き込むということだ。最初の短篇集の表題作「海の上の少女」から、コンサートのアンコール用の技巧にとんだ小品のような最後期の短篇まで、戦後に出発した日本の詩人たちのアイドルでもあった詩人作家のベスト集。
ジュール・シュペルヴィエルは、フランスの詩人・作家。
彼の詩は、独特のイメージや孤独感、余韻に満ちたもので、幻想的で寓話的な小説でも知られています。
以下は印象に残った作品。
「海の上の少女」
年を取ることもなく、いつまでも一人で、海の上で暮らす少女。彼女はいかなる理由があってこの場所に存在しているのか。失った娘を思う、男の想いが「海の上の少女」を生み出してしまったという話。
生まれた理由も分からず、死ぬことも出来ず、ただ一人で生きていかなくてはならない少女の絶望、孤独、悲哀が漂う物語でした。
「ヴァイオリンの声の少女」
言葉の底に潜むヴァイオリンの音色。ある日、木から落ちた少女は、自分の声に不思議な響きがあることを知る。六ページほどの掌編作品。
少女からは、ヴァイオリンの響きとともに、黙っていても彼女の心の内がこぼれ出てしまいます。そんな悩ましい「ヴァイオリンの声」も、少女が恋を知ることで出なくなってしまう。この「ヴァイオリンの声」は、女性の純潔を暗示しているのかなと思いました。少女が恋を知ることで失われるという展開は、純粋さや無垢さが恋愛との接点で変化することを示しているように感じられます。
「牛乳のお椀」
病気である母親のために、お椀にあふれんばかりの牛乳を満たして、毎朝パリの街を横切っていく青年。その習慣は、母親が死んでからも続いていく。わずか三ページの掌編作品。
街に出ればたくさんの人がいる。繰り返されている同じような風景かもしれないけれど、人それぞれ、何かしらの想いを抱えて歩いているのだと感じさせる物語でした。
いろいろと調べてみると、米澤穂信さんの論評を見つけました。米澤穂信さんは、以下のようにコメントしています。
まるで、孤独を彫刻にしたよう。ここには美しい孤独も、そうでもない孤独も描かれています。いったい、孤独について読むことは必要なのでしょうか? きっと多くの人が、そうではないと答えるでしょう。実は私もそう思います。なのに、この小説は人の心を捉えて離さないのです。