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連載縄文小説☆「縄文人のオレが弥生人のアイツに土器土器するなんて」第五章 初めての恋

                             
 初めての恋は叶わないっていうけれど、そもそも今、ルルと僕は女同士なのだ。しかも、僕にはアシリという夫がいてまた、ルルはアシリの第一婦人だっていう……これ、さすがにどんな恋愛の策士でも、叶わない恋なんじゃないのか!?
 ルルは泣きながら食事の片付けを終えると、土器を作るからついてこいと言って、僕を粘土を取る場所へと連れて行った。

「あたしね、頭に来たりもう、考えても仕方ないってことがあったら、土器を作ることにしてるの。アンタのことは考えてもしょうがないじゃん。だって、村長が決めたことだし。アンタも好きでここに来たようにも見えないし……。なんか、苦労して来たんでしょ?」
「そ……そうだね……」

 何より、僕は今僕の運命がわからないのだ。こんな、裸に貫頭衣を被っただけの服装で、縄文の森にルルが僕を置き去りにすれば、おそらくは元の村まで帰ってはこれない。
 縄文マニアの僕は弓で火を起こした経験はあるけど、それだって弓がなければやりようがわかんないし、実際に何度もチャレンジして火が着いたのは一回くらい。心もとない……。僕は、飼い犬が飼い主だけを頼りにするように、ルルについて歩いた。サンダルのようなものを履いているのだけど、土と草が足を汚してどんどん、僕は草の匂いに溺れていく。森を抜けると、地面が隆起したのか露出した地層が現れた。
 
「ハイ、ここが粘土の山。触ればどこが粘土かわかるからここから村に持っていって、それに砂を混ぜて土器を作るの。ねえ、アンタもう、アシリとやった?」
「や……!? やってないです、そんな、やってない!」
 僕は今朝方のアシリとのことを一瞬思い出したが、アレはやったうちに入らないはずだと頭をすごい勢いで振り続けた。ルルは少しホッとしたような表情を浮かべたけど、しゃがみ込むとうつむいてこう言った。
「でも、子ども産まなきゃいけないじゃん。あんた、そのために大陸から来たんだし。いずれ、やんなきゃいけないでしょ」
 僕は本当に困った情けない顔をしていたのだろう。ルルが少し、同情するような目で僕に近づいた。
「本当にもう、恋敵のくせになんでそんな、弱そうなのよ、アンタ。アタシがいじめているみたいに見えるでしょうが! ずるいなあ……そんな、弱そうな女が男は、好きなんでしょ? きっと。アタシは、強いから。弱いふりなんてできないし……」
 側に寄るとルルは、飼い主が犬を撫でるような優しい目で僕の髪をクシャッと触ってくれた。
「変なの。あんた、変わった女だね」

 ルルがアシリを好きな気持ちは、きっと何よりも真っ直ぐで空を貫くようなものだ。アシリは、ルルが好きなのに僕のことも好きなんだろうか? そもそも、生きてるってどういうことなんだろうか……。
「正直、僕は、セックスとか……したくないです。できれば、そういうことしないで、生きていきたい……」
「なんで?」
「えっ、なんで?」

 ルルは本当に不思議そうに僕の紅潮した顔を見ると、「変なことを言うやつだ」という厳しい目でこう言った。
「なんで、セックスもしたことないのに生きるとかなんとか言うの? 一番大事なことじゃん。ああ、早く子ども産みたいな」

 縄文カルチャーショック……!!
 
 そういえば……。

ストーンサークルの中心にある立石は、男根を表していると前に偉い学者が言っていた。学者が言わなくても、その石は立派なソレにしか見えなくて、周りにある陰石は女性器を表していて、ようはセックスをしろという意味だと言われている。
 「死と再生のモニュメント」なんて言うけど、ようはセックスして子ども産めって言っているのだ。ストーンサークルは墓場にもなっている。墓場に男根の石を立てるセンス……それが縄文人なのだ。

そうすれば、亡くなったご先祖様が
また赤ん坊になって生まれてこれるから。

 大事なことだから石で残したのだ。文字は、風化してしまうだろうから。

 ☆つづく☆ 写真:大湯ストーンサークル(秋田県)

  撮影 山田スイッチ 

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