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連載小説『縄文人の俺が弥生人のアイツに土器土器するなんて』第14章 ここへ来た本当の理由 中編

冬が過ぎ、春が来て。臨月が近くなった頃、僕達のお腹の中にいる赤ちゃんは既に、お腹の外との意思疎通ができるようになっていて。小さな拳が僕のお腹を中から押したりしているのが見えた。時折、寝返りでも打つかのようにゴロンとお腹の中で転がられて驚くこともあって。


「ああああああ、僕今、腹の中で生命を育ててるんだ……腹の中で!」
 と、おののいた。大きくなったお腹は、まるで土偶のようで。縄文人が土偶をふくよかな女性の形に造ったのは、妊娠中の女性に畏怖を感じていたからかもしれない。
 そりゃ、体の中で生命を作るだのって、僕にとってはSFよりもSFらしい出来事だ。
 土偶におっぱいがあることは皆知っているが、女性器の表現があることは縄文好きにしか知られていない。しかも、そういう女性器を持つ土偶は稀で、漆で全身が赤く塗られて、神様のように祀られていたと考えられている。
 それほどまでに、縄文人にとってアソコは神秘なのだ。アソコから生命が生まれてくるわけだから。
「縄文時代には産婦人科がないから……怖いなあ。今、どれくらい育ってるんだろう? もうそろそろ、産む時期なんだろうか。」
 山菜を摘んで竪穴式住居に戻ると、いつもなら僕よりも先に外で料理をしているルルが見当たらない。
「あれ? ルル? ルルー?」
 すると、ルルは住居の中にしゃがみ込んで、お腹を押さえていた。
「タカユキ……! お腹、お腹がすごく痛い! 痛い痛い痛い! どうしようもう、生まれるのかなあ?」
 ルルが涙目になって叫んだ。
「産婆さんを呼んでくる! ルル、大丈夫だから安心して!」
 僕はどうしようもなく取り乱して、山菜をその辺に放り投げ、アシリを呼んだ。
「僕は、産婆さんを呼んで来るから! アシリはルルの側にいろよ!」
 片方の手で自分のお腹を押さえ、「慌てない、慌てない」と自分に言い聞かせた。
 慌てて走ったりしたら、お腹の子供に障る。大丈夫だ、動物だって誰に教わらなくても出産するんだ。この時代の人間が、産めないわけがない。
 村の外れにある高い木の側の竪穴式住居には、テンニャクババと呼ばれる呪い師もできる産婆さんが住んでいる。出産前に近所の人から「生まれそうになったら、あそこのババに頼むんだよ」と言われていた。
「アシリの嫁、ルルの赤ちゃんが今にも産まれそうなんだ。すぐに来て!」
 そう言うと、テンニャクババは僕を見て、「あんた、大陸から来た人間かい? 妊娠してるじゃないか」と言った。
「うん。僕は、弥生文化を持ってやって来た、向こうの人間だよ」
「そうか。その子は……多分、アンタには育てられないだろうね。」
「……!?」

 テンニャクババは僕のお腹を見て言った。いや、彼女は盲のようで、目は薄い膜を被って灰色をしていた。きっと、白内障なのだろう。
「何で、見えないのにわかるんだ?」
 すると、ババは言った。
「見えないからわかるのさ……さあ、その娘のところに私を、連れて行っておくれ」
 僕はババの手を引いて歩いた。ゆっくりと、慌てないように。そうしないと、心臓が破れそうなほどハラハラしてしまって、怖くて足元から地面が崩れそうだった。
 家に戻ると、ルルは出血をしていて、その血の量が多いのに驚いた。アシリがルルを抱きかかえて「大丈夫だ」と言っている。
(あれ……本当に大丈夫なのかな……血の量が多い……)
 

僕は不安になっていたが、テンニャクババならなんとかしてくれるだろうと、ババの顔を見た。ババの表情は読めなかった。
 それから十時間ほどもかかって苦しみながらルルは出産したが、生まれた子は息をしていなかった。いくら手を打っても産声は上がらなかった。テンニャクババは言った。
「この子は、戻さねばマネ子だ(戻さなければいけない子だ)。最初の出産にはよくあることだ。アンタは次、立派な男の子を産める。大丈夫だ、この子は私に任せて、アンタは寝なさい……」
 ルルは泣いていた。アシリは家の外で神に祈っていた。
「そんな……、そんなことってあっていいの? そんなことって……」
 僕の目からは涙が一筋、こぼれていった。ああ、こんな時、神様がいたら……神様が! 
(あ………、い、る……?)
 あいつだったら、何とかしてくれるかもしれない。僕を、弥生人の女にして縄文時代に送り込んだあの神様なら……!
 悲嘆にくれるルルをアシリは慰めていた。テンニャクババは疲れ切って座り込んでいた。

竪穴式住居の外は、夕焼けが近づいていた。僕は、石の神様の元へお腹を押さえて歩き出した。

つづく 


連載小説『縄文人のオレが弥生人のアイツに土器土器するなんて』

第一章 ストーンサークルで神に会う
https://note.mu/yamadaswitch/n/nc2d544fc1914

第二章 弥生人として嫁に行く
https://note.mu/yamadaswitch/n/ne7ee7f444ee5?magazine_key=mddd3d82c5500

第三章 (有料 300円)コレ、どうしたらいいの?
https://note.mu/yamadaswitch/n/n52c59819a28d?magazine_key=mddd3d82c5500

第四章 縄文人の男を取り合うだなんて
https://note.mu/yamadaswitch/n/n1b5fc2a55a83?magazine_key=mddd3d82c5500

第五章 初めての恋
https://note.mu/yamadaswitch/n/nfda8c0503c9f?magazine_key=mddd3d82c5500

第六章 胸が土器土器する
https://note.mu/yamadaswitch/n/nf99b1b0e5cdc?magazine_key=mddd3d82c5500

第7章 (有料200円 ロヒンギャ難民支援付き)縄文人と交わるだなんて
https://note.mu/yamadaswitch/n/n2643df55fedc

第8章 恋とかしても生きていかなきゃいけないし
https://note.mu/yamadaswitch/n/ne769a6b748da 

第9章 弥生式土器を教えたくない僕
https://note.mu/yamadaswitch/n/n874767572529?magazine_key=mddd3d82c5500

第10章 嘘みたいな本当の話
https://note.mu/yamadaswitch/n/nf32b6f2c217c?magazine_key=mddd3d82c5500

第11章 「僕はどう生きたら僕なんだ?
https://note.mu/yamadaswitch/n/n4a0737bc35f1?magazine_key=mddd3d82c5500

第12章 「彼氏に置いていかれた二人」
https://note.mu/yamadaswitch/n/n958b7fecbcf4?magazine_key=mddd3d82c5500

第13章 「ここへ来た本当の理由 前編」
https://note.mu/yamadaswitch/n/n5b825add61f4?magazine_key=mddd3d82c5500

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