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たらいの中の瓶の輝き

私は今年で70歳です。幼い頃の私にとって炭酸水は夏のご馳走でした。夏休みに家族で行った海。夏だけそこに出現する海の家。おじいちゃんも一緒だった納涼席。瀬戸内の海と島影。そしてギラギラと照りつける太陽。

麦わら帽子を被ったおじいちゃんが甚平姿で私の手を引いて砂浜を歩きながら「ゆっ子、何でも買うてやる、何がええぞ」と言ってくれた。そんな記憶が蘇ります。

私は海の家のよしずの下に置いてある氷が入ったたらいを覗き込んで「これがええ」と指差します。それは熟れたスイカやオレンジジュースと一緒に浮かんでいたサイダーです。当時サイダーは私にとって少し大人びた洒落た飲み物でした。母には言えなかったけれどおじいちゃんには言えたのです。

「サイダーがええ」おじいちゃんは「オレンジジュースの方がお前には飲みやすいかも知れんぞ」と言いますが、私は「ううん、サイダーが飲みたいんよ」と言っておねだりしました。

子どもだった私には炭酸のシュワシュワ感が何とも言えず、大人の世界に飛び込んだような、不思議な魅力があったのです。おじいちゃんは「お母さんには秘密ぞ」と言いながら、私にサイダーの瓶を渡してくれました。

私は一口飲んだら大満足。ちょっぴりお姉さんになった気持ちでいたものです。瓶に残ったサイダーはおじいちゃんが飲んでくれました。

たらいに入ったサイダーの瓶の耀き、それは私が幼なかった夏の日のおじいちゃんとの思い出に繋がります。



 
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