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健太と渓谷の仲間たち

◇◇ショートショート

健太は大きな声を出したかったけれど、いくら叫ぼうとしても声が出ません。
「助けて」と言おうとしますが、どんどん水の中に、引き込まれて行きます。

その時、健太にこんな声が聞こえました。
「僕たちがいるから諦めないで、健太君、待ってて僕たちが助けてあげるから」


その日、健太とお姉ちゃんは、滝に咲いているささゆりを見に行こうと、出掛けました。その帰り道、健太が足を踏み外して崖下の川に落ちてしまったのです。

お姉ちゃんは一人ではどうしようもなく、助けを呼びに行きました。

「健太が川に落ちたー、助けて―」ありったけの力を振り絞って叫びますがその声は渓谷に虚しく響くばかりでした。


健太一家は、3年前に東京から田舎に引っ越してきました。
お父さんはIT企業のCEOをしていましたが、言葉が上手く話せず、都会の生活に馴染めない息子のために、一大決心をして、田舎暮らしを始めました。

山の仕事をするようになったお父さんと子どもたちは休みの日には、三人で近くの山を歩いて、珍しい草花を観察しては、スケッチを楽しみました。

健太は植物の細部までじっくり見て、誰もが驚くくらい緻密に本物そっくりに、描いていました。

「健太は植物や昆虫の心が分かるみたいに、上手に描けるねー」

「お姉ちゃんには、聞こえないのー、みんなの声が」と健太がとぎれとぎれに手話を交えて話します。

「私には、何にも聞こえないけど、健太には、聞こえるのね」

「うん、僕はみんなが、楽しいとか、嬉しいとか、悲しいって言ってるのが聞こえるよ」

「凄いねー、健太、植物とお話ししてるんだ・・・」

ある時、こんなことがありました。
地域の人たちが遊歩道の整備をしようと、草刈り機で雑草を刈り取っていると、健太が大声を出して泣き叫んだのです。

「やめてあげて、みんなが泣いてる、可愛そうだよ」
いつもは大人しい健太の剣幕に作業をしていた人たちは一瞬手を止めました。

健太には、植物や昆虫の声が聞こえたのです。
「葉っぱに卵を生んでるのに、その草は絶対刈り取らないで、お願いだから」健太はその声を無視することは出来ませんでした。
だから大きな声でその事を知らせたのです。

夏のある日、ホタルを逃がしてあげたこともありました。
「僕たちがガキ大将に捕まった、僕たちは命が短いのに、このままだと何のために生まれてきたのか分からない、健太君助けて」
ホタルの声を聞いて、健太は捕まっていたホタルを逃がしてあげたのです。

溪谷の植物や昆虫からのSOSがあると、健太はその度に溪谷の仲間たちを助けてあげていました。

植物や昆虫と健太は心を通わせていたのです。

川を流されていた健太の体は、ふわーっと宙に浮かんで、河原に運ばれました。

お父さんや地域の人たちを連れて戻ってきたお姉ちゃんは驚きました。
横たわっている健太の周りをたくさんのホタルが照らしているのです。

「健太、大丈夫」と、お姉ちゃんが声を掛けると健太は、パッと目を開けて「僕、お花畑にいたよ、綺麗だったよお姉ちゃん」とニコニコ笑ってその場にさっと起き上がりました。

健太は、溪谷のやさしい仲間たちに助けられたのです。


【毎日がバトル:山田家の女たち】

《生き物には優しくせんといかん》


「優しい心は動植物にも分かるんよ、健太君は良かったねー、みんなに優しかったけん

「ほんとじゃねー」

「私らも、生き物は可愛がって、優しくせんといかんと思う、ええショートショートを書いたねー

本当に、小さな命も大切にしなければと思います。


最後までお読みいただいてありがとうございました。
たくさんある記事の中から、私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただき心よりお礼申し上げます。
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また明日お会いしましょう。💗

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