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【プロット】極度に緊張した精神科医が、運動場にいる。

 臙脂色の地面に白線がくっきりと伸びていく。
 芝生の緑と鮮やかにコントラストを効かせた、だだっ広い空間にトレーナーにトレパンという中途半端な恰好の男が立っていた。
 精神科医という仕事は、神経を極度にすり減らす。
 患者の精神状態をコントロールするために、自分自身の感情をかき乱されるため感情労働と呼ばれる。
 大きな声では言えないが、ミイラ取りがミイラになる場合もあるし実際同業者の中に発達障害を抱えていたり、過去に神経症を発症したりする場合もある。
 メンタルクリニックを経営する細井は、1週間仕事をするとリフレッシュのために運動を欠かさなかった。
 市営の陸上競技場を借りて、トラックに立った細井は極度に緊張した。
 ときどき作業所や特別支援学校とのつながりで、患者と一緒にここへ来る。
 陸上競技場には慣れていたのだが、今日は先客が2団体いた。
 ひとつは情緒障害者らしかった。
 もうひとつはオリンピック強化選手である。
 障害者の方は、動作が緩慢で走り出すまでに時間がかかりそうだった。
 どちらも気を遣う客である。
 良い予感も悪い予感も脳裏をよぎってしまうが、頭を強く振って映像を消し去り、目の前のコースだけを睨みつけた。


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