山吹あやめ(山吹菖)

青森県出身小説家。著書『死にたがりの完全犯罪』シリーズ(TO文庫)宇宙・量子論好き。宇…

山吹あやめ(山吹菖)

青森県出身小説家。著書『死にたがりの完全犯罪』シリーズ(TO文庫)宇宙・量子論好き。宇都宮大学教育学部卒だけどゼロ免。Xアカウントはありません。

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  • 『死にたがりの完全犯罪』SS集

    『死にたがりの完全犯罪』シリーズ(TOブックス)のSSまとめです。

  • 『死にたがりの完全犯罪』情報

    『死にたがりの完全犯罪』シリーズ(TOブックス)に関する情報。

  • 白と黒のマグカップ

    「5分で読める彼らの日常」をテーマにしたショートショート集。節約のために同居中の男子大学生2人のお話。どこから読んでも大丈夫。本編は『死にたがりの完全犯罪』シリーズ(全4巻)です。

  • 【まとめ】アルコールランプが消えるまで

    「探偵のロジック」百瀬光太。「観察者のロジック」久米充一。高校二年の二人の青春ミステリー。

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【全4巻】『死にたがりの完全犯罪』あとがき

1巻 死にたがりの完全犯罪と部屋に降る七時前の雨(2022.02) 2巻 死にたがりの完全犯罪と祭りに舞う炎の雨(2022.09) 3巻 死にたがりの完全犯罪と月夜に散る光の雨(2023.04) 4巻 死にたがりの完全犯罪と朝陽に照る十一時前の雨(2023.12)  新型感染症(新型コロナ)に翻弄された2020年を舞台にした、日常の謎と科学雑学、2人の関係性の物語でした。  緊急事態宣言から始まる春、パンデミック下での帰省と祭りの夏、大学生として悩む秋、部屋の扉を開ける冬、

    • ある、暑すぎる夏の日のこと

       臙脂色のソファを一人で陣取り、両手足を投げ出してぐったりしている同居人は、まさに「へそ天」姿の猫のようだ。残念ながら猫のような愛らしさはなく、生え際からこめかみを伝って汗が落ちそうになっている。部屋着にされた古いTシャツは白いため、汗ジミが分かりにくいけれど、おそらくソファは相当に湿っているだろう。 「……地球が殺しにかかってきてる」  扇風機の風に飛ばされそうなひ弱な声で、死に体の猫、桂月也は呟いた。洗い終わったばかりの洗濯物のかごを抱えた日下陽介は、汗に落ちる眼鏡を押し

      • 〜TikTokにアカウントをお持ちの方へ〜 TOブックスさんが『死にたがりの完全犯罪』紹介動画をアップしてくれています。 ぜひ、ご覧ください☔☽☼

        • 繫体字版『死にたがりの完全犯罪』

          『想死的完全犯罪者與七點前落在房間裡的雨』の見本誌をいただきました!  ソフトカバーの、美しい仕上がりとなっております。  日本文庫版がツルツルした質感だったのに比べて、繫体字版は紙本来のざらざらした手触りが感じられる、落ち着いた印象のカバーです。  サイズ感もあり、世禕さんのイラストをいっそう楽しめる表紙だと思います。  新型コロナ禍の日本が舞台ということで、海外の方にどう読み取ってもらえるのかと、文化の違いに不安半分楽しみ半分です。  執筆当時、新型コロナ関連の情報を収

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        【全4巻】『死にたがりの完全犯罪』あとがき

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        • 『死にたがりの完全犯罪』SS集
          8本
        • 『死にたがりの完全犯罪』情報
          12本
        • 白と黒のマグカップ
          4本
        • 【まとめ】アルコールランプが消えるまで
          14本

        記事

          台湾の春天出版さまより、繁体字版出ました! 『想死的完全犯罪者與七點前落在房間裡的雨』 楽しんでもらえたら嬉しいです! 「我希望你喜歡它!」

          台湾の春天出版さまより、繁体字版出ました! 『想死的完全犯罪者與七點前落在房間裡的雨』 楽しんでもらえたら嬉しいです! 「我希望你喜歡它!」

          【9/2発売】コミック2巻『死にたがりの完全犯罪』

           雨が強まるように、不穏さが増す第2巻……  今回も、SSを載せていただけました。1巻の時は格納庫から引っ張り出してきたものでしたが、2巻は完全書き下ろしです!  そして、1巻同様、作者あとがきはコミック版だけの特典です。  あとがきでも触れましたが、今回のSSでは、ちょっとした工夫をしてあります。ぜひ、小説版1巻をお手元にご用意して、どういうことかをお確かめください!  いちいち言葉にするまでもなく、りんぱさんの表現される漫画は素敵です! 本当に、そのまんまの空気が漂っ

          【9/2発売】コミック2巻『死にたがりの完全犯罪』

          20.6/13.6/28.0/28.0/7.6 14.6/21.6/0.6/2.6/20.6/16.6/13.6/7.6 6.6/27.0/6.6/27.0

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          カスタードプディングは甘すぎる(後編)

          「――犯人は先輩以外あり得ないでしょう!」 「だから、俺は食ってねぇって」  星の見えない曇った空へと、月也は呆れた様子で煙をのぼらせた。言葉の端々には「しつこい」という感情が滲んでいる。  陽介としても、疲れて帰宅した月也を、しつこく問い詰めたくはなかった。けれど、自供と謝罪が得られないのだから仕方がない。  氷を浮かべた紅茶で喉を冷やし、気持ちも落ち着けてから、陽介はもう一度だけと繰り返す。 「いいですか、先輩。この家には僕と先輩しかいないんです。そこからプリンが消えた…

          カスタードプディングは甘すぎる(後編)

          カスタードプディングは甘すぎる(前編)

           冷やし中華はじめました――気温が二十五度を超える頃には当たり前に見かけた旗を、今年は見ただろうか? キュウリを細切りにしながら、日下陽介はふと思う。インフルエンザ同様に季節性ウイルスであることを望まれた新型感染症は、夏になっても収束には向かっていない。  それでも、ステイホームを心掛け、みんなが気を配ってきたおかげか、グラフ上では抑え込めているように思える。PCR検査の補助アルバイトをしている同居人、桂月也の帰宅時間も、最近は早い方で安定していた。  だからたぶん、今年の夏

          カスタードプディングは甘すぎる(前編)

          クランベルトさんの新曲!!

          とにかく、聴こう!! 解散されてしまったので……まさかのサプライズでした! 動画ではとっくに拝聴済みでしたが、配信開始ということで、新曲と呼びます。 この曲も、とにかく良いんですよ! 好きなものに対しては語彙力喪失してしまうのが、あー……! 聴いて! としか言えないので、とにかく聴いてと騒ぎます。 聴いてみればわかるはずなのよ!! まー、ちょっと悩んでたというか、落ち込みかけていたというか、そういうタイミングだったので、元気をもらえました。 ありがとうございました!

          クランベルトさんの新曲!!

          物理学には罪の歴史が含まれているー『オッペンハイマー』

           3月31日。話題作『オッペンハイマー』を観てきました。  様々な視点から語ることのできる本作、とりわけ「原爆」を扱うということで、劇場の入り口には事前の注意文のようなものがありました。  様々な視点――ノーラン監督作品として。アカデミー賞受賞作として。そしてもちろん、戦争という視点から……。  戦争については、私はどのように語ったらいいのか分かりません。映画ファンとも言い難いので、映画評のようなものもできません。しかしながら、これらの視点については多くの方が論点としてくださ

          物理学には罪の歴史が含まれているー『オッペンハイマー』

          未来に語るオブザベーション

           空は本当に、一足早く季節を変えている。  あまりに綺麗な青だったから、ボクは君を連れ出さずにはいられなかったんだ。  (つづく)  2011.03.11 07:12 fri  ブログに綴られた物語は、確かに途中で終わっていた。  ずっと不登校で、部屋にこもりきりの少女。彼女の過去を知り、想いを寄せていた少年が、とうとう手を伸ばす――クライマックスの直前だった。 (三月十一日か……)  本文の終わりに小さく表示された年月日に眉を寄せ、日下陽介はブログを閉じる。代わりに、この

          未来に語るオブザベーション

          オムライス

           フライパンの中で、チキンライスをとろりとした玉子で包み込む――ほどの腕のない陽介は、白い皿に盛っておいたチキンライスの上に、丸く焼いた玉子焼きをかぶせた。菜箸の先で整え、ソテーしたニンジンとブロッコリーを添える。ケチャップのボトルを手にすると、ニコニコと冷蔵庫を振り返った。 「先輩。ハートマーク描いてあげましょうか?」 「いらない」  陽介の冗談を一言で切り捨て、同居人の月也は冷蔵庫から背を離す。陽介の手からケチャップを抜き取った。上手に焼けたと陽介が心の中で自画自賛してい

          ムーンクッキー

           南岸低気圧の影響を受ける二月の風は冷たく、暮らし慣れたボロアパートの錆びた階段が見えた月也は、思わず走り出した。高く足音を響かせて部屋に飛び込む。エアコンを使っていなくても外気がない分だけ暖かいはずの室内は、ひゅうっと寒さに満ちていた。 「陽介?」  いつもは出迎えてくれる同居人が姿を見せないのも違和感だ。月也は脱いだスニーカーを揃えずに、風の流れを遡ってベランダに向かった。  陽介、と開きっ放しの窓から顔だけを出す。ベランダにセットされたアイアンテーブルに突っ伏した陽介は

          カレー

           日曜日の夜のこと。陽介は、半分残っていた甘口カレーの箱を取り出した。  家庭的な手軽さをモットーにしている陽介は、カレーを作る時にもさほどこだわりはない。コクを出すための隠し味は、インスタントコーヒーやチョコレートがあれば、気まぐれに使う程度だ。  カレールーもお決まりのメーカーがあるわけではなく、店頭で最も安い商品を基本的に選んでいる。これは、大学生としての懐事情が大きい。食費はどうしても削りがちだ。陽介の専攻が家庭科教育でなかったら、食生活は今よりずっと悲惨なものになっ

          玉子サンド

           牛乳たっぷりのカフェオレが入ったマグカップは、白と黒でちぐはぐだった。百円ショップの安物だからということもあるだろうけれど、購入時期が一年ズレていることが一番の要因だ。  オバケのような紫陽花が目立つボロアパートに、先に入居したのは、理科大学に通う桂月也だった。後輩の日下陽介は、一年遅れで大学生となり、教育学部に通っている。ルームシェアのきっかけは色々あったけれど、節約と、一人にしておくと死にそうなレベルで家事能力がない月也を、陽介が放っておけなかったことが大きい。 「あ、