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第10章:テクノロジーとの蜜月、音楽の未来(#全文公開)

 未来のイノベーションに関わるスタートアップスタジオとしては、Web3領域への取り組みが重要です。拙著から基本的な考え方を共有させてください。

本書でテクノロジーの進化が音楽ビジネスを変えてきたことを見てきました。インターネット普及当初は衝突していた音楽界は、テクノロジーと蜜月関係となっています。未来の音楽をテクノロジー視点から予測します。

『音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本」』P196

1:ブロックチェーンによる著作権管理:音楽に関する印税は毎年約5兆円

 ブロックチェーン技術は、インターネットと同じかそれ以上に、社会を変えると言われています。ここでも音楽は実験場になるかもしれません。
 世界の著作権団体CISACレポートによると、世界の音楽著作権徴収額は、2019年に103.5億ユーロ(約1兆4000億円)に達しています。IFPIによる原盤の売上は2021年に259億ドル(約3兆3000億円)です。音楽に関する2つの大きな「印税」は毎年5兆円近くあることになります。これが、徴収団体から音楽家に支払われるまでに、幾つかの段階が生じます。著作権を例に取れば、JASRAC→音楽出版社→作詞作曲家となり、それぞれ四半期ごとの分配が通常ですから、半年以上の期間が生じます。エージェントがいれば、もう一段階増え(数ヶ月遅れ)ます。

世界の音楽著作権使用料(p197)

透明な徴収分配が可能に 

 これまでは、音楽に関する権利収入は、放送局などの使用者から包括的に徴収して、集中管理をして分配するのが効率的だと思われていました。ブロックチェーン技術という進化がこの常識を変えることになるでしょう。オーディオフィンガープリント技術の活用で、音楽の使用は100%に近い確率で探知して、透明な徴収分配が可能になってきています。ユーザーが支払った著作権使用料が即時に近い形で音楽家に支払うこともブロックチェーンを活用すれば可能になるのです。これは音楽ビジネス生態系にとっては、革命的な変化です。
 但し、これから作られる音楽を新たなルールで分配することは可能ですが、音楽には膨大な過去作品があり、それぞれ個別に集中管理を前提とした契約が存在します。従来とは真逆である、ブロックチェーンによる分散型管理への移行は気の遠くなるような作業です。
 一方で、即時性や透明性、そして国を超えた送金など、ブロックチェーン活用のメリットは明らかで、第5章で見た「個へのパワーシフト」という圧力も生じますから、必ず訪れる未来と考えて良いでしょう。各方面で研究は始まっています。

2:Web3時代のビジネスとメタバース:バーチャル世界に広がる音楽体験

Web3への注目が高まる中、音楽業界でもメタバースとの連動など新しいエンターテイメントの展開 が模索されています。国内でも日本初のDAOが始動するなどの動きが見られています。

『音楽業界の動向とカラクリがよくわかる本』P198

 フェイスブックが社名をMETAにしたことで期待が過熱気味のメタバースですが、音楽ビジネスの未来にも大きな影響が考えられます
 MMORPGゲーム「フォートナイト」内でのトラ ビス・スコットのコンサートの成功については、本文ページで紹介しました。バーチャルなゲームの世界 に音楽が融合しているオンラインコンサートの発展形 として紹介しましたが、メタバースと音楽の関係につ いて考えるときに、現状で最も参考になる事例でしょ う。ゲームの中には、すでにバーチャルなコミュニティ が存在し、「一緒に目的を達成する」という絆も存在し ます。濃いエンゲージメントは、アーティストとファンの関係がその最たるものですし、同じアーティスト ファンという関係も同様です。音楽を楽しむ体験の場 が、バーチャルの世界にも広がっていき、リアルと バーチャルもグラデーション的につながっていくのが これからのエンターテインメントの世界です。リアル と同じような生活をメタバース内で行う人が増えてい くといわれていますが、強いて違いをあげるとすれば、 メタバース内での生活はエンターテインメントを内包 しているということです。「Play to Earn(P2E)」と いう遊ぶことでメタバース内での交換価値(貨幣) を手に入れるという考え方が象徴的です。
 NFTへの加熱ともいえる注目も、メタバースが次 のエンタメの中心になるという期待値に後押しされて いる側面があります。仮想通貨/暗号資産との親和性もあり「未来の儲け話」として注目している人も少なくありません。P82で音楽家にとってのユーザーダイレクトファイナンスの方法論としてNFTを紹介しましたが、メタバース内との相性は抜群です。リアルとメタバースと両方で活動する音楽家は増えていくでしょう。そして、リアルとバーチャルはグラデーション的に繋がっている時代が到来しているのです。

日本初の音楽DAOが始動

 WEB3.0は、ブロックチェーン技術が一般化して、社会の構成単位としての個人の存在感が著しく上がる分散型管理の社会です。 
 集中管理の必要がなく分散型で管理され、信頼性の担保までがユーザーネットワークの中で行われる時代には、前述の著作権管理だけではなく、音楽の様々なシチュエーションで大きな変化をもたらすことでしょう。DAOというアルゴリズムを核にいわばロボットが運営する法人が注目されていますが、個人へのパワーシフトとの親和性もあり、著作権を始めとする音楽に関する様々な権利の徴収分配に最も適した、効率的な形はDAOであると言えるでしょう。数多くの利害関係者が関わり、すでに仕組みができあがってしまっている中での分散管理やDAOへの移行には気の遠くなるような調整が予想されます。ただ、繰り返しになりますが、テクノロジーの進化で「かならず訪れる未来」でもあります。
 日本でも新たな動きが始まっています。きゃりーぱみゅぱみゅが所属、原宿カルチャーの担い手であるASOBI SYSTEMとWEB3の専門家集団Fracton Venturesが​メタバース内の文化都市開発を行う合弁会社「MetaTokyo株式会社」を設立しました。代表取締役を務めるPALLADE ALLの鈴木貴歩さんは、日本発の音楽DAOも「FRIENDSHIP.DAO」を始めるとの発表もしています。FRIENDSHIPは、サカナクションなどをが所属する音楽事務所HIP LAND MUSICを母体とするディストリビューション&キュレーション会社です。現役の一流音楽家も巻きこんだ動きでだけに大きな期待を集めています。WEB3.0時代にやってくるメタバースやDAOは、次の音楽の主戦場になる可能性が非常に大きいと言えるでしょう。

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モチベーションあがります(^_-)