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MID3M+超速報レポ「音楽と新たなテクノロジーの今」〜Web3✕音楽の世界の中心から

 フランス・カンヌからの超速報です。

MIDEMとは?そしてMID3M+とは?

 MIDEMは1967年から始まった世界最大級の音楽見本市。仏・カンヌで毎年行われ、世界中から音楽関係者が集まり、原盤権、出版権などの売買と情報交換の場となっていました。音楽の主戦場がデジタルに移り、国ごとに権利の売買、ライセンスを出すという手法が時代遅れになった15年位前からは、スタートアップとの連携やテクノロジー研究などMIDEM LABと、アメリカのSXSWを意識したような動きを始めていました。僕にとっては、以前の見本市の時にも、MusicTechに舵を切ってからも複数回訪れたことがある馴染みのあるイベントです。
 コロナ禍で二年続けて実施ができなくなり、運営会社が倒産しました。歴史と実績があるイベントなので復活するだろうと思っていましたが、Web3と音楽に特化したMID3M+というブランドで再開というのには驚きました。数年前からMIDEMの日本REP/アンバサダーの役割を果たしている友人の鈴木貴歩さんが、MID3M+のコミュニティMeSee+Founderに推薦してくれました。
 音楽分野でのWeb3に関する情報と人脈は集まることになると確信した僕は、Founderになりイベントにも参加しました。名簿によるとFouderは87人でした。日本人は僕だけです。ユニバーサルミュージックやSACEM(仏の著作権団体)、TuneCoreの親会社でもあるレーベルBELIEVE MUSICやDEEZERなどの名前があります。BEARPORTやLAST FMといった、老舗音楽サービスのCEOなども参加しています。DOLBYの名前も有りました。ちなみに、StudioENTREは、アルファルファベット順で、注目のNFTゲーム企業Sandboxのすぐ上にあり、なんか気持ちが上がりましたww

「音楽と新たなテクノロジーの今」

 初日のキーノートスピーチが素晴らしかったので、超速報的に紹介します。ニューヨークのMusic and WaterのCherie Huによるものです。タイトルは「MUSIC AND EMERGING TECH: THE STATE OF PLAY」。明確でわかりやすいスピーチでした。英語スピーチから僕の翻訳なので、細部にミスがあったらご容赦ください。よく理解している領域なので、趣旨は外れないと思います。
 アジェンダでは以下でした。

・アーティストたちと業界関係者は何を欲しているのか?
・2023年の音楽業界のための3つの新興テック領域「Web3、メタバース、AI」を押さえる。(アーティスト+レーベルの事例、2023年のチャンス)

 最初に、Cherie が代表を務めるMUSIC AND WATERの自己紹介がありました。ファイナンシャルタイムスやCNBC、ビルボードなどに研究が引用されていること、クラウドソーシングのデータベースを持ち、ミュージックテック起業への投資、Web3や音楽NFTプロジェクト、AI創造ツールなどが専門分野でDIscordで2000人のコミュニティを持っているそうです。

アフターコロナでアーティストが求めている3つのこと 

1)デジタル音楽経済の適切な維持
 このキーノートに限らないのですが、サブスクを中心とした音楽ビジネスの状況を、Traditional streaming ecosystemと口にしていて、刺さりました。要するにサブスクが幹とする音楽ビジネスの仕組みは、既に完成されて「伝統的な仕組み」と意識されているということです。日本との彼我の差にクラクラしますね。
2)ファンとのより親密で公平な関係を育む
 ブロックチェーン技術を核にした最新テクノロジーを使って、ファンと音楽家と音楽ビジネスに携わる人達の関係性が刷新されるというのがこのキーノートの核心です。
3)クリエイティビティの限界に挑む
 主にAI(人工知能)の活用で語られていきます。非常に刺激的かつ、的を得た内容でした。

成長が鈍化しているサブスク

 ストリーミングの成長率が伸び悩む中、音楽業界は、音楽の社会的価値と市場価値のギャップを埋めるため、より良い機会を模索しています。
 日本は周回遅れそれも2〜3周だというのは僕が持つ危機感なのですが、既にヨーロッパでは、サブスクの成長率が鈍化しているという前提で、「次」の収益方法としてWeb3的な世界を捉えています。

クリエイターエコノミー市場は2022年で1000億ドル(Forbes)
 象徴的な数字が掲げられていきます。近年のキーワードであるクリエイターエコノミー。プロ、アマチュア、セミプロが厳密に区別されずグラデーション的に繋がって創作と消費が混じっていく世界のことですが、昨年は約13兆円の市場と捉えられているそうです。

ゲーム市場2023年で2210億ドル(Newzoo)
 Web3の先駆的な存在、かつ主戦場であるゲーム、今年の市場規模予測は約28兆円だそうです。金額の大きさに流石に驚きました。

メタバース市場は2030年には13兆ドル(Citi)
 メタバースはこれからの市場ですが、期待値では巨大です。2030年には168兆円というとんでもない数字が予測されています。

Web3はアーティストと音楽コミュニティのための資金獲得法

 MIDEMは音楽関係者を中心としたイベントなので、その文脈でWeb3も音楽家や楽曲の資金調達する方法として語られるのが基本です。
 サブスクの成長率が鈍化してきているから、早くWeb3関係の場所や手法で稼がなくてはいけない、というシンプルな議論の設定が心地良かったです。
2億500万ドル:2020年12月以降NFTで販売(二次流通除く)された金額で、これはインディー、アンサインドアーティストにとって73%になそうです。

何故、Web3なのか?

 音楽業界関係者が中心ですが、テクノロジーの進化に対する洞察は深く、かつ的確です。Web3の音楽ビジネスにおける価値を以下のように位置づけています。

透明性の高さ:ユーザー行動などのデータ、印税支払いなどのお金の動きで透明性が担保されることは重要ですね。
参加動機を高める:アーティストと業界関係者とファンの境目が曖昧になるとと同時に、参加意識を高めることができるのもWeb3時代の特徴です。
Web2ビジネスの限界を破る:プラットフォーマーが力を持ちすぎるというWeb2のデメリットは音楽ビジネスにおいても当てはまります。Web3の世界を早く呼び込むことで、課題解決に繋がると考えている訳です。「音楽創造以外のすべて」のビジネスモデルが同じレベルになるという言い方は、なるほどなと思いました。

 事例紹介もしっかりされていました。
トークンを使ったライセンスや著作権の共有:既に、先行的な事例は出てきています。
コミュニティ生成:トークンを入り口にして新興SNSDiscordでコミュニティ活性化していく、そこに権利の管理もつないでいくような流れです。
ライブでの希少性ビジネス:VIPチケットなど、NFTを使うことで、希少化を担保する動きが収益を上げ始めています

Web3✕音楽の2023年

 その上で、今年起きることとして語られたのは3点です。
長期的な収益が得られる:長期的な集積に貢献することは既に実証済みだとデータ付きで紹介していました
コミュニティ活用の新たな動き:テクノロジー活用で、アーティストパートナーシップやチーム編成が進んでいき、レーベルの新しい形となるだろう。
NFT活用によるユーザー参加の拡大:若い世代の音楽消費やキュレーション体験をブロックチェーン技術で可能にしていく。

メタバースは、音楽の可能性をを拡大していく

 2つ目のテーマはメタバースです。ここでも他のカンファレンスにはない、「音楽にとって」という分析が続きます。

2.5億ドル:音楽業界がメタバース関係のスタートアップへの投資金額

ゲーム市場で起きたこと:トラビス・スコット(2020)、アリアナ・グランデ(2021)、ブラックピンク(2022)が紹介されていました。アニメとの親和性を活かして日本のアーティストがここに割って入っていきたいものですね。

 メタバースは大きな収益が見込めるだけではありません。独立した存在と捉えるのではなく、その場を活用してファンと継続的な対話をする場だと位置づけられています。ファンエンゲージメントとデジタルブランドビルディングを拡大することで音楽ビジネスに大きなメリットを生むと考えられています。

ゲームにおけるアーティスト活動事例

2023年のメタバースでのチャンス

 今年メタバースで訪れることは以下だそうです。
UGCと連動したゲームへのライセンス
 既に、フォートナイトのプレイ時間の50%はユーザーが作った環境で行われているそうで、ここでもユーザーが作ったコンテンツ(UGC)で楽曲が使われてるのがポイントです。

メタバースでの商売にデータやインフラが提供される 
 バーチャル世界で曲が聴かれていくと、アーティストのアバター販売のようなビジネスチャンスが広がっていきます。

創造を促進し、著作権のあり方を問い直すAIの存在

 音楽創作/制作の新しいパラダイムシフトが始まり、著作権そのもののあり方も変えていくというのが基本的認識です。その通りだと思います。

1億ドル:音楽業界がAIクリエイティブスターチアップに2022年に投資した金額

 翌日のAIワークショップではソニーのAI技術者と音楽家が一緒に語って、メディアでありがちな、人工知能で作った音楽はどうなるのか?みたいな論点はなく、音楽家の創造性をサポートするツールとしてのAIの話に終始していて、共感できました。

様々なAIサービス

知らないサービスもたくさんあって、勉強になります

MID3M+の可能性

 日本だと気づきにくいですが、フランスではTuneCoreの親会社でもあるBELIEVEが、新しいタイプのレーベルサービスとして、3大メジャーを脅かす位置までに成長しています。ストリーミングサービスはDeezerが、ヨーロッパとアフリカ諸国などで存在感を示しています。再生回数に単純比例させないユーザー・セントリック支払型のアーティスト収益分配システムを積極的に提案して注目されました。今回のオープニング・セッションにも参加していたNFT音楽スタートアップpianityも取引額はSoundXYZに匹敵する規模になっていますし、Web3型のゲーム会社The Sandboxもあり、エンタメ系のスタートアップに勢いを感じます。
 そういった背景が、60年近い老舗音楽見本市をWeb3特化への舵を切らせたのでしょう。エンターテックをテーマに掲げたスタートアップスタジオStudioENTREとしては、日本の音楽スタートアップのグローバル展開の拠点としてMID3M+を活用していくつもりです。同時に、日本のアンバサダーを務める鈴木貴歩さんと連携しながら、日本の音楽界の活性化に繋がる動きでお役に立てればとも思っています。

オープニング・セッションの客席で鈴木貴歩と2shot。仏語→英語の同時通訳は初体験でした

 本当は、こういうアカデミックな要素もある、テクノロジーが引っ張るような展開は、教育機関を活用するのが良いのですが、残念ながら大阪音大での動きは失敗させられてしまったので、意識とやる気がある若者にWeb3の可能性を感じてもらう場は、新企画「山口ゼミbiZ」でやっていくつもりです。興味のある人は参加してください。

 音楽ビジネス研究コミュニティ「ニューミドルマンコミュ」では、鈴木貴歩さんもお招きして、MID3M+レポートイベントをやることになっています。2/10 20時〜、コミュメンバーではない方の単発参加も可能です。興味のある方はどうぞ!

 ニューミドルマンイベントに向けて、イベント全体のもう少し詳しいレポートもまとめるつもりですので、楽しみにお待ち下さい!


モチベーションあがります(^_-)