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ホリエモンcross FM経営参画のニュースで期待すること

 興味深いニュースでした。20年前にニッポン放送を買収して、フジテレビ買収を試みて、日本の既得権エスタブリッシュ層から袋叩きにあった事件を自虐ネタにしているメンタルの強さはすごいと思いました。
 懐かしさを持って、2011年の自分のblogを読み直しました。


日本にはいまだに残る「放送と通信の融合」という課題

 僕が興味深いと思うのは、今のホリエモンなら、既得権に対して正論を掲げて、大上段に切り込むのではなく、ラジオ局の持つ優位性を巧妙に活かす経営をしてくれそうだからです。
 日本は、独立したインターネットラジオ局が収益を確保するのが難しい著作(隣接)権ルールになっています。インターネットを使った場合は「通信」と扱われ、個別に原盤権者から許諾を取る必要があります。この環境は「ラジオ番組制作」を行うのは現実的ではありません。m-floのTAKU君が立ち上げたblockFMがダンスミュージックに特化して、権利者とも信頼関係がある中で成立させているのが稀有な例となっています。
 アメリカは、デジタルミレニアム著作権法を1998年に定めて、「ネットラジオ局」の定義を定めました。ユーザーが自分の聴きたい楽曲を求めるオンデマンド型のサービス(Spotify、Apple Musicなど)と区別して、同じアルバムから一定時間内に多くの楽曲を再生しないなどのルールを定めて、使用料を払えばOKとして、SoundExchangeという収益分配のNPOを設立しました。
 2015年に出版した『新時代ミュージックビジネス最終講義』では「アメリカにあって日本にないサービス」の一つとしてSoundExchangeを書きました。

ラジオ局なら「インターネットラジオ」ができる

 日本にはネットラジオ局を想定した集中管理の仕組みはありません。唯一の認められているのが、放送局の「同時再送信」です。これは、ネット経由であっても、放送番組と同じ内容を放送と同時に流すのであれば放送と同じルールでよいという民放連/NHKと音楽業界側との合意があります。

 ちなみに、普段は気にしないことでしょうが、「放送」では基本的に好きな楽曲を自由に使ってよいというルールになっています。別途、包括的に放送二次使用料が音楽家側に分配される仕組みができあがっています。業界団体同士の話し合いで金額が決められて支払われています。最近、MPN対音制連が分配方法の改革で対立したのは、この放送用二次使用料の実演家の著作隣接権についてでした、詳しくはこちらをどうぞ。

 現状をざっくりいうと、日本は未だに「放送」と「通信」を別の著作権ルールが適用されていて、インターネットラジオ局をやるのは非常に難しいです。crossFMは認可されたラジオ「放送」局なので、「インターネットラジオ」局的な展開ができるということです。

radikoという「成功事例」

 radikoは人気スマホアプリなので、ご存じの方が多いかと思いますが、まさに「放送と通信の融合」の象徴的な存在です。ラジオ番組をネットで配信しただけで人気アプリになりました。認可を受けている地域外では有料で聞くというサービスが支持されたのですから、オワコンなのはラジオ電波受信機を使ったサービスで、ラジオ番組というコンテンツには魅力があることを証明したサービスと言えるでしょう。関西のラジオ局と大阪電通の実証実験、NTT西日本子会社のスマートコネクトが技術提供で始まったプロジェクトです。
 現在は、株主は全国のラジオ局と電通で、既存プレイヤーがまとまった共通プラットフォームです。以前、noteに経緯をまとめた時に、オープン型のプラットフォームにして、既存のラジオ番組以外のコンテンツ拡充にも取り組んでほしいと書きましたが、いまだに実現していませんね。

第2FM局という音楽オリエンテッドなブランディング

 さて、crossFMは、東京で言えばJ-wave、大阪ではFM802,名古屋ZIP FM札幌North Waveと同時期に、認可/営業を始めた、通称「第2FM局」と言われています。T−FM系列と違いを出すために、若者カルチャーとして支持される楽曲編成を売りにしてました。J-Popという言葉は、洋楽好きな音楽ファンも好んで聴く邦楽曲というニュアンスで、第2FM発信で広まったと言われています。全く無名だった宇多田ヒカル「FIRST LOVE」の700万枚ヒットのキッカケはNorthWaveとcrossFMだと当時の音楽業界では言われていました。近年のcrossFMの状況は詳しくないのですが(何度か経営不振と噂されていました)ブランド力はあるラジオ局です。
 また、FM福岡が福岡市が拠点なのに対して、crossFMは北九州市が本社です。総務省が免許を出すときのバランス感覚なのでしょうけれど、今回のホリエモンの買収参加には、独立リーグの野球チーム北九州下関フェニックスのオーナーであるということも大いに関係しているかと思います。

地方創生の核として役割

 地方のTV局、ラジオ局が、簡単に潰れない一番の理由は、各地の地元の財界との深いつながりを持って経営されているからです。多くの場合、地元の新聞社や地場の中心的な企業が株主で、取締役派遣をしています。
  crossFMは、一般的な地方放送局とは少し状況が進んでいるのか、何度か経営母体が変わっていて、今回は通販会社のDHCから譲渡の形のようですね。
 いずれにしても、その地域のブランディング、情報発信の要を担う役割であることは間違いありません。
 お隣でライバル視しているであろう福岡市は、若い市長のビジョンもあり、スタートアップ支援なども積極的で成長している印象です。北九州もアジアにおけるポジションニングなどは条件は変わらないので、今回のcross FMの経営株主の交替は飛躍のチャンスと言えるでしょう。 
 僕は以前から、地方創生の肝の一つは、各地の放送局を核に文化的なアイデンティを確立することだと思っています。

インバウンドと越境ECの可能性

 端的に言うと、インバウンドビジネスの核になり、その街のファンを増やし、デジタル住民的な継続性とロイヤリティを持ってくれる外国人を増やしていくことがポイントです。そのための情報発信の核となりえるのが地元に基盤がある放送局です。
 第2FM局は、T-FM系列のラジオ局と違って、東京発ではない、独自編成がそもそもの特徴です。東京発の番組を中継費用を受け取るモデルではなく、番組制作コストがかかりますが、局のオリジナリティは発揮できます。
 同時再送信のルールも活用しながら、動画コンテンツも含めて、積極的に行っていくでしょう。スポーツチームとの連携はそこでもいきますね。ホリエモンのことですから、さまざまな施策を考えているでしょう、楽しみです。

伝説のバンド「ルースターズ」は北九州産

 九州は数々のミュージシャンを生み出した音楽文化がある地域です。「明太ロック」やフォークソングブームの博多が有名ですが、北九州にもレジェンダリーなロックバンド「ルースターズ」が生まれていて、花田さん、池畑さん、井上さんというメンバーは九州出身ミュージシャン界の兄貴分的に活躍してバリバリに現役です。北九州市で音楽文化も盛り上がっていくことを期待したいです。

 crossFMが、苦境に立たせているケースが多い地方放送局の、デジタルとインバウンドによる地方創生の核となる成功事例になり、全国に広まることを期待しています。地方放送局活用の地方創生は、日本の産業界の活性化の有力な処方箋です。僕自身も機会があればお手伝いしたいと思っています。

モチベーションあがります(^_-)