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Chapter4:世界の音楽ビジネスの現状<4>(アメリカにあって、日本に無いサービス)【起業家必読】

『新時代ミュージックビジネス最終講義』(2015年9月刊)は、音楽ビジネスを俯瞰して、進みつつあるデジタル化を見据えてまとめた本でした。改めて読み返しながら、2020年〜21年視点での分析を加筆していきます。
 Chapter4では、欧米を中心とした世界の音楽ビジネスについての基本的な知識を押さえます。 状況を把握することから始めましょう。

アメリカにあって日本には無いもの

 アーティスト活動や音楽ファンにとって有益なサービスで、アメリカにあって、日本では成立していないものを並べてみます。何を課題にするのかが見えてくるような気がしませんか?
 アメリカのやり方が、すべて良いとは思っていません。むしろ事務所を中心とした日本のシステムは秀逸だし、愛着もあります。ただ、これからの時代を見据えた時に、必要なパーツが足りないのは困ります。
 アメリカの音楽シーンでは影響力を持ち、生態系の一翼を担っていて、日本には無いものを対照的に見てみようと思います。

ミレニアム法=インターネットラジオ局

 アメリカでは、2000年にインターネットラジオに関する法律ができました。ウェブキャスティングというインターネットの仕組みは使うけ れど、構造としては放送局的なサービス、インターネットラジオ局に対して一定の枠と楽曲の使用料を決めて、音楽業界側の権利を守りながら 新しいサービスが普及するための法律をつくったのです。1 つのアルバ ムから掛ける曲数など、細かな制限があります。
 同時に、NPO 団体として SoundExchange という計算と分配を行なう団体もつくられました。
 その条件は、同じ曲、同じアルバムから再生できる回数などの制限が あり、使用料は 25%か 1 再生の最低保証金額 0.11 セント(約 0.13 円) のいずれか高い方というルールです。PANDORA は、あまりにたくさ ん聴かれるので、最低再生金額と再生回数を掛けた金額が売上の 50% に及ぶ月もあるそうです。
 このデジタルミレニアム法(DMCA)があるのでユーザーは、パーソナライズドラジオ PANDORA を聴くことができるのです。 日本はインターネットラジオ局が音楽配信と同じルールになってい て、ハードルが非常に高くなってしまっています。音楽業界活性化のためには、日本版 SoundExchange の設立が待たれます。

クラウドファンド=資金調達方法

 2012年に、Amanda Palmerという女性アーティストがKickstarter で自分のプロジェクトの資金集めを行ない、100 万ドル以上を集めて、 大きな注目を集めました。1億円超はさすがに驚きましたが、500 万円 から 1,000 万円規模の資金調達は珍しくありません。

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アメリカでは Kickstarter、Indiegogo といった、クラウドファンドが、アーティストへの資金供給源として機能しているのです。
 クラウドファンディングには、投資型、寄付型、購買型と 3 種類あり ますが、エンターテインメントにおいては、購買型のモデルが有効です。 昔の言葉で言えば、予約販売ということなのですが、1 ドルから 10 万 ドル以上まで幅広くアーティストを支援できるのがクラウドファンディングの便利なところです。アーティストが実現したい内容を映像などで訴えて、それに共感したユーザーが資金を事前に払います。提供する商 品やサービスの内容によって、払う金額を分けたメニューを用意するの です。中には、アルバムジャケットに名前が記載されたり、コンサート 終了後の打上げに参加できたりといった、通常は金銭にならないような 内容も含まれていることが多いです。
ユーザーはアーティストを応援したいという気持ちと、自己アピール や特別扱いの喜びなどを期待して対価を払うわけです。

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 日本にもクラウドファンドサービスはたくさんありますが、少なくとも音楽の分野においては、まだその存在は非常に小さく、生態系の一部を担うにはいたっていません。
 理由はいくつか考えられます。環境要因として挙げられるのは、ウェブマネーの普及の差です。いまだに、クレジットカード情報をネット上に入力することに抵抗を感じる日本人は少なくありません。クラウドファンドは気軽にお金を出すのも1 つのポイントですから、コンビニ払いなどとの相性は良くないです。ドネーション(寄付)やチップの習慣の有無も、あるかもしれません。また、アーティストが直接ユーザーに「お金を払ってください」と言うことが、イメージ的にマイナスだという考え方も根強いようです。
 また、既に居るファンしかお金を出さないのであれば、クラウドファンドサービスを使う理由がアーティスト側にありません。直接もらえば 良いのです。日本のライブアイドルは、そうやって少ないファンからで もたくさんのお金を集めるノウハウを持って運営されています。
 100円払う1万人と、100万円払う人が同居して、お祭り的に多額の資金が集まるのがクラウドファンドの醍醐味なのです。

ビルボードチャート=リアルなチャート

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 オリコンチャートの問題点は第三章で書きましたので繰り返しませんが、アメリカのビルボードチャートは、ラジオでのオンエア回数をベースにしながら、CD 売上、ダウロード数、ストリーミングサービスでの再生回数、YouTube の再生回数、Twitterでの投稿数など、楽曲の人気が窺い知れる情報は、すべてと言って良いほど取り込んで、チャート化しています。ビルボードジャパンも同様の考え方でチャートを作っていますが、まだ影響力を持つにはいたっていません。

Bandcamp=ウェブ上の活動拠点

 MySpace というサービスは知っていますか? Facebook が普及する前に、世界一のソーシャルネットワークサービスでした。その後凋落し、2011 年には売却されますが、買収側に有名アーティスト/俳優の ジャスティン・ティンバーレイクが加わっていることで話題になりまし た。残念ながら、リニューアル後も一時期の輝きは無いようです。
 MySpace は、アーティストをベースにしたソーシャルネットワークでした。一時期は、プロ/アマ問わず、世界中のほとんどのバンド、アーティストが MySpace に自分のアカウントを持っていました。自分でホームページを持つ必要が無いと言われ始めた頃でもあります。楽曲を聴かせる、ライブ情報を知らせる、ファンとのコミュニケーションを取 るなどの機能はすべて、MySpace 上で行なうことができました。
 アメリカでは、MySpace が機能しなくなった後に、Bandcampなど、それを代替するサービスが広まっていますが、日本では、その隙間は空いたままの印象を持っています

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 ちなみに、アメリカではありませんが、日本で mixi が影響力があった頃のアーティストに関する mixiコミュニティも廃れてしまって、代替機能が無いままです。半匿名でユーザーの希望が分かり、ファン同士 が情報をやり取りしてくれていた mixiコミュは、マネージャーにとっ ても判断材料になるものでした。Facebook グループや Facebook ページは、あの mixi コミュの役割を果たせていないなと思います。

Songkick=標準化したコンサート情報

 Songkickはコンサート情報、会場情報を見ることができ、チケット購入までが可能で、Spotify などの音楽サービスのアーティスト情報と紐づく形になっています。

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 日本では、コンサート情報は各アーティストのホームページで発表され、コンサートプロモーターのサイトやチケット販売会社のサイトがそれぞれ情報を管理しています。すべてのコンサート情報を一元的に管理 するサイトは存在していませんし、そういうサイトを作るためには、たくさんのサイトから情報を集める必要があり、コストも手間も掛かります。音楽シーン全体を活性化するためにマイナスですね。

Pitchfork=信頼できる批評

 インターネットが普及した時に、個人が自由に意見を発表できるようになるので、ブログメディアも含めて、目利きの音楽評論家などが影響力を持つ世界が来ると言われていました。欧米では、それまでの雑誌メディア中心の時代以上に、音楽を批評するメディアが影響力を強めているように見えます。

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 ところが日本では、批評メディアの影響力がむしろ小さくなっています。いわゆる音楽雑誌は、レコード会社からの広告出稿をベースに作られているので、完全に中立な批評は難しい構造があります。ところが、 ウェブサービスやブロガーなどでも、良質の批評が出てきていないのが 現状です。
 一方で、“食べログ”に代表されるユーザーのポイントなどで評価するサービスも、音楽については機能していません。映画では“Yahoo! 映画”のポイントには一定の影響力が出てきていますが、同様に取り組んだ音楽では上手く機能せず、Yahoo!Japanは、現在音楽コーナーを持っていないような状態です。
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 日本の音楽界を見る時に、こんな視点で捉えてみると、新しい発見が
あるのではないでしょうか? アメリカにあるサービスと、同じものが日本にある必要はありません。ましてや、各サービスの日本語版が欲しいという意味ではありませ ん。ただ、アメリカの音楽ビジネスの生態系を補強している機能は、日本では不足している部分です。日本の起業家たちにつくってもらいたい し、そのサービスで海外展開もしてもらいたいです。新時代エージェン トとなるニューミドルマンは、その欠如への対策を意識しながら活動プ ランを組み立てましょう。(この章終わり、次章「新世代型エージェント」に続く)
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2020年12月付PostScript
 ここでは、音楽関連のサービスで「アメリカにあって、日本に無いもの」をまとめてました。2020年末現在での状況を順にチェックしてみましょう。起業志望の人は、改めて事業計画の参考にしてください。

インターネットラジオ局
 日本でネットラジオ(ウエブキャスティング)を積極的に後押しするような法的制度、業界ルールはいまだ確立していません。総務省などから「放送と通信の融合が重要」みたいな指摘は時折ありますが、そもそもの立ち位置が時代遅れです。ユーザーにとってはどうでもよい「融合」を考えているのは日本だけでしょうね。権利者団体の対応も含めて、ユーザー体験を起点に考えて、音楽界を活性化させるネットラジオをやりやすくするべきですね。そういう意味では、スマホでラジオ局の番組を聞けるようにして成功したradikoが日本版ネットラジオです。親会社である既存の放送局編成以外の「番組」も聞けるように期待したいです。
 サービスとしてはVOICYやRADIO TALKなど音声SNSが注目されていますね。音楽が普通に流されるような権利整備の部分は僕が動かなくてはいけないと反省していますが、そういう希望を聞かないので、動けないんですよね。音楽使おうよって思います。

クラウドファンド
 CampfireとMakuakeの二つを中心に、かなり浸透しているクラウドファンディングですが、アイドル以外の音楽系アーティストの資金調達の仕組みとして定着しているとは言い難い状況です。欧米では5%+決済手数料なのに対して、日本だとプラットフォーム手数料が20% なのも、ファンベースがあるアーティストには障壁になっていますね。
 ストリーミングサービスの普及は、音源のマネタイズが可視化され、長期間お金を生む可能性が高くなり、投資対象にしやすくなっている側面もあります。クラファン以外のスキームにも期待したいです。

リアルなチャート
 これについえは、だいぶ状況進みましたね。楽曲の人気ランキングから、お金使ってくれるファンのランキングに変化した週間シングルチャートにこだわったオリコンの地位が流石に低下して、丁寧にデータを集めて意味のあるランキングを作ってきたビルボード・ジャパンへの注目が上がっています。健全なことだと思います。

ウェブ上の活動拠点
 まだこれというものが無いですね。ただ、TwitterとInstagramとYouTubeチャンネルがあってSpotifyに配信すればそれでよいのではという感じになってきている気もします。
 お金が動くところはサービス構築しやすいので、ファンベースを活性化させるのには、SKIYAKIとは、FANICONとかありますよね。ユーザーを広げるためのコミュニケーションが音楽オリエンテッドにできる方法があると良いとは思うのですが、、。

標準化したコンサート情報
 これが最大の課題ですね。日本の音楽業界の仕組みの課題を象徴的いうと「APIが無い」ことなんです。これは既存の音楽業界人のデジタルへの無知と、レコード会社が音楽に関するデータを自分たちの既得権だと勘違いしていて、誰にでも使えるように「しない」という行動パターンをもっていることに起因しています。
 コンサートに関しても、チケット事業者が、主催者から預かって販売したチケットが売り切ることしか考えず、ユーザー情報についても、チケット事業者、コンサートプロモーター、事務所の間で、微妙な綱引きがあって、業界全体でコンサート情報やコンサート会場やユーザー情報を使いやすくまとめようという動きになっていません。いい加減なんとかしないと、このままだと、全部グーグルが調べて握ってしまう、みたいな答えしか無くなってしまうなと僕は危機感を持っています。
 採算性と結び付けないとデータだけ積み上げても事業にならないので、知恵を絞りたいとことですね。今や「データが一番大事」というか「データだけが大切」な時代ですから。

信頼できる批評メディア
 残念ながら無いですよね?雑誌メディアはそれぞれ頑張っているのでしょうが、批評も個人では、信用できる人はいても、「場」としての適切な批評空間はよわいなと感じています。僕が知らないだけで、ジャンル別とかにはあるんでしょうね?(これは良いというのがあったら、教えて下さい!)
 ただ、音楽の批評メディアだと無料の広告モデルが想定されるので、普通に考えるとしてはスタートアップのメイン事業としては厳しいですね。本書では食べログの例が挙げられていますが、Newspicksとかnoteとか新しいウエブメディアの「成功例」を参考にしながら、ブランド力を持つメディアがでてきてくれると音楽シーンにはプラスなのですが、、。メディアが民主化して個人に還元されるインフルエンサーの時代をどう捉えるのかという話になるかと思います。

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