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新海誠、稲田豊史、平山瑞穂の作品から“共感”を考える

新海誠監督の 2019年の作品『天気の子』を観た後で、「主人公が犯罪や反社会的な行為を繰り返しているので共感が持てなかった(から、この映画は良くない)」みたいなことを言う人が少なからずいたということを知って、僕はショックを受けました。

僕には、主人公に全く共感を覚えなかったどころか、時には激しい嫌悪感を覚えたにもかからわずものすごく感動した映画が結構あります。例えば『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、『岬の兄妹』、『凪待ち』、『空白』などなど。

いずれも人物がよく描けている映画です。観ていて共感など全くわかず、むしろ腹が立ったりするのですが、でも、いるよな、こういう奴──というタイプの映画です。

一方、新海監督が『すずめの戸締まり』を作るに際して、「共感が得られなかった」という批判が多かったことでいろいろ修正をしたと聞き、僕としては少し残念な気さえしました。

決してそのことだけで言うのではなくて、描画や人物造形などすべてを勘案しての評価ですが、僕は『すずめの戸締まり』より『天気の子』のほうが好きです。ひとつには『天気の子』のほうが痛みがしっかり描かれている気がするからでもあります。

でも、人は痛みなんて求めていないのかもしれません。人はただ心地良さと共感だけを求めているのかもしれません。

それは今年読んだ稲田豊史さんの『映画を早送りで観る人たち』にも通じます。

僕が書いた上記の記事では取り上げていませんが、この本でも「共感」は大きなキーワードになっていて、稲田氏は原田曜平氏の著書から下記の表現を引用しているほか、そこかしこで「共感」について書いています。

自分が絶対に共感する情報にしか触れずに生活している Z世代は、自分にとって違和感のある情報に接すると、大きな拒絶反応を示す

稲田豊史著『映画を早送りで観る人たち』(引用元は原田曜平氏)

そして、それは note での全40回の連載をつい先日読み終えた平山瑞穂さんの『エンタメ小説家の失敗』にも通じていると僕は感じました(共感については第36回以降の「第7章 “共感”というクセモノを侮ってはならない」で詳しく具体的に触れられています)。

そう、僕の中で『天気の子』と『映画を早送りで観る人たち』と『エンタメ小説家の失敗』がきれいに繋がってしまったのです。

もっと昔の例を引き合いに出すと、もう 10年以上前だったと思いますが、ブログでよく相互トラックバックをしていたある人が、「せっかくお金を払って映画を観に行ったのに、ハッピーエンドでないとげっそりする」みたいなことを書いていたことに驚愕した記憶があります。

僕はむしろ、せっかくお金を払って映画を観に行ったのに、インチキ臭いハッピーエンドに持って行かれるとがっくりです。

人生ってなかなか辛いもんじゃないですか。思った通りにハッピーエンドには運ばないもんじゃないですか。

あなたは反社会的な行為をすることは全くありませんか? 腹が立ったり自棄になったりしたら、時には自分も反社会的な行為に走ってしまうかもしれないとは思いませんか? そしてどんな反社会的なことであっても、人は時としてそれを決断しなければならないことだってあるんです。

僕はむしろそういうところに“共感”を覚えるのです。

でも、そんなしんどい世の中だからこそ、ハッピーエンドにしてほしいとか、素直に共感の持てる人物にしてほしいとか、きっとそう言うんでしょうね、彼らは。

でも、僕らは共感の持てない人物や事件を、共感の持てないまま、でも、しっかりと受容して行かないと生きて行けないと僕は思うのです。そう、生きるとは共感の持てないものを受容する作業であると言っても良いぐらいだと思うのです。

だからこそ僕は、自分とは全く違う相容れない人物を描いた作品や、自分と同じようにうまく行かない日々を描いた作品(願わくば、最後に希望の淡い光が見えるか見えないかぐらいの終わり方であればなお良いです)に惹かれるのです。そのことを僕は上で“共感”と書きました。

ひねくれてますかね? そんな考えには共感を持てないって言われちゃうんですかね?

そして、共感を持てないという理由で僕は排除されてしまうのでしょうか? あるいはそんな僕でもなんとか受容してもらえるのでしょうか? それは逆に僕にとっての命題でもあり、僕はそんな彼らをしっかりと受容できるのでしょうか?

もちろん何から何まで全て受容できるはずはありません。でも、どこまで行けるか──そこが一番の問題だと思います。

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