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ハッピーエンドにしないでほしい

人はそれぞれで、自分と他人とは違う──と頭では分かっていても、現実にそういう具体例を目の当たりにすると、とても驚いてしまうことがあります。

例えば、知らない誰かが映画一般について書いているのを読んで心底仰天したことがあります。

その人はこう書いていました:

せっかくお金を払って観ているのに、ハッピーエンドでないのは許せない。

私は、「そんなことを考えている人がいるのか!」と、椅子から転げ落ちそうになるほどのショックを覚えました。

私は別に映画がハッピーエンドであってはいけないとまで言う気はありません。でも、この人の言い方に乗っかって言うならば、

せっかくお金を払って観るのだから、無理やり下手なハッピーエンドに持って行かないでほしい。

と思っています。

ものすごくご都合主義な展開によって何かが急に解決したり、非常に無理なスジ運びで突然ハッピ-エンドがもたらされたりすると、しらじらしくて嘘っぽくて胡散臭くて腹が立って観る気が失せてしまいます。

そんな話は子供のころに観ていた「ウルトラマンが怪獣をやっつけて良かった良かった」みたいな話で充分です。はい、ヒーロー物ならそれで良いんです。そして、大人になってもヒーロー物を観ることだってあります。それはそれで良いのです。

でも、そういう空想未来科学みたいなものを前提としないドラマで、いきなり唐突なハッピーエンドがやって来るのは勘弁してほしいのです。世の中そんなに甘くないよ、と言いたくなります。

多分そういうのを好む人たちは、たとえ現実離れしていようとも、そういうドラマを観ることによって勇気を得たりするのかもしれません。でも、私の場合は完全に白けてしまうのです。

私が好むエンディングは、「事態はほとんど改善していないけれど、でもその中に仄かな光明が見える」とか「悲惨な状況の中にもわずかながら救いがある」みたいなやつです。それがリアルな作品の確かな余韻というものではないでしょうか?

私は自分のブログに数多くの書評や映画評を書き散らしていますが、そのいろんな記事でも、「僕がこの作家を好きなのは、終わりを大団円にしないところである」とか、「この適度な悪意の発露がまことに心地良いのだ」とか、そんなフレーズをたくさん書いています。

むしろ、そういうところに私は救われ、勇気づけられるのだと感じています。あなたはそういうタイプではありませんか? そういう感覚は理解していただけないでしょうか?

私の場合は、悲しいときに悲しい歌を聴く、というのも同じなのかもしれません。

考えてみれば、音楽を聴くときも、私は癒やしや安らぎではなく、圧倒的に刺激を求めていることが多いと自分で思います。

だから、イージー・リスニングとかヒーリング・ミュージックみたいなジャンルは昔から聴きません。

だから、転調や変拍子が大好きです。それも、定番の平行調や同主調への、うっかり聞いていると転調に気づかないような滑らかな転調ではなく、「どこまで飛んで行くんや!」と叫びそうになるぐらいの突拍子もない転調が大好きです。

そして、それは小説を読むときも映画やドラマを観るときでも同じようなものです。私は癒やしや安らぎではなく、刺激を求めているのです。

そして、鑑賞するという行為は、聞き手や読み手や観客がその力量を試されているようなものだと常々思っています。作り手は何を客に伝えられるか? そして、客は作者が意図していなことも含めてどこまで何を読み取れるか?

──言わば作者と聴衆/読者/観客の真剣勝負のようなイメージで、音楽を聴いたり、本を読んだり、映画を観たりしています。

そして「やられた!」と思うのは、上で述べたような、「事態はほとんど改善していないけれど、でもその中に仄かな光明が見える」とか「悲惨な状況の中にもわずかながら救いがある」みたいなリアルな終わり方です。

そういう余韻の中で、自分の意識を研ぎ澄ませて、自分にしか読み取れない何かを読み取ろうとするのです。

下手くそなハッピーエンドはその力試しを台無しにしてしまいます。下手にハッピーエンドに持って行って私を宥めようとしないでほしいのです。それは私にとっては逆効果なのです。

でも、みんながそんなふうに思うのではないんですよね。いや、私が少数派なのかもしれません。

「嘘っぽかろうと、ご都合主義だろうと、ともかく主人公をハッピーにして終わってくれ!」と叫んでいる観客もいるのだと、その時初めて知ったのでした。

他人は自分とは違うのです。だから、それが悪いとは言いません。でも、できることなら、ハッピーエンドの映画ばかりにしないでほしいなと、それ以来ずっと祈るように思っています。

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個々の書評や映画評については、ここ note には掲載していませんが、時々映画についてこんな記事を書いたり、本についてあんな記事を書いたりもしています:


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