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放送とインターネット

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放送局に勤めていたので、たまに放送のことも書いていました。ま、内輪向きの文章が多いので、ここにはたまにしか載せませんでしたが。いずれにしても定年退職しちゃったので、今後はこのテー…
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#テレビ

どうやれば今の若手社員を動かせるか?──H君との長話

ルーティンに追われ新しいことを始めない若手社員たち僕は大阪の放送局MBSを退職して2年近くなりますが、先日、久しぶりに昔の部下であるH君が会いに来ました。 正確には、上京する彼に合わせて僕が東京支社にのこのこ出かけて行ったわけですが。 H君は昨年から仕事の傍ら大学院に入って勉強しており、そもそもはその修士論文を書くために少し昔の話を聞かせてほしいとのことだったのですが、会って話をしてみるとそんな単純なことではなく、もっと根の深い話でした。 彼はそもそも最近の若手社員た

何が TV4.0 をもたらすか

facebook には「思い出」という機能がありますよね。そう、何年か前の同じ日の投稿を表示して、「あなたは◯年前にこんなこと書いていました」って知らせてくるやつです。 そこに 2019/1/19 に自分が書いた記事が出てきまして、そのちょうど5年後に読み返したのですが、僕はこんなこと↓ を書いていました: さて、5年後の今はどうでしょう? あの頃は僕はまだ毎日放送の社員でした。退職したためもう会社や業界の情報や動向は一切掴んでいないので、専門的なことは書けませんが、一

面接官:「あなたが好きな番組は何ですか?」

放送局の採用試験の面接官として僕がまだ毎日放送に勤めていた時には、何度か新入社員面接に借り出されることがありました。若い頃は一次面接に、管理職になると二次面接に。 そして、放送局ですから当然、面接を受けに来た学生たちにこんな質問をします: 学生たちが変に気を遣って窮地に陥らないように、こんな風に付け加えることもありました: わざわざそう言っているのに、それでも中には「御社の番組でなくて恐縮なんですが…」などと、リップ・サービスではなく本気で恐縮している様子の学生さんも

テレビとネットの統合広告指標と「考える社員」

テレビCM とインターネット広告の統合指標を作る必要があるというような記事を読むと果たしてそうだろうかと思ってしまいます。 確かにテレビはデータの面ではずっと遅れたまま、と言うか、歩みを止めてきた感さえあります。世帯視聴率という“目の粗い”単一の指標でいつまでも引っ張りすぎたと思います。それはひとえに「面倒くさいことはしたくない」という怠惰な思いと「このままでも大丈夫」という勘違いと奢りの裏返しだったんじゃないでしょうか。 でも、それではダメだと漸く気づいて、この 10年

Microsoft と Netflix と昭和のテレビ

番組説明ページ退職してから Netflix をわりと観るようになったのですが、Netflix ってスタッフやキャストを確認できる一覧のページがないんですよね。 いや、全くないわけではなくて、ちょっと深い階層に入って「詳細」を選ぶと少しだけ記述はあります。でも、(作品にもよるのですが)スタッフは監督だけ、出演者はほんの2~3人だけというケースが多くて、これでは却々参考になりません。 私としては脚本家と、できることなら撮影監督の名前も知りたいし、出演者はできればまとまった台詞

テレビが何故こんなに力を失ったかを考える

ここ数年、配信やインターネット上のいろいろなコンテンツに視聴者を奪われて、テレビの売上がいよいよ下がってきたとか、テレビの影響力がますますなくなってきたとか、いろんなことが指摘され、議論されています。 でも、そういう傾向は昨日今日始まったのではありません。その萌芽はずっと前からあって、「このままではテレビは危ないぞ」みたいなことは、すでに 20年近く前から言われ始めていたのです。そう、それはテレビがアナログからデジタルに転換(所謂「地デジ化」)するころの話です。 テレビは

ジャニーズ事務所の歴代グループのメンバーをどの時代まで言えますか?

あなたはジャニーズ事務所の歴代スーパー・アイドル・グループのメンバーをどれだけ、どの時代まで言えますか?あるいは、名前は思い出せなくても、この人はこのグループのメンバーだと識別できますか? ──これは今となっては完全に高齢者向けのゲームですが、僕はこのゲームを 20代の後半からやってきました。高齢者の方は、以下、自分のケースに当てはめながらお読みいただければと思います(笑) 僕らはジャニーズ事務所ができた頃にはすでにテレビを観ていたので、ジャニーズ、フォーリーブスの時代か

「視聴者には分からない」時代ではない

TBS『アトムの童』が残り1回の放送というところまで来て、いよいよ盛り上がってきました。けれども僕はここまで毎週この番組を見てきて非常に大きな危機感を覚えています。 ゲーム開発、インターネット、経済関係の法律、株主総会の進行、検察や警察の動きなどなど、素人目で見ても「それはないやろ」と思うことが多すぎませんか? いや、設定が甘い、あるいは不正確なドラマはこれまでもありましたし今現在もあります。調べずにうっかり書いてしまったのではなく、意図した設定の場合もあります。SF的な

囲い込まれ運動

僕が放送局で働いていたころ、「視聴者を囲い込め」みたいなことが社内でよく言われていました。あれはホームページというものが登場するもう少し前かな。 ここで言う囲い込みというのは 16~18世紀の英国経済史に出てくる囲い込み運動(enclosure)、つまり、共同で農作業をやっていた農地に容赦なく所有権を明確にして一部の農民の職を奪って追い出したりするようなものではありません。 土地の囲い込みではなく人の囲い込み、つまり、追い出すのではなくむしろ逃さないようにしろということで

このあと note に何を書くか

先月一杯でむやみに長かった会社員生活も終わり、それで終わるに際して述べたことをまとめて note にアップし、 facebook にもその記事を貼ったところ、結構な数(と言っても他の人のと比べると大したことはないが、それでも普段の何倍か)のエンゲージメントがあった。 そもそも僕はあまり人に好かれないタチらしく、普段は何を書いても「いいね!」や「スキ」は数えるほどしかつかないのだが、これはまさしく“失職バブル”である(笑) 「いや、それは好かれる/好かれないの問題ではなく

たとえテレビ番組であってもインターネットの商品はインターネットのルールで売る

(すんません、以下の文章はちょっと専門的すぎて、一般の方には分かりにくいかもしれません) 先日、とある同時配信関連のウェビナーに参加しました。 登壇者は端的に言って「同時配信やるべし」の人たちばかりでしたが、それは今となっては当然だと思います。 私はテレビ番組のインターネット常時同時配信については、かつて社内で一貫して反対の立場を取っていましたが、それは同時配信を行ったら害があるとか、同時配信はやるべきではないということではありません。 私が言いたかったのは、同時配信

辞去のことば ~テレビ局が抱える大きな問題点

シニアスタッフとして5年間この会社に残ってきたが、もうすぐ会社を辞めてこの仕事から離れる身として、最後に世間ではあまり大きく取り上げられていない問題について書いておきたい。 テレビに関してはとかく「若者のテレビ離れ」みたいなことばかりが記事になっているが、もちろんそれはあるにせよ、最大の問題はそこではないと僕は思っている。 最大の問題は日本の人口が年々減少傾向にあるということだ。これはつまり、去年は 100個売れた商品が今年は 90個しか売れなくなることを意味している。

「テレビ離れ」という厄介な発想(2022/3)

久しぶりに境治さん主催の Media Border に投稿しました。多分これが僕の最後の投稿になるのではないかと思います。少しだけ筆を入れてこちらにも転載します。 境治さんを筆頭に、Media Border には錚々たる書き手がおられますので、メディアの話をたっぷり読みたい方はこちらに登録されては如何かと思います(今回は note版ではなく、Publishers版の URL を貼っておきます)。 「テレビ離れ」という厄介な発想「テレビ離れ脱却論」の跋扈 インターネットと

続・テレビの中の固定観念──テレビ受像機の多機能化とテレビ番組の同時配信

前に「テレビの中の固定観念──商品名と裏番組」という記事を書きました。 今回も似たようなことを書いてみようと思います。僕がいろいろ言っても、却々ちゃんと受け止めてもらえなかったことを2つほど: テレビ受像機の多機能化に対する抵抗インターネットの登場直後から、とまでは言いませんが、僕は割合早くからテレビとインターネットが繋がって行くべきだと考えて、社内でもそんな風に主張し始めていました。 一連のキー局買収騒動もあって、上のほうからは「“インターネットとの融合”と言うな。“