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テレビとネットの統合広告指標と「考える社員」

テレビCM とインターネット広告の統合指標を作る必要があるというような記事を読むと果たしてそうだろうかと思ってしまいます。

確かにテレビはデータの面ではずっと遅れたまま、と言うか、歩みを止めてきた感さえあります。世帯視聴率という“目の粗い”単一の指標でいつまでも引っ張りすぎたと思います。それはひとえに「面倒くさいことはしたくない」という怠惰な思いと「このままでも大丈夫」という勘違いと奢りの裏返しだったんじゃないでしょうか。

でも、それではダメだと漸く気づいて、この 10年ぐらいの間にテレビも遅まきながらデータの拡充を図ってきました。それでインターネット広告にほんの少しだけ近づいたのは確かだと思います。でも、その2つは完全統合できるのでしょうか?

近年は何かにつけて「万能の解」を求める人が増えていると言います。僕の周りでも「これだけ読んでおけば良いというオススメの本は?」とか「とにかくこれだけ覚えておけば大丈夫というコツを教えてください」みたいなことを言う人が増えていて困っている、というような話を時々耳にします。

しかし、人生に万能の解などあるはずがありません。万能の解を求めるのが人生の目的なのではなくて、次から次へと襲いかかってくる多種多様な問題を倦むことなく順に解き続けるのが人生の旅なんじゃないでしょうか?

僕らの若い頃だと、一番偉いのは万能の解を知っている奴ではなく(もとよりそんな人はいなかったわけですが)、どんな予想外の事態に面してもその都度個別にちゃんと対処できる人物でした。

もし、インターネットとテレビの統合指標ができれば、マーケターはそりゃあ楽になるでしょう。共通のベース上で数字を見比べて、「こっちのほうが高いからこっち」と単純に決めればそれで済むんですから。

でも、本当にそれで良いのでしょうか? そもそもインターネット広告とテレビCM では広告の質も効果も大いに違うはずです。それぞれの媒体にそれぞれの特性が存在するはずです。それを巧みに補正・突合して、2つを単純に並べて比較することができるようになったとしても、それで果たして広告(の効果)というものをしっかり把握できていると言えるんでしょうか?

そもそも「単純な比較」をしてしまうこと自体に常に落とし穴があります。テレビCM だけに限ったとしても、個人視聴率(あるいはターゲットの個人視聴率)が同じであれば、そこで流した CM の効果も同じかと言うと決してそんなことはありません。テレビCM とネット広告の両方にまたがるのであれば、単純比較をするのはなおさら危険なことではないでしょうか?

微妙な違いを見極めて発注するのが宣伝部員本来の使命であり能力なのではないでしょうか? 「数字的にはどっちも同じだからいいじゃないっすか」みたいないい加減なことを言う広告代理店の兄ちゃんを言い負かして、少しでも高い効果をもたらす枠を押さえるのが広告主の醍醐味なのではないのでしょうか?

仕事が楽になるのはとても良いことだと思います。でも、その一方で、物事を考えずに済む、あるいはあまり考えないようになってしまうのは決して良いことではないと思うのです。

そういう意味からすると、テレビCM とインターネット広告指標の統合にまで進んでしまうのは得策ではないような気がします。何と言うか、そこまで一気に行ってしまわずに、少し手前で言わば寸止めしておくほうが、広告に従事する人材を育てることになるのではないかと思うのです。

もちろん本当に簡単に、しかも明確な統一指標が作れるのであればそれでも構いません。でも実際は、2つの広告は構造が全く違うし、それぞれに異なった特性があります。2つの媒体で共通の指標を作ろうとすると、そこにはどうしても無理が出てくるのではないかと、僕には思えてならないのです。

だったら無理やり統合するのではなく、その手前で止めておいたほうが良いような気がします。

違う指標を別々に見ながら、いろいろな前例や分析結果を参照して、「我社の場合はテレビとネットとのその他の媒体の比率がこれくらいの配合が一番効率が良い」とか、「こういう商品の場合はもう少しネットに寄せたほうが良い」とか、「同じネット広告の場合でもこういうキャンペーンの場合は動画広告を減らしてバナー的なものを増やしたほうが良い」とか、そんな絶妙な方策を考えことこそがやりがいのある楽しい仕事なのではないかな、と僕はそんな風に思ったりするのです。

僕自身はもう会社を辞めてしまったので、基本的に業界の行く末についてあれこれ言う気はありません。ただ、もっと一般的な話で言うと、2つの数字の高低を見極めるのは小学生にでもできる仕事であり、むしろ比べられないものをしっかり比較して正しく選んで行けるのが優秀な社員なのではないかと僕は感じています。

もちろん統一の指標はあくまで考えるための参考にするだけだという優秀なマーケターもおられるのでしょう。でも、その対局には統一指標を見比べてどちらが高いかだけで決めてしまう社員も出てくると思うのです。

統一の指標を熱望する記事を見るたびに、はて、そんなことでちゃんと「考える社員」は育って行くのかなあと、僕はちょっと不安になったりします。

労働者が楽になるのは大いに結構なことです。しかし、社員が、いや人間があまりに単純な方向を目指して考えなくなってしまうのは困ったことではないかと、年寄はついついおせっかいなことを考えてしまうのでありました(笑)

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