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辞去のことば ~テレビ局が抱える大きな問題点

シニアスタッフとして5年間この会社に残ってきたが、もうすぐ会社を辞めてこの仕事から離れる身として、最後に世間ではあまり大きく取り上げられていない問題について書いておきたい。

テレビに関してはとかく「若者のテレビ離れ」みたいなことばかりが記事になっているが、もちろんそれはあるにせよ、最大の問題はそこではないと僕は思っている。

最大の問題は日本の人口が年々減少傾向にあるということだ。これはつまり、去年は 100個売れた商品が今年は 90個しか売れなくなることを意味している。

もちろんそれはテレビ局だけでなく日本の全産業共通の問題である。ただ、テレビ局の場合、いまだに「率」で商売をしているということが問題を余計に深刻にしているのだ。

人口が減っているのだから、同じ視聴率 5%でも、見ている人数は去年より今年のほうが少ないのである。

さらに、視聴率というものはテレビを所有している個人/世帯の数を分母にしているので、昨今のテレビを持っていない世帯の増加を加味すると、たとえ視聴率が 100% であっても見ていない人数/世帯数は年々増えているわけで、つまり 1% の価値がどんどん下がっているのである。

ところが局はいまだに視聴率を指標にしてセールスをしている。

すでに何年も前から、スポンサー筋から「視聴率では何人が見ているのかが分からない。インターネットのように実数ベースにならないか」と言われてきたわけだが、残念ながらそれは果たせていない。やっとのことで世帯視聴率メインから個人視聴率メインに切り替えたばかりである。

ただでさえスポンサーがインターネットに流れる傾向にあるのに、視聴率 1% の価値が下がり続けるとなると、これは大きな痛手である。テレビ離れが進んで視聴率が落ちた上に視聴率 1% の価値が下がるとなるとダブル・パンチである。

そういう状況下でさらに、「若者のテレビ離れ」への対策として、基幹局はこぞって「ファミリーコア」や「新ファミリーコア」と呼ばれる視聴率区分をメインターゲットとして番組編成を行うようになってきた。

これは、局によって名前によって微妙に区切り方は違うが、要するに 50歳未満の人たちの視聴率を最重視しようということである(この発想自体は僕は間違っていないと思う)。

しかし、これも要注意で、人口ピラミッドを見ると、50歳未満の人口は、現状では若くなればなるほど少ないのである。つまり、ただでさえ日本全体の人口が少なくなっている上に、この層に焦点を当てていると、ターゲット層の人口(ひいては視聴人数)は年々さらに減ることになる。

特にその中でも最大のボリューム層である「団塊ジュニア」世代がこの 10年ぐらいで50代に突入して(新)ファミリーコア区分からごそっと抜け落ちると、(新)ファミリーコア層の人数は一気に減ることになる。

世帯視聴率狙いで年配者に受ける(たとえば健康関連みたいな)番組ばかりを作るのをやめて若い人に受け入れられる番組を作るということは、メディア企業として当然のことではあるのだが、この(新)ファミリーコア視聴率にしがみつけばしがみつくほど、視聴数は自然に減って行くのである。

話は戻るが、上で書いた「人口ピラミッド」と言う言い方は、そもそもは年齢が下に行けば行くほど人口が増えて、裾広がりのピラミッドのような形をしていたことから名付けられたものだ。それが今や逆三角形とまでは言わないが、40代以下は完全に下に行けば行くほど先細りの形状である。

人口が年々増え、かつピラミッド型であり、テレビの所有台数は年々増え、さらにその世帯普及率がほとんど 100% に達している──という状態だったからこそ、テレビの商売は順調だったのである。

それがどんどん崩れてきている中で、世帯ではなく個人視聴率をメインに据えて、若者に(も)受ける番組を作って行くというだけでは、もはやとても乗り切れない状況なのである。

そのことに一体どれだけの人が気づいているのか。僕は心配でならない。

テレビ受像機はかつて所有率 100% に近いところまで売れた。しかし、テレビ番組で 100% に近い視聴率を叩き出すのは不可能である。ましてやこれだけ人の価値観や趣味趣向が多様化していることを考えると、往年の高視聴率レベルに戻すことさえ望めないだろう。

そして、仮に往年の高視聴率に迫るヒット番組ができたとしても、その 1% の価値は昔と比べて如実に落ちているのである。

問題は単に番組の作り方でもなく、単に視聴状況の調査方法でもなければ、単なる売り方の問題でもない。

番組を人に届けることによって新しい収入を得るための、もっと大きな仕組み/システムの改変を考えないことには、この先細り状態から脱することはできないのではないかと僕は思っている。

残念ながら僕はもう、それを考えられる環境にはいない。

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視聴率についてもこれまでいろんなことを書いてきましたが、例えばこんなこと:

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