マリーンズの投手運用に隠された吉井理人コーチの目論見
どうも、やまけん(Twitter: @yam_ak_en)です。前回、久々の投稿で習志野高校の野球部について書きましたので、今回は千葉ロッテマリーンズについて書いていこうと思います。
センバツでの習志野高校のように前評判を大きく覆す成績を残してほしいと願っているマリーンズですが、開幕から先発投手陣の不調が続き、スタートダッシュで躓いてしまった感が否めません。特に今季から本拠地・ZOZOマリンスタジアムに設置されたホームランラグーンの影響を各投手とも多かれ少なかれ受けているように感じます。
そんな中で、今季からマリーンズの投手コーチに就任した吉井理人投手コーチの投手運用について、早くも気になる点があったので、今回はそこを掘り下げて書いていこうと思います。投手運用に長けており、名コーチと呼ばれている吉井コーチがなぜ名コーチであるのか、きっとわかっていただけるのではないかと思います。
投手の登板管理
まず、マリーンズの先発投手事情について。開幕投手を務めた石川歩と2戦目に投げたマイク・ボルシンガーがそれぞれ腰と脇腹に痛みを抱えて離脱。3戦目に投げた有吉優樹は2戦続けて不甲斐ない投球となってしまいました。裏ローテとして西武戦に登板した涌井秀章、ブランドン・マン、新人の小島和哉も西武打線に捉えられ、ここまで先発で好投をしたと言えるのはボルシンガーに代わって土曜日に先発し、ホークス打線を6回2失点に抑えた二木康太のみではないでしょうか?
ラグーン設置と外野フェンスの低下で、環境が大きく代わった今年のマリーンズですが、それを加味してもここまで大きく派手に躓くことを予想していたファンはそう多くはないでしょう。投手というのはそれだけ繊細な生き物であるというのは否めませんが…。
その中で、今季開幕からリリーフとしてここまで登板しているのは、酒居知史、東條大樹、高野圭佑(現在抹消中)、種市篤暉、チェン・グァンユウ、田中靖洋、西野勇士に勝ちパターンの松永昂大、唐川侑己、益田直也という顔ぶれ。昨年クローザーを務めた内竜也がオフに行った手術の関係で出遅れ、新加入のジョシュ・レイビンもコンディション不良で開幕に間に合わず、期待の大きかったドラフト2位ルーキーの東妻勇輔も二軍スタートとなってしまい、先発陣の不調も相まって早くも10人の投手がリリーフ登板を重ねています。今季から出場選手登録枠が1つ増えて29人になったとはいえ、吉井コーチもここまで投手陣の起用法に頭を抱えることになるとは思っていなかったでしょう。
ですが、ここで吉井投手コーチの運用が輝きます。
こちらは、現在一軍登録されているリリーフ陣の登板数・投球回数・投球数をまとめたグラフです。これだけ先発投手陣が荒れているにも関わらず、吉井コーチは勝ちパターンの松永、唐川、益田以外の投手の起用にバラツキが無いように登板管理をしているのが伺えます。ビハインドの局面では(言い方として失礼かもしれませんが)ビハインド用の投手だけで済ませて、勝ちパターンの投手は極力使わない(松永と唐川は西武戦で調整的に登板しましたが)など、早くも前任の投手コーチとの違いを伺うことができます。勝ちパターンの投手の無駄使いや不要な回跨ぎを避けて疲労を極力抑え、勝負どころの夏から秋になるべく万全の状態で挑めるようにする。あくまでも3カード9試合が終わった段階でしかありませんが、目の前の試合に力を注ぎすぎず、長いシーズンを見据えた投手起用を心がけているのは見て取れます。
ちなみに、こちらは登板数・投球数カレンダーです。ビハインドの局面で投げる投手たちも含めて、可能な限り連投を避けているのが伝わりますね。
投手運用に隠された吉井コーチの目論見
さて、吉井コーチの運用ですが、一部ファンの間で議論を呼ぶシーンがありました。
4月7日のホークス戦。先発の有吉優樹が3回途中6失点でKO。2番手にこのカードから昇格してきた田中靖洋が登板し、2回1/3を無失点に抑え、3番手の東條大樹に繋ぎます。6回から登板した東條はピンチを作りながらも2イニングを無失点に抑えます。
問題となったのはここから。吉井コーチは2イニングを無失点に抑えた東條に3イニング目も託しました。普段の東條はどちらかというと短いイニングを任されるケースが多く、我々ファンもどこかで「東條は短いイニングを投げる投手」と思っていた節があるため、この3イニング目というのは意外でありました。
3イニング目となった東條ですが、8回先頭の松田宣浩、続く上林誠知に立て続けにホームランを打たれてしまいます。その後も釜元豪にソロHR、福田秀平に2ランHRを打たれ、結果としては2アウトは取れたものの最後の1つのアウトを取ることができず、4番手のチェン・グァンユウに交代してしまいました。
2イニングを無失点に抑えた東條ですが、3イニング目に計5失点してしまい、チームは11-1で大敗。試合後、Twitter上では東條に3イニング目を託した井口資仁監督並びに吉井コーチを批判するツイートが多く溢れました。
ここからは現在のリリーフ陣をタイプ分けしながら、東條の3イニング目の是非について書いていこうと思います。
まずは肝心の東條大樹。右サイドからの独特な球筋のストレートと好調時のキレの良いスライダーが持ち味であるものの、好不調の波があり安定感に欠ける点や対左打者相手に対する投球の質などの点から勝ちパターンを任せたり、僅差の試合を託すのには残念ながらあと一歩足りないという微妙な投手と言わざるを得ません。そうなると、ロングリリーフが可能かどうかで彼の起用の幅が変わってくるでしょう。
現在、主にロングリリーフを任されている投手は酒居知史、種市篤暉、チェン・グァンユウの3名です。冒頭に挙げたように、現在マリーンズは先発投手陣に苦しんでいます。上記3名は元々先発投手であり、このようなチーム状況が続くのであれば現在ブルペンにいる彼らが次の先発候補となっても何らおかしくはありません。
そうなった時に、東條がロングリリーフもできて彼らが先発に回った穴を埋められるのかどうか。これを、まだローテーションが完全に崩壊する前の現段階でテストできたことは非常に大きいのではないでしょうか?結果としては残念なものになってしまいましたが、2イニング目までは抑えており、起用する吉井コーチとしては「2イニングなら東條に託せられるだろう」という目処が立ったのと同時に、東條にとっては3イニング目に相手をどう抑えるのか?という課題が浮かびました。チームのこと、また東條のことを考えたときに、現段階でのある程度の目処が立った今回の登板は非常に有意義なものとなったことに違いありません。
ちなみに、東條がホークス戦で投じた投球数は61球。先発の有吉は54球で降板しているため、有吉よりも投げたことになります。しかしながら2イニング終了時点では無失点であることに加え、投球数も34球と、これを見たら特段3イニング目を投げさせることに違和感を感じないのは私だけでしょうか?
それでも違和感の抜けない方のために、もうひとつ。昨年、東條は二軍戦でシーズン中盤から後半にかけて先発をしていた時期がありました。中には6イニングを投げた試合もあり、昨年から長いイニングを投げる訓練を積んでいたと言えるでしょう。昨年、二軍コーチとして東條の先発を現場で見て、今季から一軍に配置転換された川越英隆投手コーチが東條のロングリリーフにGOサインを出した…という可能性も考えられるかと思います(結果としては残念なものになってしまいましたが…)。昨年から長いイニングを投げる訓練を積んでおり、それをコーチもしっかりと現場で見ているのにも関わらず、ホークス戦の結果のみを見て「東條はショートリリーフタイプ、3イニングも投げさせるのは酷だ」とファンが決めつけるように言うのは、東條の投手としての可能性を狭めてしまうことに繋がるのではないかと思います。
これがもし、東條にロングリリーフとしてのテストをしないまま投手陣の配置転換が行われた場合、ぶっつけ本番で東條に長い回を投げさせることになってしまった可能性もあるわけです。東條の心と体の準備のためにも、配置転換が行われる前のこの段階にテストしておいたことも含めて、やはり非常に有意義だったように感じます。
また、現在二軍に降格した高野圭佑も、オーバースローとサイドスローという差こそあれど東條と似たようなタイプであり、ロングリリーフが可能かどうかで大きく変わる投手です。高野は降格後、二軍戦に先発登板し、2イニングを投げました。推測ですが、今後先発かリリーフかはわからないものの高野も長い回を投げる訓練を二軍で積むのではないかと見ています。
では、ここでもう1人の投手にクローズアップしたいと思います。
先程、酒居や種市、チェンは先発に回る可能性もあるといいましたが、もう1人先発に転向してもおかしくなさそうな投手がブルペンにいます。ここまで名前が出てくることなく、この段階で既に違和感を覚えている方もいらっしゃるかと思いますが…。
昨年も二軍で先発調整をしていた西野勇士。彼は先発に回るどころか、ここまでシーズンに入ってロングリリーフすら経験していません。
今季の西野ですが、長年抱えていた肘の不安が癒えたのか、球速も上がり、かつての代名詞フォークも復活しつつあるように見えます。ここまで5試合、毎試合1イニングずつ登板しています。現在、1イニングのみの登板を重ねているのは、西野の他に所謂「勝ちパターン」の投手しかいません。
現在のマリーンズの所謂「勝ちパターン」の投手は、冒頭にも挙げましたが松永昂大、唐川侑己、益田直也の3名。このうち、昨年60試合に登板した松永と70試合に登板した益田には勤続疲労の影響がシーズン中盤から終盤にかけて出てもおかしくないかと思います。また、唐川は昨年途中からリリーフに回ったものの、本格的にリリーフとしてシーズンを迎えるのはこれまでのキャリアの中で初めてです。3人とも現段階では安定感のある投球を披露してくれていますが、この3人に“絶対の信頼”を置けるかと言われると、まだ微妙であると言わざるをえません。
しかしながら、西野はかつてマリーンズ、更には侍ジャパンのクローザーも務めた投手です。肘の故障で重要な場面を任されることは少なくなりましたが、その肘が癒えてかつての輝きを取り戻した場合、彼らをサポートする投手としてはこの上なく心強い存在になり得ると思います。それを想定して、吉井コーチは限りなく勝ちパターンの投手に近い使い方をしているのではないか?と推測します。そして、西野のみならず、昨年クローザーを務めた内竜也や新外国人のジョシュ・レイビンのコンディションが良くなり、ドラフト2位ルーキーの東妻勇輔や昨年松永の代役として侍ジャパンにも選ばれた成田翔など、現在二軍にいる投手たちが一軍に上がってきて、松永、唐川、益田らをサポートできるようになった時、福岡ソフトバンクホークス並の盤石なブルペン陣を形成できるのではないかと見ています。先発が早い回で降りようと、延長戦にもつれようと、圧倒的なリリーフ陣の数と質で試合を崩さずに制してきたホークスのような…。そのようなブルペンを形成できるようになった時、レベルの高いパ・リーグにおいても優勝争いに加われるのではないでしょうか?
ここまでほとんどを推測として書いてきました。このうちどこまで吉井コーチが計算しているかは吉井コーチにしかわからないかもしれませんが、東條や高野に長い回を投げさせようとしていたり、一方で西野には1イニングの登板を続けさせるなど、徐々に投手の扱い方から吉井コーチの目論見が見えてきました。今後もマリーンズの投手陣、ならびに吉井コーチの運用から目が離せません。