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習志野野球に見る、高校野球における「準備・確認」の大切さと夏に向けての課題

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。久しぶりの投稿になってしまいましたね。春はどうしても忙しくなってしまいますが、ぼちぼちnoteの方も更新していければと思います。

さて、皆さんは春の選抜高校野球大会はご覧になられたでしょうか?強打者・石川昂弥選手を擁する愛知・東邦高校が千葉・習志野高校を6-0で下し、見事優勝を成し遂げました。惜しくも決勝で敗れはしたものの、2011年夏以来と久しぶりの甲子園出場となった習志野高校は準優勝と大健闘。千葉県民である私も大変感動しました。感動というのは、単に習志野高校が関東の、そして千葉の代表としてセンバツに出場し、決勝の舞台で戦ったことに対してももちろんですが、現チームの試合を昨年の秋から観戦してきた身として、誠に失礼ではありますがとてもこの結果は予想できなかったからというのもあります。正直なところ、「センバツに出場することができても2回勝てたら良い方かな」と思っていましたし、組み合わせ抽選の際に2回戦で石川・星稜高校と大阪・履正社高校の勝者と対戦することが決まった際には、素直に「やべえ」と思ってしまいました。

大会が始まる前から雑誌や新聞などのメディアで注目された星稜高校の奥川恭伸投手や横浜高校の及川雅貴投手、また先程も名前を挙げた東邦の石川昂弥選手のような、現段階で既にプロ志望届を提出すれば上位指名濃厚のプレーヤーがいるわけでもなく、むしろ旧チームから主力だった選手はセンターを守っていた根本翔吾選手と2,3番手の投手として登板していた飯塚脩人投手くらいでした。スタメンの中にも下級生が多く、他の高校に比べてズバ抜けて戦力が充実していたとは言えず、それどころか劣っているようにも感じます。では、そんな習志野高校がなぜ決勝まで駒を進められたのか?本日はこちらをテーマに書き進めたいと思います。高校野球界ではもちろん、少年野球からプロ野球にまで通じる「勝利の哲学」が秘められていると個人的に思いますので、野球に携わる多くの方に読んでいただけたらと思います。

準備・確認

飛び抜けて凄いと言える選手がいなかった習志野高校ですが、この「準備・確認」は今回の出場校の中でも飛び抜けて徹底されていたのではないかと感じます。千葉県の高校野球を見ている方ならよくわかると思いますが、習志野高校は試合前にグラウンドを歩きながら小石を拾ったり、その日のグラウンド状況を入念にチェックしています。各ポジションでのボールの見え方や土・芝の状況(ボールの跳ね方・転がり方)などを、試合前の時間やシートノックの時間を利用して徹底して確認し、試合に向けての準備を入念にしています。
また、チーム全体で相手の練習やシートノックを観察し、どこに隙があるのかを試合前に確認しています。特に三塁ベースコーチを務めた佐々木駿太選手と、記録員を務めた小杉秀次朗選手(正確には選手ではありませんが、自分はあえて選手と呼びたいです)の2人はこの準備・確認のスペシャリストだと思います。練習時から味方のプレーに対しての確認を怠らず、目配り・気配りをして気づいたことをプレーヤーに伝えるなどしているようです。相手の隙を突いて先の塁に進み、そして得点する習志野野球においてこの2人のチーム内の貢献度はレギュラーメンバーと同じかそれ以上だとも思っています。余談ですが、個人的に習志野高校のベースコーチと記録員はレギュラー級の名誉と責任のあるポジションだと思います。
今大会でそれを特に象徴するのが、根本翔吾選手の2つの好走塁かと思います。1つ目は、初戦の日章学園戦でリードの大きかった2塁走者の根本選手を牽制した相手捕手の送球が根本選手のヘルメットに当たってレフトに転がり、根本選手が一気にホームインした走塁です。恐らくベースコーチの佐々木選手と走者の根本選手、あるいはチーム全体として、シートノックでの相手レフトのチャージの甘さ、送球の質を共有しており、そこに根本選手の走力・走塁センスを練習時から把握していた佐々木選手が「行ける」と判断し、躊躇なく腕を回したからこそ生まれた“神走塁”でしょう。2つ目は、準決勝・明豊高校戦で角田勇斗選手と決めたダブルスチールです。一塁走者の角田選手がディレイド気味に少しスタートを遅らせて二塁に進み、それを刺そうと相手捕手の送球が高くなったのを見るや否や三塁走者の根本選手がホームを突いたこのシーン。根本選手は試合後に、

「キャッチャーの送球に高さが出ていた。いけると思って、自分の判断でいきました。日頃の練習の成果が出た」

と語っています。
もうひとつ光るプレーを挙げるとすれば、準決勝の明豊戦での兼子将太朗選手のタイムリーの際に飯塚脩人選手がホームインしたところでしょうか?明豊のレフトの選手は本塁突入を警戒して予め前進守備を敷いており、さらにそこから三遊間を抜けた打球に対してチャージをかけたものの、佐々木選手は迷わず飯塚選手をホームに突入させ、追加点を奪いました。佐々木選手はここでの本塁突入に関して、

 「(明豊左翼手・野上は)肩が何かおかしい、とずっと思っていたんです。調子が悪いのが分かってましたので勇気を持って腕を回しました」

と試合後に話しています。自分のチームの選手の走力と相手の守備力、その時々の場面や状況・試合展開、さらには天候やグラウンドコンディションなどを入念に確認し、頭の中に入れていなければこのシーンは生まれなかったでしょう。このようにして得た小さな1点が、試合を動かし、決定づける大きな1点となったのは言うまでもありません。

また、習志野はチームとしてゲームプランニングが非常に上手いと、この大会で改めて感じました。やや力の劣る2年生左腕の山内翔太投手やアンダースローの岩沢知幸投手が先発する際は、まるで自分たちが力不足であるのを認めるかのように序盤の失点は覚悟し、その失点に動じることなくゲームを進める。その中で、相手が隙を見せた瞬間を突いて得点。「奇策」と言われるようなプレーを交えて相手の混乱を招き、浮き足立ったところをさらに捉える。畳み掛ける場面では一気に畳み掛ける。場面に応じてリリーフの切り札・飯塚投手にスイッチして相手打線を封じ、最終的には習志野がリードして試合を終える。こうしたことをさも当然かのように毎試合こなしていました。特に大会中のサイン盗み疑惑騒動や美爆音クレーム騒動、Wキャプテンの一角で主力の根本選手の故障離脱など、本来なら動揺して戦意を喪失してしまってもおかしくない状況下で普段通りの落ち着いた試合展開で試合に勝つ姿を見たときは、彼らは本当に高校生なのだろうか?と軽く疑ってしまいました。それも日頃からの準備・確認の成果なのかと私は思います。

夏に向けて

習志野の選手たちにとっては今回のセンバツを通じて自分たちの野球・小林徹監督の野球が決して間違っていなかったことがわかり、今後の自信に繋がった大会となったのではないか?と思います。
大会ナンバーワン投手と言われていた星稜の奥川投手と対峙しても隙を突いて3点を奪取出来たこと、そして飯塚投手が抑えて勝利したこと。また、星稜戦の試合途中から市立和歌山戦にかけて、チームの主力である根本選手を欠きながら勝利できたことで、チームとして更に大きく成長できたのではないかと感じます。

習志野高校には是非とも今年の夏に再び甲子園に帰ってきてもらい、今度こそ優勝を狙ってほしい…と言いたいところですが、夏の千葉県大会を制覇することはそう容易くありません。千葉県の高校野球の恐ろしく、また面白い点は、この習志野高校ですら夏に甲子園に行ける確率が決して高くはないという点ではないかと思います。

豪腕・根本太一投手など好投手を揃え、春から夏にかけて大きく成長する木更津総合高校。昨春・夏と甲子園に出場し、秋の千葉県大会でも習志野高校を破った中央学院高校。最近再びリクルートと育成が実を結び、好選手を揃えるようになった成田高校。習志野と同じく佐倉シニアの好選手が多く在籍する強打の東海大市原望洋高校。野球応援のライバル校であり、秋の県大会でも接戦を演じた拓殖大紅陵高校、隣の市立高校でかつて小林監督も指揮していた市立船橋高校などなど…習志野高校のライバルとなり得る高校は数多くあります。また、一冬を越えて多くの好投手が生まれるのも千葉県の特徴で、今年も既に公立校に140キロ級の直球を投げる好投手が何名かいるという噂を伺っています。

選抜の決勝で石川昂弥選手に投打で完璧にやられてしまったように、個の戦いになるとどうしても弱さが出てしまうのが現状の課題かと思います。習志野の強みでもある相手の隙を突く野球も、隙を見せないような相手であったり、少しの隙を投打のポテンシャルでカバーできてしまうような強敵には限界があります。現在のスタイルはそのまま、各選手が夏までに投打の対決でどこまで成長できるか?ここが、まず習志野が再び甲子園に出場するためのキーポイントであると感じます。

そして、今大会では好投を披露し続けてくれた飯塚脩人投手ですが、夏の暑さと日程次第ではこのセンバツでの投球とかけ離れた投球になってしまうかもしれません。厳しい言葉かもしれませんが、千葉の夏は飯塚投手1人に頼って勝てるほど甘くはないと感じます(これはもちろん千葉県内の他校にも言えます)。サウスポーの山内翔太投手、アンダースローの岩沢知幸投手も今大会では大きく貢献してくれたと思いますが、彼らの更なる成長と投手の枚数確保も課題になるかと思います。今大会では登板のなかった山本慶都投手、センバツではベンチを外れたものの秋の県大会では背番号1をつけていた杉山隆玄投手ら3年生投手の成長、さらには2年生やこの春入学する新1年生投手の台頭が飯塚投手を、習志野野球部を助けることになると思います。

まさに「雑草の如く逞しく」甲子園で躍進してくれた習志野高校。ブラスバンドの美爆音だけでなく、野球でも観客を魅了してくれました。ここから夏に向けて厳しい戦いが始まりますが、更に成長した姿で千葉県の高校野球界をより一層盛り上げてくれることを期待したいと思います。



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