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[SF小説]やくも すべては霧につつまれて13

「…地球環境に適合できなかった、ということはつまりヴァンパイアは宇宙人、ということですか?」

先ほどとは別の人物が質問をする。宮内はゆっくりとこう答えた。

「…ええ、そういうことになります」

一気にざわつく室内。皆うすうすと感じていたことではあったが、改めて断言されると現実をうまく飲み込めないようだ。

「ヴァンパイアがどこから来たのか、現状判明していることを話します。まず重要な点として、この太陽系が連星であるということは皆さんご存知でしょう」

連星、それは二つの恒星が両者の共通の重心の周りを公転している天体のことだ。地球を含む太陽系において太陽の周りを地球が公転しているように、中心の太陽のまわりをもう一つの恒星が公転していることはこの世界では誰もが知っている。

「地球がそのまわりをまわっている太陽とは別の、もう一つの太陽、通称ツヴァイユは冥王星軌道よりもはるか向こう、太陽から百九十六億千米離れたところを公転しています。我々の太陽が八つの惑星を持つように、ツヴァイユも三つの惑星を抱えており、中心から順にリオラ、テリオン、サトラーゼと呼ばれているのはご存知でしょう。ヴァンパイアが来たのはその二番目の惑星、テリオンからです」

「テリオンというのは、あの生命が存在しているかもしれないといわれている星のことですよね?」
 「ええ、そうです」

簡潔に質問に答えた宮内は、画面に新たな映像を映し出す。それは今話題に上がっているテリオンの衛星画像であった。

「テリオンは地球が太陽から適度な距離を保っているのと同じように、テリオンはツヴァイユから適度な距離を保っているのです。そしてヴァンパイアはそこで生まれた知的生命体だということです」

「つまりヴァンパイアはテリオンから来た宇宙人で、地球にやってきたはいいものの地球の環境に適応できずに人類に負けたと…」

ここまでの話に納得した暁が腕組みしながらつぶやく。

「まさにその通りです。現状どのようにヴァンパイアが敗れたのかは諸説あるところですが、地球侵攻開始から約半年ほどたった段階でヴァンパイア軍の攻勢が衰えてきたといわれています。それに乗じて、人類側もヴァンパイアの有する兵器を鹵獲するなどして抵抗しました。このころには各地で乗り捨てられたヴァンパイア軍の戦車などが各地に転がっていたといわれます。激しい侵攻の爪痕とともに残されたのは大量の残骸とヴァンパイアの死体でした。のちに彼らの死因のほとんどは戦死ではなく、病死であったとの記録が残っています」

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