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若い料理人のための食器案内 その2何をどこで買えばよいのか?

この記事のまとめ
現代の焼き物をギャラリーで買う。磁器ばかりを使わない。肩書は当てにならない。以上。

能書きを読みたい人は以下お読みください。

・まずは現代の焼き物を買おう

料理屋さんの場合、骨董はとりあえず考えなくて良いでしょう。手頃な値段でまずまず使えるレベルの骨董もあります。しかし状態(要するに綺麗さの程度)が千差万別なので店で客に出しても良いものか判断する必要がありますから、ちょっとした経験が求められます。古陶も新陶も同じ焼き物ですし焼き物の魅力を学ぶには新古問わず興味を持つことは必須ではありますが、紹介しにくいため申し訳ないですがこのページでは扱いません。
ということで取っ掛かりとしてまずは現代陶です。焼き物の世界も美術の世界ですから、歴史的に積み重ねられてきた美意識というものがあります。これは私の好みもありますが、現代陶といえどもその基準にしっかりと則ったものか、少なくともそれらに依拠したものを紹介したいと思います。そして食器屋さんではなくギャラリーで扱っている作家物を使ってください。


・なぜ作家物か?

焼き物は最後に焼成の工程がありますので完璧に出来上がりをコントロールするのが難しい類のものです。特に高いレベルを求めれば、弾かざるを得ないものもいくらか、場合によってはかなり出てきます。陶芸家がよく器を割っているシーンはこれです。どうしても出来の良くないものが一定数出てくるものです。また原料も望んだ性質のものがふんだんに手に入るとは限りません。こういった性質を持つためレベルの高い同じような器を安定して大量に作るのはかなり難しいので、現代で良い器といえば概ね少量生産の作家物ということになるのです。歴史的には高品質大量生産の窯がいくつか存在する中国宋時代のような頃もありましたが、現代は残念ながらそのような時代ではありません。


・磁器以外に目を向ける

磁器は使い勝手の良い焼き物です。硬く、汚れず、白くて料理を邪魔しないか、絵付けが施してあり多様なシチュエーションに応じて使い分けることができる。特に清潔感があるというのは料理屋にとって大きなポイントでしょう。
しかしながら使いやすさに甘えて磁器を使うべきでないものに対してもむやみに使っている場面が多いように感じます。しかも日本の歴史に目を向ければ、美しい焼き物として高い評価を受けてきたのは磁器ではなく主に室町や桃山時代に作られた一群の陶器です。特に食器においては美濃、唐津、備前の3つがその代表と言えるでしょう。この3つは桃山時代にはハイエンドの食器を作っていたという歴史のある産地です。また中国、朝鮮から招来されたものに関しても磁器以外に素晴らしいものはたくさんあります。室町から桃山時代と言うのは日本において焼き物の文化が隆盛を極めた時代であり、総花的なことを言って初心者の方を惑わせたくないのではっきり言いますがこの時代の洗礼を受けていない焼物はどうしても及ばない部分があると個人的には感じます。確かに江戸期でも仁清、乾山の色絵などは良いものはありますし、その写しを使う料理屋さんは多いですが現代のもので良く出来たものはほぼありませんのでこのページでは扱いません。
以下では美濃、唐津、備前、朝鮮及び高麗、中国に分けて紹介していきたいと思います。これら以外に良いものがないとは言いません。ただ、まずは王道を知ってもらいたいのです。
これらの中には和食以外にも活用できるものは多くありますので、参考にしてください。例えば西洋料理では殆どの店が西洋風磁器一辺倒ですが、宋時代以前のスタイルの落ち着いた中国系のものや和物でも文様のないピシッとした造形のものなどは使えるものが多くあると思います。また、酒器も独立した項目を設けて紹介します。


・美濃、備前、唐津の共通点

これらは良い焼き物といえども、江戸時代以降は有田や瀬戸での磁器の生産が盛んになります。理由は複数あるでしょうが、いずれの焼物も大なり小なり汚れがつくことも大きな理由でしょう。備前や唐津は物によっては磁器と殆ど変わらないような感覚で使えるものもありますがおしなべてそうだとは言えません。ですから使う際には用途にあった器を自分で選んで買わなくてはいけません。料理の性質に適した器を使う。そういう気遣いを食器を選ぶ時に持ってほしいと思います。


・ギャラリーで買う

具体的な技法や作家の紹介は後でします。ここでは買いたい作家が決まってからの話です。まず個展の時期を調べましょう。だいたいネットでわかります。ギャラリーによっては常設展示もありますが、個展は一度に同じ作家のものが数多く並ぶため好きなものを選ぶことができます。
上に書きましたが、磁器以外のものは焼き締まりや汚れの残り具合などの使用感が千差万別です。ですから経験のないうちは素直にギャラリーの人に聞いてみてください。個展の期間中には作家が在廊する場合もありますので本人に聞くのも良いでしょう。例えばこういった汁気のあるものを盛りたいけど、どのくらい染みるか、どの程度汚れるか気になるとかいえば、適したものを教えてくれるはずですし、どのように取り扱えばよいか洗い方や乾燥の方法も教えてくれるでしょう。ギャラリーは近寄りがたいかもしれませんが、実際はそんなに気張らなくてはいけないところではありません。こういった使い方に関する質問にはちゃんと答えてくれるはずです。なぜなら焼き物に詳しい人でも一見して使い勝手を見抜くのは難しいものだからです。ただし扱っている本人もよく知らないというケースもありますが…
また使い方だけではなく、どれの出来が良いかストレートに聞いても良いでしょう。「なぜ作家物か?」でも説明しましたが、どうしてもばらつきがあります。一番良いものを100とすればどうしても70のものも並んでいます。作家やギャラリーのスタンスにもよりますが、意外と素直に答えてくれます。はぐらかされることはあるかもしれませんが、少なくとも騙されることはないでしょう。反応が良ければ、他の同手の作品と比べてどういう部分が勝っているのか聞いてみても良いでしょう。
気に入れば実際買ってみましょう。幸いなことに食器は比較的安価な値付けをされています。若手から中堅では5,6寸の皿ならば5000円から1万円の間くらいです。小皿ならば2000円くらいからあります。取り扱いのことを聞くことは出来ますが、自分で使ってみればどのような使い方が良いか実際に試すことが出来ますのでまず皿一枚でも買ってみることをおすすめします。
あと注意する点としては作風が幅広い作家もいますので、その時お目当てのものを作っていない可能性もあります。直近の個展を紹介したサイトなどを見ることをすすめます。

・作家を選ぶ

結論から言えば指標は有りません。誤解を恐れずに言えば、何代目とか展覧会で受賞とか人間国宝とか勲章とかは無視してもらって構いません。下らない大御所もいれば、素晴らしい若手もいます。高いものが良いとは思わないでください。具体的な作家を次の記事から紹介したいと思います。

写真の出典:https://webarchives.tnm.jp/

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