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若い料理人のための食器案内 その1 まず初めに

テレビで紀行番組を見ていたり、料理屋さんに行ったりするとどうしても目につくところがあるのです。器のことです(このページでは主に焼き物のことを扱います)。
器に目をやってみれば、お世辞にも良いとは言えない、使いやすそうな量産品かなんとなくの感性だけで選んだような物がほとんどです。昨今、日本の料理のレベルは高いとよく言われますし、たしかにそうなのでしょう。盛り付けもそうかも知れません。にもかかわらず器を勉強して、それを使用している料理人があまりにも少ないことは非常に残念なことであり、よりよい食事体験を提供するチャンスを失っていると言いかえることもできます。しかも日本には世界でもまれな多様で質の良い器の文化があるにも関わらずです。


・一流店は盛り付けも上手い… がしかし…

しかしながら食器は美しさだけでなく使いやすさも重要な要素であり、日常生活ではそれが最優先されるのかもしれません。ですがせめて高い料理屋さんだけでももっとちゃんとしたものを使ってもらいたいと思うのです。
確かにそういった一流店では盛り付けのレベルは高いですし、一見して美しい見た目を実現できているところは多いと思います。

しかしながら、下らない器が目につくというのは実はどれだけ高い料理屋でもほぼ当てはまるのです。いわゆる高級料亭でも、三ツ星でも3万円からの店でも大体そうです。

これは器の物足りなさを上手に修飾する術を身に着けているから食器に興味を持たない人には気付かれず見過ごされている状況と言えるでしょう。料理人には志を高く持ってほしいと思います。95%の客にはわからないから食材を落とそうとか、工程を抜かそうとか思う料理人はもちろん一流とは言えないでしょう。でも器に関しては気持ちはどうあれ結果としてはこれと同じことが起こっているわけです。

また料理を盛り付けて器が完成するとか言われることがあります。ただ、これを誤解している人がいるような気がするのです。拙い器でいくら上手に盛り付けても本当に良いものにはなりません。拙い器と落ち着いた器を混同してはいけません。レベルの高い器でも料理の邪魔をしない類のものが数多くありますし、そういうものを使ってこそ本当にレベルの高い盛り付けを実現することができるでしょう。またレベルの高い器≠主張の強い器です。もう一度言いますが、拙い器と落ち着いた器を混同してはいけません。国宝の茶碗を見てみてください。一見して主張の強いものは建窯という一群の窯で作られた天目茶碗くらいのものです。


・どこから手を付ければ良いのかわからない料理人へ

とにかく素晴らしい料理を提供しているにも関わらず、真に高いレベルで提供できていない料理屋さんを見るにつけ歯痒い思いをします。これは誰のせいなのでしょうか?私は最初、ただ勉強不足の料理人が悪いと単純に考えていました。しかし自分が陶磁器を全く知らない頃を思い返せば意外と最初の取っ掛かりが少なかったのも事実です。特に若い料理人は料理のことだけで精一杯かもしれません。問題意識があっても限られた時間の中でどこから手を付ければよいかわからないという方もいるかと思います。実際ネットで検索してもなかなか良いページがヒットしません。特に高級な料理屋で使うべき物を総覧するようなページは皆無です。また書籍でも盛り付けを扱った本はありますが、現在買える良いものを利用したものは見当たりません。そこでまずはこのページではその最初の取っ掛かりとなるような情報を提供したいと思います。ただし焼き物を理解するためには、結局の所様々なものを見たり購入して、それぞれ比較したり、良いとされるものと比べてみたりすることが必要ですから、まずはじめの一歩としてこのページを活用していただければ幸いです。


写真の出典:http://webarchives.tnm.jp/

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