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『傲慢と善良』を読んで久しぶりにくらった話
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
『傲慢と善良』を読了した。
2023年読んだ小説の中で現在トップ。堂々の一位である。読書メーターにも書いた。
こうやってiPhoneのメモに文字を打ってる最中でも心が揺れている、フワフワした感覚に囚われている。
「何がそこまで良かったのか」流石に吐き出さないと、この名前のない感情が消化できないため乱文になるのを恐れず筆を取った次第である。
はじめに断っておくが、人様に見せれる文章に昇華できる自信もない。蛇足だが消化と昇華をかけているつもりもない。
というわけでネタバレなしでどこまで書けるかの勝負、このnoteを読んでくれた諸君と私との勝負である。すこしでも興味を持ったらあなたの勝ち。別にいいや、と少しでも思わせてしまったらわたしの負けである。
とごちゃごちゃ書いているが勝ち負けは最初からどうでもよく、あくまで文字数を稼ぐためのやり取りに過ぎない。目に見えるものが全てじゃないのだよ。
そして結果的にこの小説は
「どんな自己啓発本よりも刺さる。」
本題。
まずはこの本、作者との出会いについて。
本屋にいくと必ず目立つところに「辻村深月」の文字が飛び込んでくる。どの小説も装丁が素晴らしく目を引くものばかりだ。たまらずページを捲ってしまう。そんな中、本作のタイトルの「傲慢」という部分に強く惹かれた。
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下記にネタバレをしない程度に内容をまとめてみた。
ここがすごい① 書き出し
良い小説は書き出しが秀逸である。
「春が二階から落ちてきた。」 伊坂幸太郎/『重力ピエロ』
「さびしさは鳴る。」 綿矢りさ/『蹴りたい背中』
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」川端康成/『雪国』
「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」夏目漱石/『吾輩は猫である』
とまあこんな感じで物語の良し悪しの8割は冒頭の書き出しで決まると言っても過言ではない。いや、過言である。
次が本作の書き出しである。
「夜の中を、彼女は走っている。」
良い。非常に良い。
夜の中、夜中なのか?夜の中って何なんだ?
というフックがすでに物語の中へ引きずり込まれる。
<あらすじ>
<坂庭 真実(まみ)>は、ストーカー被害に遭っていた。
「架くん助けて。あいつが家にいる。」
と、<西澤 架(かける)>に電話で助けを求める。
急いで駆けつけた架。
抱きしめた彼女は、恐怖で震えていた。
その、二ヶ月後。彼女は失踪する。
警察に捜索願を出すものの、まともに取り合ってくれない。
彼女は果たしてどこに消えたのか?
彼女が部屋に残した婚約指輪の意味とは?
とまあざっくりこんな感じか。
あまり内容を書き過ぎてしまうと読む気を削いでしまうため、このくらいにしておく。
ここがすごい② 現代の恋愛観について
作中で架、真実の2人はマッチングアプリで出会っている。婚約も交わしている。
でもよく考えると
「マッチングアプリで出会った人って生い立ちよくわからないよね」
「本当の性格とは、猫は被ってないか」
「他に何人とやり取りしているのか」
という疑心暗鬼にも近い心の動きを本書では、余すことなく書かれている。一言でいうなら社会人の恋愛である。
ここが面白いところ。学生の様に場が用意されているわけでなく、自分で掴み取りに行く社会人の恋愛、いや、婚活の難しさについて書かれている。
ここがすごい③ 言葉巧みな心理描写
登場人物の2人(架、真実)の深掘りと、心の動きが恐ろしいくらい詳細に描かれている。焦り、苛立ち、興奮、狂喜、悲哀。人間の感情をここまで、これまで、これでもかと書かれている。あまりにも現実味が凄まじいため、読んでいるこっちも思い当たるフシが、というよりもあまりに直接的な表現のため、正直心がえぐられる。
ここがすごい④「井の中の蛙、大海を知らず」
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本作ではキーワードとなるこの諺(ことわざ)。とにかく新しい場所に行きましょう。
書を捨てよ、街に出よう。
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窪塚洋介はかっこいい。ARATAはガチ。
<余談>
既存の考え方、見え方に捉われないミキサー問題的な考え方も必要なのかもな。
あなたの体が5セント玉くらいの大きさに縮んで、ミキサーの中に放り込まれました。体は縮みましたが、密度は変わりません。60秒後にミキサーの刃が動き始めます。どうしますか?
ここがすごい⑤ 本質的言及
例えば「ピンとこない」の感覚。
本作ではこのキーワードが何回も登場する。
ここだけはどうしても引用させてもらう。とは言っても別に物語の内容に直接影響するわけでは無い。
だが、あまりにもエグすぎたので引用した一節を記した。
「ピンとこない、は魔の言葉だ。それさえあれば決断できるのに、その感覚がないからどれだけ人に説得されようと、自分で自分に言い聞かそうと、その相手に決められない。」
「ピンとこない、の正体は、その人が、自分につけている値段です」
「ピンとくる、こないの感覚は、相手を鏡のようにして見る、皆さんご自身の自己評価額なんです」
いや、あまりにもグロテスクかつ恐ろしすぎる。「ピンとこない」という古来からある抽象表現を言語化しないで欲しかった。顔面を平手打ちされた様な感覚である。
まとめ
⭕️『傲慢と善良』は装丁が美しい
⭕️現代の婚活の苦悩について書かれた作品
⭕️おそらく2年以内に映画化
⭕️架と真実が誰になるか楽しみ
⭕️巧みなる心理描写
⭕️どんなホラー映画よりも人が怖い
⭕️好きな人がいるっていいなって思う
⭕️恋愛と婚活の具体的な違い
⭕️読後感がダントツで良い
⭕️自分の値段
⭕️タイトルにある「傲慢さ」と「善良さ」
⭕️大恋愛
かなと。
駆け足になったけど以上で。
見つけたら是非手に取ってもらえると嬉しいです。古本屋なんかでも綺麗なやつ売ってるからそっちでもいいかも。
あーよく眠れそうだ。
2023/09/18
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