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いまだに謎すぎる、過去の嗜好がある。

本当に、心の底からマーガリンが大好きだった。いや、大好きという感情を持っていたかは確かでない。単なる習慣というか、「ないと落ちつかない」レベルだったと思う。

幼少期から18歳、大学に進学するまで私は愛知県で両親、妹たちと暮らしていた。実家の朝食では和食は皆無。ごはんとみそ汁が出たことは、一度もない。朝食は決まってパンとヨーグルトと卵料理と果物だ。

主食のパンは、食パンをトーストして食べるのが定番で、たまのお楽しみがスティック状のスナックパン。(10本くらいずつ袋に入ってる甘いあれ)6枚切りを1人1枚を食べていた。

そのトーストに塗るものが、そう、マーガリン。フルーツジャムも用意されていたけど、私は見向きもしない。マーガリン一択で、とにかく塗る、塗る、塗りまくるのが習慣になっていたのだ。

しかも、塗る量が半端でない。6枚切りトースト1枚分より、マーガリンの方が厚いという驚異的な量!もうそうなると、塗るではなく、マーガリンという塊を「乗せる」と言った方が正確だと思う。

つまり、私にとってマーガリンは調味料でなく具材なのだ。

恐ろしい。本当に恐ろしい。「ごはんを毎日茶碗2杯食べる」とか、「牛乳を毎日1リットル飲む」より、はるかに脅威ではないか…。

私のマーガリン熱は次第にエスカレートする。基本、マーガリンはトーストに塗るために作られているもの。しかし、私はあらゆるおやつにマーガリンを乗せて(塗るんじゃない)、良からぬマリアージュを楽しんだ。例えばプレーンのクラッカー。いや、プレーンならまだいい。チョコチップクッキーや、カスタードクリーム入りのマフィンにまでマーガリンをあわせる狂い様!

そしてついに私は母に要求する。「わたし専用の、マーガリン買って。」
!!


朝食の食卓には、普通サイズと、マサコ専用小さいサイズのマーガリン2つが並んだ。もうこれなら、家族に気兼ねすることなく、好きなだけ使えるんだ!イエーイ!そもそも今考えると、よく母は買ってくれたなあと不思議で仕方がないけど。

マーガリンでなく、バターという選択肢もあっただろう。でも、私の頼んだのはあくまでマーガリン。バターという高価格帯(と思っていた)の商品をねだるのは抵抗があったし、バターよりマーガリンの方が高カロリーと聞いていたこともその理由の1つだ。

おかしい。本当におかしい。どう考えてもこのクセは良いものではない。
(ちなみにここで言う「おかしい」は、愉快と変の両方の意味を含んでいる)

いろんな意味で体に良くないのはもちろん、経済的にもダメージは大きいはずだ。想像はつくだろうけど、その頃私の体型はかなり横に大きかった。身長158㎝、体重はピーク時、60㎏を超えた。経済的にダメージが大きいというのは、マーガリン代に加えて、服がサイズアップして、買い替える必要があったから。

痩せなきゃと私は内心焦ったが、単に「焦った」だけで、特別に何か取り組んだわけではない。しかも、なぜか

マーガリンをやめるという選択肢はなかった。

それくらい、1度身についた習慣から離れるのは難しい。違うこと、新しいことを始めるのは「気合い」がいるというけど、まさにこれ。

マーガリンから離れる行為は、その頃の私にとってはかなり大きな気合いが必要だった。体は「やりたくない」と言っていたのだ。

マーガリン狂からの卒業

それは、突然訪れた。大学進学で実家を出て、東京都内で1人暮らしを始めた私は、なぜかマーガリンからも自然と離れた。買う習慣がなくなった。急に好きでなくなった、というわけではない。

単純に、自分で自分の生活費(学生なので親からの仕送り)を管理するようになったからだ。毎月送ってもらえる〇〇円の中で、生活しないと!という思いから、マーガリンの優先順位は自然と下がっていったのだ。そして自然と習慣から卒業していた。特段、禁断症状的なのも出なかったと思う。

こうしてマーガリンを愛して止まなかった時期を思い出すと、なんだか懐かしい。あの頃の私は、とにかくハマった習慣=癖(クセ)について「良いか悪いか」考えることはしなかった。クセはクセなんだ、好きは好きなんだ。ただそれだけ。

読み方こそ同じだけど、まったく違う漢字「しこう」。


マーガリン狂だったころ、私は思考でなく、嗜好だけで生きていたのかもしれない。


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