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持つべきは、トラクター持ってる隣人/最強のネイバーに救われる【#17家にまつわるストーリー】

後日、再びパットが現れました。

「造園業者からの見積もりわかったかい?」

2か所の業者からもらった金額を伝えたら、彼は言いました。

「業者に頼めば、それぐらいだとは思っていたけど、私からすればぼったくりさ。芝張りやってあげようか?」

う〜ん。

ありがたい言葉ですが、困惑しました。日本円にすれば100万円規模の仕事をただ隣人というだけで、ご厚意に甘えるには虫が良すぎる気がして即答できませんでした。

返事に困っているとさらに続けました。

「隣人が、しょうもないお金の使い方するのを見るのは忍びないよ。たとえば、あなたが3分で直せるコンピューターの不具合、ボクが100ドル払って業者に頼もうとしていたら、あなたはその場で直してあげるっていうでしょ?」

なかなか、説得力があります。

彼にとっては、トラクターもあるし経験もあるので「隣人としてお助けします」レベルの話のようです。

ガーデニングが趣味なぐらいですから、広くて草ぼうぼうの地を綺麗にすることは苦ではないのでしょう。

とはいうものの、「業者にお願いするなら、思ったようにならないときには文句も言えるけど、親切でしてもらうならそうはいかないからどうしたものかねー?」と息子タロー。

確かに……。

「ほんとに厚意に甘えていいんかいな?」

と数日庭を眺めては迷っていたら、しびれを切らしたパットが様子を探りにやってきました。

草ぼうぼうの庭を眺めながら、半分だけ埋まっていた柱を見て、「あの柱はいったい何?」と指さしました。

夫が巨大なデッキを作ろうとして埋め込まれた柱だけど、亡くなってしまい、わたしの指示でデッキを縮小してもらったからその残骸なんですよ。取ろうにも地中深く埋まりセメントで固定されているのでどうしようかと思案にくれているところです」

すると、「取るのは簡単さ」とニッコリ。

「すぐに戻って来るからちょっと待っててね」

10分ほどしたら庭の裏道からトラクターで現れ、6本埋まっていた柱の残骸を次々に引っこ抜きました。

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いはやは、トラクターの威力スゴイ!!

日に日に伸びてくる雑草のために、家のまわりがどんどん草薮と化しているので、それに比例して虫も増え続けています。

わたしたちが、芝張りの件について、ちっとも返事をしないものだから、とうとうパットが言いました。

「とにかく、まずは家のまわりの草をとって整地してあげるから。それからどれぐらいの面積に芝を張りたいか考えれば?」

ここまで強く言われると、パットの厚意を断って業者にお願いしても、それはそれで角が立ちそうな雰囲気です。

業者よりは安めに仕事としてやってもらうなら少しは気が楽ですが、パットは悠々自適なリタイアメントライフを送っており、お金がほしくて提案しているわけではないので、受け取る様子もありません。

結局、ただ甘えることは心苦しいけど、材料代はきっちり請求してくれるように頼み、ご厚意に感謝してお願いすることにしました。

以来、每日のようにトラクターでやってきてはコツコツと作業をはじめました。あまりによく働くので、見ているわたしは申し訳ない気持ちになり、

「何かお手伝いできることありますか?」と尋ねると、

「座ってリラックスしていなよ。プリンセスになりたかったんだろ?」

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そう返されてしまいました。


先だって、よけいなことを話してしまったことをちょっぴり後悔しました。

米国では全ての材料が高騰していますが、長年地元でビジネスをしていただけあり、横の繋がりも豊富。どのツテで材料を買えばより安く買えるかもよく知っていて助かりました。必要な砂利、種、肥料や黒土などがどんどん配達されてきました。

家のぐるりは雑草が生えないように防草シートを敷き、砂利で仕上げます。

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砂利を均し入れる作業には、「○○ドルでバイトの若者を手配するけどいい?」とお伺いがきて、OKを出すとすぐさま連れてきました。

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雑草だらけだった庭がどんどんきれいになっていきます。

トラクターやゴルフカートが簡単に行き来できるように、お互いの裏庭を結ぶトレイルもできました。これでメイン道路を通らなくても歩いて隣に行ける近道が完成。

しばらくは、パットの気の向くままに現れたり、お休みだったり。地均しが終わり、8月の初旬には芝の種を撒きました。種を撒いたあとは、パットが持ち込んだスプリンクラーをセットして、種が乾かないように每日水をまきました。

そして、夏の間は朝と夕方、每日のように芝の生育具合を確かめに現れました。

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8月中頃に撒いた西洋芝はどんどん生育しています。冬を越して新しい春が来るころにはより美しいグリーンを見せてくれることでしょう。結局、大金がかかるはずだった芝が材料費だけで済みました。

最強のネイバーさんに恵まれてほんとうにラッキーでした。

「これだけのことをわたしたちにしてくれたんだから、絶対に天国行きね。わたしが保証するワ」

「それを狙っているから隣人を助けるんだよ。ワッハッハ」

芝だけでなく、庭の遠くに見えていたリンゴの木にたどり着けるように、トレイルを作ってくれたり、夫のメモリアルのための枝垂れ桜と八重桜を植えるときにも、大きな穴掘りを手伝ってくれました。

はじめのうちは、「どんな人かわからない」という警戒心から、お願いすることを躊躇していましたが、だんだん打ち解け、今のところいい関係でご近所付き合いができています。

歳を取ると人のためになることは、自分の喜びでもありますから、これからも隣人同士、助け合いながら暮らしていけたらいいなと思っています。


【#18 家にまつわるストーリー】に続く


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