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江戸の草双紙と漫画文化

 このレポートでは江戸の草双紙、中でも江戸中期に出版された黄表紙『金々先生栄花夢』について論じたい。  江戸中期は田沼意次が老中となり寛政の改革による文化の取り締まりがされる以前の江戸戯作の最盛期の頃である。本作は安永4(1775)年に江戸の書肆・鱗形屋孫兵衛から出版された黄表紙である。作者の恋川春町は倉橋格の武士で俳諧や狂歌を嗜み、草双紙の執筆活動を行っていた。従来の青本にはなかった風俗描写や社会風刺などを含んだ『金々先生栄花夢』の登場は当時の草双紙の内容が一変した第一級

    • 日本芸能の華「能」

      「能」とは世阿弥(1363-1443)が父親の観阿弥(1333-1384)と共に、当時の幕府から援助を受けて成立させた日本の伝統芸能である。能のルーツはシルクロードから中国を経て、8世紀ごろに日本の渡ってきた散楽である。百戯と呼ばれる雑多な芸能の寄せ集めであった散楽は大きく3つに分類すると曲技と幻術と滑稽芸であった。のちに日本の風土に合わなかった曲技と幻術は廃れていったが、滑稽芸はその後も日本で定着し散楽の代表芸となった。10世紀ごろには、滑稽芸主体の散楽が「猿楽」と呼ばれて

      • 日本の工芸文化

        造形意識の芽生え《火焔型土器》 ■『縄文土器』〜世界最古の焼物〜  土器とは粘土を野焼きして焼き上げる容器である。日本の縄文土器の出現は諸説あるが、約1万2000年前頃ではないかとされ世界最古の土器だと考えられている。縄文土器は時代の流行や地域の好みによってヴァリエーションが豊富にあり、様式の変遷を目安にして草創期,早期,前期,中期,後期,晩期の6期が編年されている。土器の意匠に独創性が発揮され始めるのは前期である。器の上端部分が波打つような形は早期からあるが、前期では精

        • カート・ヴァネガットと今敏

           過去の作家たちは写真や映画など新たな複製技術が発明され急速に社会に普及するなか「本」という媒体がどこまで書き手のリアリティを読者に伝えることができるのかという重要なテーマに直面したであろう。  ポストモダニズムの作家たちは言葉の信頼を揺さぶられるなか、リアリズムに次ぐ新たな表現としてメタフィクションという文学手法を用いた作品を発表する。こうした手法は20世紀以降、映画など幅広い分野で用いられ近現代の新たな芸術のジャンルとして注目されている。  メタフィクションの文学作品

        江戸の草双紙と漫画文化

          アップル製品はアートか?

           身近な芸術について考えた時、私はアップルのパソコンを想起した。2000年初頭の日本でも革新的なパソコンメーカーとして知られ新製品が販売される度にアップルストアに行列ができる様子がテレビやマスコミで取りあげられ一世を風靡されたアップル社。 中でもジョブズがプレゼンテーションを行った製品は美的テクノロジーと技術が融合したアート作品であると考える。その理由を製品について述べながら論じていきたい。  アップル社はアメリカ合衆国のパーソナル・コンピューターおよび周辺機器、ソフトウェ

          アップル製品はアートか?

          東京五輪エンブレム問題

          1.課題設定  本ブログでは東京五輪エンブレム問題を扱う。この問題を取り上げた理由は、当時メディアで大々的に報道されていたけれど、問題の本質が何だったのかを知らないと考えたことから選択した。今回は商標に関する法令の基準について論じると同時に世論の知財に対する認識にも注目して論じていきたい。 2.争点はなにか  そもそも、東京五輪エンブレムは何が問題だったのだろうか。それは、東京五輪のエンブレムがベルギーにあるリエージュ劇場のロゴを盗作が疑われたことである。ロゴやエン

          東京五輪エンブレム問題

          肉眼からの解放、記憶装置としての映像

          私たちは普段、毎日の生活の中で思い出を積み重ねがら生きている。しかし、全ての情報を記憶しているのではなく肉眼を通して見たイメージを主観的に解釈して脳に記憶している。そしてこれまで数々の芸術作品(文学、絵画、写真など)が作家の表現媒体としてだけでなく人間の思い出を記憶する媒体としても機能してきた。なかでも、映像が革新的な技術の発展によって誕生した時、これまで以上に人間の記憶の保存に関して非常に大きな進歩をもたらしたのではないだろうか。映像の原理が発見される以前の人々は正確にイメ

          肉眼からの解放、記憶装置としての映像

          アニメーションの可能性

           本稿ではアニメーションにおいての「一回性」を提起したい。そもそもアニメーションとは、動かない対象を動かし命を宿らせるという意味の言葉である。私たちの視覚は1秒間に24コマの絵を連続で投影されると絵が動いて見えるようになる。この原理はアニメーションだけでなく全ての映像において共通で実写はカメラを用いてレンズ越しに動いている対象ないし現象を撮影していくことで映像を作り出す。  しかし、アニメーションによって映像を制作することは容易なことではない。草創期のアニメーションは1コマ

          アニメーションの可能性